民医連新聞

2023年11月7日

こんなにヤバイ!! 日本の食料事情 (3)戦前回帰の「花よりも米、イモ」 農民運動全国連合会 勝又真史

 今年の5月、政府が農水省の審議会に「現状の緊急事態食料安全保障指針では、不測時の制約措置を行う法的根拠がない」とする資料を提出し、農家などへの命令を行うための法律が必要だとして、法整備を検討しているとの報道がありました。有事の際、花農家に米やイモをつくるよう命令し、価格統制や配給制など、強制力を伴う新法を整備するというのです。
 しかし、この「緊急事態食料安全保障指針」は、現行の食料・農業・農村基本法19条にもとづき、農家に対する供出命令をはじめ、供給熱量がゼロの花、熱量効率がもっとも低い飼料作物、温室栽培で石油の消費が多い野菜・果樹からイモ類などへの作付け転換、石油供給制限の実施を定めるなど、強制力がないどころか、事細かに作物転換の枠組みが定められています。しかも、指針は農水省単独の決定ではなく、内閣官房、外務・防衛省など10府省協議会の合意のもとに決定されたものです。
 1941年12月、日本が太平洋戦争に入ると同時に、「花などの不急の作物を禁止・制限する」とした国家総動員法の「臨時農地等管理令」によって、全国各地で観賞用の草花は制限作物になり、食料に切り換えられました。特に千葉県と長野県では観賞用の草花を禁止作物としたため、これをつくる農家は非国民といわれ、ほとんどの花栽培は終息しました。このことが今、くり返されようとしています。
 戦前、千葉県のある花農家は、「食用でない」からと、畑作物に転換させられたものの、自ら花の種子を保存してきました。戦後、花の出荷を再開したこの農家は、「花は、平和な世のなかでこそ栽培できる。戦争なんかで二度と花づくりを禁止されてたまるものか」との思いを胸に、出荷用の段ボールには「花は心の食べものです」と印刷していました。
 岸田政権は防衛予算を5年間で倍増させることをねらい、23年度予算を6兆7880億円、前年比26・4%増にする一方、農林水産予算は2兆2683億円、0・4%減としました。1980年には農林水産予算の3分の2にすぎなかった防衛予算は、2023年には農林水産予算の3倍、2027年には5倍に膨れ上がる計画です()。このように農業や食の安全と大軍拡は相いれないものなのです。


かつまた まさし
農民運動全国連合会の常任委員。新聞「農民」の編集長も務める。

(民医連新聞 第1794号 2023年11月6日)

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