民医連新聞

2023年7月4日

ケアに希望ある未来を① 介護の価値を認める制度へ

 コロナ禍でケア労働の重要性が理解された一方、低い処遇やぜい弱な体制の改善は不十分です。今回から「ケアに希望ある未来を」と題し、多職種の処遇改善をテーマにシリーズで伝えます。第1回は介護現場です。(稲原真一記者)

2つの分断生む制度

 介護職員の処遇の低さは以前から指摘されてきましたが、現在でも給与は月収で全産業平均(手当や残業代含む)より、7~8万円低いことは変わりません。昨年、岸田首相の主導で「介護職員処遇改善加算」が始まりましたが、民医連は制度開始前からさまざまな矛盾を指摘しました。
 制度は「一人9000円の賃上げ」を標榜して始まりましたが、実際には病院で働く介護職員やケアマネジャーは対象外。さらに事業所ごとで加算率が異なり、職員数も実数ではなく常勤換算のため、実態は6000~7000円の賃上げにとどまっています。手続きの煩雑さや、処遇の差による職員の分断を危惧して、加算を申請しない事業所もあります。
 加算は利用者の負担増になり、職員との分断も生みます。「サービスは変わらず利用料は増える。説明し、納得できない利用者の不満を受け止めるのは現場職員」と訴えるのは、東京・すこやか福祉会の猪瀬茜さん(介護福祉士)です。「高い利用料は限度額を気にするケアマネからも敬遠され、利用控えにもつながる」と指摘。訪問先で「なぜもっと利用しないのか」と、負担増の影響を感じる事例が増えていると言います。

深刻な人手不足

 介護保険制度の開始から20年以上。定年などでベテラン職員の退職が増えていますが、処遇の低さから人員確保は厳しい状況です。
 「資格が必要で学校でも実習機会が少なく、1対1の対応の難しさから訪問介護を選ぶ人は減っている」と猪瀬さん。数をこなすことが求められ、訪問の待機時間は時給が発生しないため、収入が不安定という問題もあります。
「施設で退職者があいつぎ、夜勤をできる職員が足りずに、公休消化すらできない事業所もある」と話すのは、道東勤医協労働組合書記次長で北海道・釧路協立病院の吉田一貴(かずたか)さん(介護福祉士)。釧路市内の介護福祉系専門学校は今年、入学者が1桁という危機的状況で、「このままでは地域の介護が崩壊するのでは」と危機感を持ちます。

優先順位の転換を

 全日本民医連事務局次長の林泰則さんは「早急に利用者負担にならない、公費による給与の全産業平均水準への引き上げが必要」と訴えます。「コロナ禍で疲弊し、決められた公定価格のため物価高騰に対応できない事業所を守るため、基本報酬の底上げが絶対に必要」と指摘し、来年度の介護報酬改定が一つの焦点と言います。
 猪瀬さんは「同じ国家資格なのに医療と分けられ、同等に扱われない。国は、いまだに主婦の片手間でやれるものと思っているのでは」と疑問を呈します。吉田さんも「同じように感染リスクを負ってコロナ対応しているが、医療と介護では大きな差がある。介護にも専門性があると認めてほしい」と訴えます。しかし、国は「人員不足にはICTの活用などの生産性向上で対応」と、実態を無視した人員削減の方針を変えません。
 林さんは、「岸田政権の少子化対策は、社会保障費を1兆円削減して財源を確保するとしており、世論に分断をもちこんでいる。この削減額は“医療・介護崩壊”を招いた小泉構造改革と同規模で大変危険」と指摘します。一方、5年間で43兆円という大軍拡計画は、あらゆる手段を使ってすすんでいます。しかし、その予算の一部、2・3兆円があれば、230万人の介護職員すべての給与を、月8万円増やすことが可能です。「軍事費ではなく、低すぎる社会保障費、現役世代への社会支出(図)こそ増やすべき。ケアの価値、介護の専門性を市民と共有し“ミサイルではなくケア”を合い言葉に、政治の優先順位を変える必要がある」と訴えます。

(民医連新聞 第1786号 2023年7月3日)

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