民医連新聞

2024年2月20日

ALPS処理水の海洋放出はいますぐ中止に 原発事故から13年 安心して暮らせる福島を

 東京電力福島第一原発事故から13年。原発事故はいまだ収束せず、溶け落ちた核燃料に触れた汚染水が増え続けています。汚染水は、多核種除去設備(ALPS)で「処理」した水(処理水※)を原発の敷地内でタンクに保管してきましたが、東電は「容量の限界」を理由に昨年8月、海洋放出を開始。福島県漁連に対し「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」とした約束を、国・東電が投げ捨てています。(多田重正記者)

国民の声を聞かない政権に怒り

 「約束をあっさり破る。はずかしくないのか」と話す、新日本婦人の会福島県本部の村上裕美さん。
 村上さんは、県労連、農民連、福島民医連などが参加する「ふくしま復興共同センター」(以下、共同センター)で、2011年7月に発足した「子どもチーム」を担当。同チームは、県内全域の除染、安全・安心な食品の確保、県民の医療費無料化や健康診断の実施などを求める署名運動をすすめ、2012年には約12万2000筆を国会に提出しました。
 村上さんにも当時小学生だった子どもがいます。村上さんの住む福島市は福島第一原発から約60km地点。事故直後は「体育の授業はすべて体育館。教室の窓は閉めきり、通学路では『道の端に放射性物質がたまりやすいから真ん中を歩いて』と注意し、遠足も中止に。PTAで通学路を線量計ではかる活動も行いました」。
 県産米などの安全を確認しながら、農民連と産直運動にもとりくんできた村上さん。こうした活動の積み重ねで「ようやく安心して暮らせるようになってきたところに、海洋放出。信じられない。本当に国民の声を聞かない政権」と憤ります。

30年以上かかる処理水の放出

 処理水の対処法については、複数の対案が出ています。福島大学の研究者が中心となった地質・地下水問題の専門家グループは、汚染水増大を止めるために、原発建設時から問題だった地下水の流入を防ぐ必要を指摘。集水井(地中の水を集める井戸)と、現在の凍土壁よりも効果が高い広域遮水壁(コンクリートや粘土などを使用)の施工を提案しています。
 別の市民団体「原子力市民委員会」は、大型のタンクを建設して処理水を長期に貯蔵し、放射線量の減衰を待つ案を提案しています。
 国と東電は、これらの案を知りながら、共同センターと原発をなくす全国連絡会が行った政府交渉(2月7日)でも拒否。経済産業省は海洋放出に固執しました。
 海洋放出は、国・東電の計画でも30年かかります。「実際にはもっとかかるのでは」との質問に、経産省は「担当者がいないのでわからない」を連発。村上さんと同じ子どもチーム担当の佐藤晃子さん(福島県労連事務局長)は「交渉のたびに『担当者がいない』と言う。私たちにとっては日々生活で向き合う問題なのに」と話します。

つながりを大切に いっしょに声をあげて

 今年1月の能登半島地震では、運転停止中だった北陸電力志賀原発(石川県志賀町)で非常用電源が一部失われ、変圧器が故障するなど、トラブルが続出。これを受け、前述の政府交渉で要請団は、すべての原発を停止し、安全性を再検証するように求めました。しかし原子力規制庁は、「安全確保上、問題は生じていない」「すべて停止するほどではない」。この地震で避難路が各地で寸断した現実を前にしても、原発災害時の避難計画は自治体任せで、国の原子力災害指針を見直す考えも示しませんでした。
 民医連職員へのメッセージを聞くと、元民医連職員の佐藤さんは「今いる現場で、医療・介護・福祉・保育などの制度を改善する運動をすすめることが、被災者のささえにも災害時の備えにもなる」とエールを送ります。
 村上さんは原発事故直後、福島市でも、強制避難区域にはならなかったものの、比較的高い放射線量が計測され、「福島で子育てすることは虐待」との声が出たことをふり返り、「放射線の影響について学び、向き合おうとするつながりがあったから、いま福島で安心して暮らすことができている。これからもいっしょに行政や国に声をあげていきましょう」と話しました。
※トリチウムは除去不可能で、その他基準値以下とされる62核種の放射性物質も含まれている。

(民医連新聞 第1800号 2024年2月19日号)

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