民医連新聞

2024年1月5日

2024年新春 地方のニーズつかみ、つながり処方する 暮らしの保健室でまちにアウトリーチ 北海道・函館稜北病院

 「フラッと相談、ちょこっと安心」と民医連医師が地域に呼びかけ、始まった「はこだて暮らしの保健室」には、北海道・函館稜北病院の職員も運営にかかわっています。昨年11月26日、第5回目が行われ、取材しました。(長野典右記者)

 前日の降雪で参加が心配でしたが、会場の函館市中央図書館中研修室には会場いっぱいの40人近くが参加。まずはリハビリ技師の武川涼香さんが参加者へ「カラダをつなげ体操」を行いました。会場には、『いつでも元気』をはじめ、健康に関する本も置かれ、各テーブルにはスタッフも参加し、交流が始まりました。
 新聞で知り、第1回から参加している坂本悦子さんは「健康について気軽に聞けて、体操を意識するようになった」と言います。スタッフから歓声があがったのは、デミオさん(ニックネーム)が来たとき。デミオさんは、散歩が日課で話し好き。3回目のとき、会場前をたまたま通りかかったところに声をかけられ、それ以来参加するようになりました。5人兄弟の末っ子で、昨年6月に兄が亡くなり、一人暮らしになったデミオさんは、参加者との会話がはずみます。父親が刑務官だったことや、自身が競馬の騎手だった経験、得意のスペイン語を教えてくれたりもします。

診察室の外で話せる場を提供

 「はこだて暮らしの保健室」の設置を呼びかけたのは医師の舛森悠さん。北海道・勤医協中央病院で初期研修、函館稜北病院での研修で総合診療科にすすむことを決めました。専門医は深さが必要、総合診療医にはひろさが大切と3年前から「YouTube医療大学」を運営し、現在登録者数は約40万人。舛森さんは「YouTubeを閲覧する人は健康意識の高い人。診察室ではもう少し早く受診してもらえればよかったのにと思うことがあった。診察室の外で話せる場所を提供したかった」と言います。事務次長の笠原毅さんは「YouTubeでは一方的で、現場で双方向の対話が大切と、職員に協力を呼びかけた」とふり返ります。
 そこで医療従事者がまちにアウトリーチし、生活や健康の問題など気軽に相談でき、相談ごとがなくても、会話で社会とのつながりを感じてもらえる場として昨年7月、「はこだて暮らしの保健室」を立ち上げました。運営資金をクラウドファンディングで呼びかけたところ、初日で目標金額の150%を達成。副院長の川口篤也さんも「気軽に参加できる地域の居場所づくりを医局でもバックアップした」と言います。「当院以外の医師やケアマネジャーも参加し、多いときには全体で50人近くが参加した」と、検査技師の滝沢智春(ちはる)さんも活動のひろがりを語ります。新型コロナの影響もあり、外出が制限され、健康リスクも高まるなか、再び人とのつながりをつくる場にもなっています。

地域の再会の場

 夫を看取り、元気がなかった女性は、同院にお礼を伝えに参加。話をすることで心が軽くなり、ケアにつながりました。東北地方から引っ越してきた70代後半の女性は函館に知人がいませんでした。しかし、知人ができることで、太極拳に参加するようになりました。「地域のつながりを処方するとはこのことか」と舛森さん。10人以上の人が常連で参加し、再会の場にもなっています。相談ごとは、傾聴することで本人を勇気づけ、本人が話すことで問題を整理し、本人が決めていくプロセスにもなっていると語ります。

プラットホームとして

 今後の活動について、舛森さんは「仲間を増やしていきながら、居場所として地域に受け入れてもらい、プラットホームとして活動をひろげたい」と語りました。
 今年の第1回目は、1月28日に函館朝市ひろば2階で開催予定です。

 舛森さんは「はこだて暮らしの保健室」の活動や社会とのつながりの重要性を記載した『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』(KADOKAWA)を1月18日、出版します。

(民医連新聞 第1797号 2024年1月1日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ