民医連新聞

2023年10月3日

SOGIから考える無差別・平等の医療と福祉 ―私たちに何ができるのか SOGI座談会

 全日本民医連は、『にじのかけはし』の冊子発行を始め、LGBTQ(※)やSOGI(※)の学習、現場での実践のとりくみをすすめています。動き始めた全国の職員の思いを交流する座談会を行いました。(6月10日実施)(稲原真一記者)

―SOGIに関心を持ったり活動をはじめたきっかけは?
吉田:自身の体験やさまざまな当事者から医療現場の問題を見聞きし、健康への影響の大きさを知りました。自身の体調不良などもきっかけになり、とりくむ必要性を感じて活動を始めました。
砂川:私の住む沖縄では、日本で初めて戸籍上の性別変更を行ったGID(※)当事者がいました。その後、当事者団体ができ、私も当初から活動に参加しています。地方は狭いコミュニティーで、差別や偏見も強く、生きづらさをどうにかしたいと思い、活動をしてきました。
河野:昨年、にじいろドクターズの学習プログラムに参加し、LGBTQの医療に関するさまざまな困難を知って、これまで何も行動できていなかった自分を恥じました。さらに「誰でも自分のSOGIを大切にされる権利がある」ということを学び、この問題を自分事と感じるようになりました。
長屋:大学でジェンダーが学問になっていると知り、関心を持ちました。職場で女性だけ制服があることに違和感を持ち、面接で質問しましたが明確な答えがなく、もやもやしました。その後、吉田さんの学習会に参加したことで危機感を持ち、活動を始めました。

多様性を認め合う社会・組織に向けて

―活動での経験や感じていることを教えてください。
吉田:川崎医療生協も事務は女性のみ制服がありましたが、労働組合もかかわって議論し、服装を選べるようにしました。“男女”を前提とした制度は、なぜ分ける必要があるのか、一度立ち止まって考えることが必要だと思います。
河野:服装の問題だけでなく、医療現場でもセクハラともとれる言動をする人がいて、倫理観に疑問を感じることがあります。
吉田:数では女性が優位に見える医療現場も、職員が多様性を認められ、力を発揮できているか?

 という視点では男性中心の組織構造で、そのことが人権への理解や倫理観にも影響を与えているのではないでしょうか。
長屋:最近SWの倫理綱領には、SOGIへの配慮が入りました。私も意識してアップデートをしなくてはと、そのことを職場で紹介して学習をすすめています。一方で人によって受け止め方には差があり、難しさも感じています。
吉田:川崎医療生協でも、さまざまなことがありましたが、民医連の仲間は人権の問題だと納得すれば、積極的に動いてくれます。立場が違ってもそれぞれの意見を尊重し、粘り強くかかわって対話を続けることが大切だと学びました。

―当事者として感じていることや現場に求めることは?
砂川:日本ではGIDへの医療の承認が遅く、対応医療機関も少ないため、通院に県をまたいで数時間かかることも普通です。私も早い時期に十分な医療を受けられず、外見や声にコンプレックスがあります。職場のトイレや更衣室が問題にされますが、運動の結果、国の法律やハラスメントの指針では、企業にSOGIへの理解促進や配慮を求めています。医療現場でも感染対策や衛生管理と同様、少なくとも法律に則った最低限の対応はしてほしいと思います。
吉田:実際に事業所ごとに対応が違う現実があり、戸籍変更を終えたトランス女性が、男性用の更衣室やトイレを使えと言われた事例もあると聞きました。多くの場合、その人だけの個別の事情と考えられ、人権の問題として捉えられていない。まずはその意識から変える必要があります。
砂川:私は戸籍上の性別を女性に変更しているので、乳がん検診の案内がきます。主治医からは、手術や女性ホルモン療法も受けているので乳がんのリスクがあると言われていますが、医療機関に問い合わせても受付で断られ、予約すらできないのが現実です。
吉田:現場で対応する職員に知識や経験がないことが、受診のハードルになっていますね。民医連内でも研修を行い、SOGIに配慮した健診が可能な事業所を増やし、案内していきたいです。
長屋:勤医協中央病院でも、まずは健診課で対応を検討中です。当事者は医療へのアクセスにハードルがありますが、健診で病院を訪れる人は多いはず。砂川さんの話を聞き、受付の事務であっても責任は大きいと思いました。

当事者、 職員に学び向き合う姿勢を

―民医連に期待することは?
吉田:私自身、SOGIを学ぶことが、ひろい意味での人権の学びになりました。これまで民医連は、貧困や公害など、人権を守る大切なとりくみをしてきました。しかし、そのなかで見落としてきたこともあると感じます。SOGIへのとりくみは、その気づきにもなるものです。全国組織の民医連だからこそ、SOGIに関する課題へのとりくみ、とりわけ困難な状態にさらされやすいトランスジェンダーの人びとに、安心できる医療を提供できると期待しています。
河野:民医連は社会的な困難を抱えた人といっしょに、困難の原因は社会や政治にあると、自分事として声をあげてきた歴史のある組織だと思います。そこが民医連の好きなところで、それをやりたくて入職しました。だから同じように、SOGIの問題にも真剣に向き合い、声をあげていくことが使命ではないでしょうか。
砂川:性自認をカミングアウト(※)したことで内定が取り消され、当事者であると明かして就職活動をしたら、どこも雇ってくれないという経験もしました。沖縄県内での活動では限りもあり、国レベルで制度を変える必要を感じます。ただ法律や指針ができても、実際には多くの現場で守られていない現実があります。
長屋:学習しても、世代や立場によってなかなか理解がすすまないことも経験し、仲間とはできることから始めようと話しています。手分けしながら、職場単位の小さな学習をすることで基本的な問題意識を共有し、仲間を増やすことをめざしています。一人じゃないからできています。
河野:北海道ではどうやって集まり、仲間を増やしていますか。
長屋:県連ジャンボリーでの学習会を通して、関心のある人が手を挙げ自主的に集まりました。多職種でやれているので、それぞれの職場で活動ができています。
吉田:若い感性でジャンボリーの人たちが活動していることは、本当にすばらしいです。私が活動の手本にしたのも、みんな私より若い世代の人たちです。川崎医療生協ではダイバーシティ推進委員会に理事や管理者が加わって、制度改善が一気にすすみました。私のような中堅の医師ではない、若手や多職種からの意見を真剣に聞き、学ぶ姿勢が、今の管理者に求められています。

これまでを引き継ぎ無差別・平等の実践へ

吉田:先日、私と弁護士で共同組織向けにLGBTQの講演会を行ったところ、地域の若い世代の参加が多数あり可能性を感じました。民医連には、これまでの良いところは大切にしつつ、新しい課題にもとりくむことで、幅ひろい世代とともにこれまで以上に無差別・平等の社会をめざす組織でありつづけてほしいです。
河野:まさに共同のいとなみですね。長野でもひとまず学習会を企画しているのですが、仲間をどう増やすかは悩んでいます。
吉田:関心のある人が、気兼ねなく集まれる場を続けて企画し、参加を呼びかけてはどうでしょう。学習会の参加者に関心のある人はかならずいるはずです。
砂川:2018年に入職しましたが、民医連はGIDに対し、理解のある職場だと感じています。差別の強い地域では、就職することすら困難な現実がありますが、今の職場では他の職員への理解の呼びかけをはじめ、自治体主催のSOGIに関する会議への参加や、当事者としての講演活動などでも業務保障をしてくれます。
長屋:みなさんの体験や話を聞いて、狭い地域やコミュニティーでこそ、民医連が果たせる役割も大きいのではと感じました。
吉田:私は民医連でなければ、カミングアウトして活動はしなかったでしょう。はじめは民医連でも動きは少なかったですが、地道に活動を続けて仲間が増えてきました。今年中にはパートナーとの結婚休暇も取得できそうです。私の民医連への信頼は、間違いではありませんでした。今後も地域や職員のなかでのつながりをひろげ、運動をすすめていきましょう。

吉田 絵理子さん
神奈川・川崎協同病院の医師で総合診療科科長、一般社団法人にじいろドクターズ理事。LGBTQの当事者であることを公表し、民医連内外でSOGIに配慮した医療や福祉への啓発活動を行っている。

砂川 雅さん
沖縄・にじの会の作業療法士。GIDの当事者団体に所属し、啓発活動や当事者の権利拡大のために中央省庁や自治体との交渉も行っている。

長屋 春香さん
北海道・勤医協札幌病院のSW。北海道内の有志で集まり、SOGIへの理解をすすめる「SOGIEプロジェクト」を始める(本紙2023年7月17日号1面掲載)。

河野 絵理子さん
長野中央病院の医師。一般社団法人にじいろドクターズ主催の「LGBTQに関するヘルスケア学習プログラム」に参加。第8回J-HPHスプリングセミナーで、SOGIに関するWSの運営に携わった。

用語解説
LGBTQ:レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニングorクィアなど、性的マイノリティーの総称。
SOGI:性的指向(Sexual Orientation)、性自認(Gender Identity)を表す言葉。性表現(Gender Expression)を加えたSOGIEと言う表現もある。
GID:性同一性障害(Gender Identity Disorder)の略称で、日本では性別に違和感のある人への医療的介入の際の診断名として使用されてきた。近年、国際的には病気や障害ではないとの観点から「性別不合」などの名称が使用されているが、現在も自己表現として使用する人もいる。
カミングアウト:自らのSOGIを他者に伝える行為。
アウティング:他者のSOGIを本人の許可なく第三者に暴露する行為。最悪の場合、自死にもつながる危険な行為で、たとえ家族などでも注意が必要。

トランス女性のトイレ使用
 経済産業省のトランスジェンダーの女性職員が、性自認にもとづくトイレの使用を制限されたことは違法として国を相手に起こした訴訟で、今年7月11日に最高裁が「経産省の対応は違法」との判断を下した。

LGBT理解増進法
 2021年に超党派議連で法案の提出が検討されていたが、自民党の反対で見送られる。2023年に成立したが、可決直前に維新の会や国民民主党の修正案で「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」との文言が追加され、当事者団体などから「多数派への配慮を口実に、差別を助長しかねない」と懸念が示されている。

(民医連新聞 第1792号 2023年10月2日)

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