民医連新聞

2024年1月5日

一人の声から生まれたソーシャルアクション 補聴器購入の公的助成制度を求めるとりくみ 高知医療生協

 高齢になれば多くの人が悩む難聴。高知医療生協では、一人の組合員の声から、加齢性難聴に対する補聴器購入の公的な助成制度を求めるとりくみが、県内で大きく発展しました。一部地域では助成制度も始まり、とりくみは各支部の主体的な活動にもつながっています。(稲原真一記者)

■聞こえにくさが孤立に

 「地域の集まりに急に参加しなくなった人の話がきっかけ」と語るのは、高知県四万十市にある中村東支部支部長の坂本圭子さん。2021年頃、周りの人が何を話しているのかわからない疎外感など、聞こえの問題が原因で集まりに来られない人の存在を知りました。しかも調べると、補聴器の価格は20~30万円と高額で、多くの年金生活者には手が出ないこともわかりました。そんな時、生協の機関紙に折り込まれた「声を届けるハガキ」(写真)を目にした坂本さん。さっそく「聞こえの問題に医療生協全体でとりくんでほしい」と書いて投書しました。
 「声を届けるハガキ」は、高知医療生協がコロナ禍で組合員の願いを聞こうと始めたもの。ハガキを受け取った健康まちづくり課の岡村和彦さん(事務)は、「高齢者の生活や健康に直結する問題。社保活動として生協でとりくむべきだ」と受け止めました。すぐに平和・社保委員会の会議でとりくみを提案。他の委員の反応も良く、委員の理事がいる支部でとりくみをすすめることを決めました。

■つながりを生かすとりくみ

 22年の春頃には、医療生協で難聴や補聴器の基本的な知識をまとめた資料を作成して普及。社保協が県下の自治体と懇談する自治体キャラバンの要求項目に、補聴器購入の助成制度を盛り込み、自治体の介護計画見直しに向けたニーズ調査に、聞こえの問題も入れるよう全県に要望を送付しました。
 一方、四万十市では地元市議を通じて議会での質問や要望書を提出し、市長や担当課長と懇談。あわせて署名活動もすすめました。当時の中村東支部支部長の岡本和也さんは、「署名への反応は本当に良かった」とふり返ります。対話を通じて難聴が認知症の進行や健康状態にも影響があることなど、聞こえの問題を地域に伝える機会にもなりました。22年12月に、市の人口の約5%の1518筆の署名を提出。しかし、市は「必要性は理解できる」としながら、「ニーズ調査の結果次第で検討」ということにとどまりました。
 四万十市のとりくみを参考に、各支部でも署名活動が始まりました。県下最大の32万人が暮らす高知市では、同医療生協を含む6団体が「加齢性難聴者の補聴器購入公的助成制度を求める高知市の会」を結成。健康まちづくり課の上田(あげた)亮太さん(事務)は、「他団体と手を結ぶことで、これまでにない運動になった」と話します。
 生活と健康を守る会の副会長で元高知市議でもある下元博司さんの協力のもと、すべての会派に懇談を申し込み、請願や署名への賛同を働きかけました。また難聴と認知症の関係に詳しい医師とも懇談し、日本補聴器販売店協会に依頼して学習会を開くなど、地域でも聞こえの問題を深めました。

■声を力に自治体を動かす

 こうした運動もあり、23年度には4つの自治体で助成制度が始まりました()。そのうち土佐清水市では、市議が医療生協の資料を参考に質問し、キャラバンでの要請が力になったとの報告も。
 高知市では23年9月議会に、請願と署名1923筆を提出。請願は自民・公明の反対で惜しくも不採択になりましたが、同年10月の自治体キャラバンで、市の担当者から「署名を重く受け止め、来年度の予算化を検討している」との回答が。上田さんは「諦めずに声をあげたことで行政が動くと実感した。現在12自治体で署名運動がとりくまれ、今後は全県でのとりくみをめざし、国への制度化も求めていきたい」と力を込めます。
 岡村さんは「聞こえの問題は高齢者だけの問題ではない。今後は制度の拡充や、特定健診に難聴の検査を入れることも要求したい。これからも住民の声を力に、さまざまな要求を運動につなげたい」と意気込みます。

(民医連新聞 第1797号 2024年1月1日)

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