民医連新聞

2024年1月23日

ともに生きる仲間として―非正規滞在の移民・難民たち 第18回 日本人家庭に組み込まれた外国籍女性の高齢化 ―在日タイ女性の支援の現場から 文:新倉 久乃

 日本政府が外国人労働者に門戸を開き、私たちは最近、日常的にコンビニなどで若い外国籍の店員に出会います。今から30年近く前にも、アジアの女性たちが数多く来日しました。どちらも、先進国日本で働いて母国の家族を助けたい、自分の夢をかなえたいという共通の思いがあります。大きな違いは、30年前には就労のための在留資格は少なく、日本への定住は、国際結婚の日本人配偶者として日本人男性の妻、あるいは日本国籍の子の母親として認められたということです。当時、南北の経済格差による国際移動という潮流が起きていましたが、外国籍女性の存在は「私的な国際結婚」として国家政策の外にありました。この30年間、彼女たちは個々の家庭に任され、日本人夫の経済的基盤による経済的格差がひろがりました。在日タイ女性も、日本の家庭のなかに組み込まれ、不可視化され、時を経て今、高齢期の準備の時期を迎えています。
 彼女たちには、国境を挟んで母国と日本に家族がいます。壮年期に経済的余裕があった女性は、一時帰国や送金によって国境を越えて母国の家族と紐帯(ちゅうたい)を保ってきました。しかし、壮年期にひとり親や家族の経済的困窮を経験した女性は、日本の生活が精いっぱいで、あるいは生活保護を利用し、送金や一時帰国ができず、母国の家族とは長期間離別状態でした。
 私は、2000年代前半からひとり親や生活困窮家庭の在日タイ女性の生活福祉相談を受けてきましたが、最近は、元クライアントの人たちから高齢期の準備の話を聞くようになりました。高齢期は、身体的な衰えや就労時間と収入の減少などによって、物心ともに家族のささえが必要になります。しかし、壮年期からの家族の紐帯が、高齢期のささえ手、高齢期を過ごす場所を制限しています。つまり、この長期間の離別が日本での生活困窮への無理解と海外生活者への経済的期待を生んで、母国が女性にとって安心してありのままに高齢期を過ごせる場ではなくなっているのです。


 にいくら ひさの カラバオの会運営委員、和光大学講師。『在日タイ女性の高齢期と脆弱性―トランスナショナルな社会空間と埋め込まれたジェンダー規範』(2024年)

(民医連新聞 第1798号 2024年1月22日号)

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