いつでも元気

2024年2月29日

まちのチカラ 岡山県新庄村 スーパーフードと森林セラピー

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

満開の頃には多くの観光客が訪れる「がいせん桜通り」(©岡山県観光連盟)

満開の頃には多くの観光客が訪れる「がいせん桜通り」(©岡山県観光連盟)

 岡山県の西北端に位置する新庄村。
 毛無山を主峰とする美しい連山に囲まれ、ヒメノモチやサルナシなど特産品に恵まれます。
 人々を癒やす豊かな自然と宿場町の面影を残す村を歩きました。

 岡山駅から車で約1時間45分、旧出雲街道の宿場町「新庄宿」として栄えた新庄村に到着しました。今も当時の面影を残すがいせん桜通りには、133本の桜並木があります。1906年に日露戦争の戦勝記念として植えられたため、「凱旋」との名が付いています。
 立派な枝が空を覆うように広がり、満開の頃には桜のトンネルが現れます。全国的にも珍しい宿場町の桜並木は、村の春を代表する光景。桜が開花する時期(例年4月)に行われる「がいせん桜まつり」では、通りに里山グルメの屋台が並びます。
 村には石州瓦を使った赤い屋根の民家が目につきます。石州瓦は島根県西部の石見地域で生産される耐久性に優れた瓦。1872年の村制施行以来一度の合併もない、人口約800人、380世帯の小さな村で、「日本で最も美しい村連合」に加盟して昔ながらの景観を守っています。

ヒメノモチ 牛もち丼

 村は夏の昼と夜の温度差が大きく、おいしいもち米の生産に適した気候条件です。この条件を生かし、40年前からヒメノモチの栽培を行っています。ヒメノモチはこがねもちの後継種で、もち米の中でも最高品種の部類。おもちにするとコシのある滑らかな食感と美しい白さが際立ちます。
 道の駅「がいせんざくら新庄宿」では、年末だけでなく一年中おもちが売れます。焼いて食べるのもおいしいですが、食堂では牛もち丼が人気。ごはんの代わりにヒメノモチを100%使用したコシの強い杵つき丸もちが3個入り、牛肉とたっぷりの汁がかかります。よく伸びる真っ白なおもちに牛汁が絡みつき、お雑煮のような食べやすさ。一口食べれば、体の底から力がわいてきます。

幻の果実 サルナシ

 村ではサルナシも里山のスーパーフードとして注目を集めています。スーパーフードとは、一般的な食品よりも栄養・健康成分が多く含まれる食品のこと。山中に自生していたサルナシを栽培品種として特産化するために設立された「新庄村サルナシ栽培研究会」のメンバーで、株式会社「サルナシの里新庄」を経営する芦川巌さんを訪ねました。
 サルナシはマタタビ科のつる植物でキウイの仲間。果実は2~3㎝と小ぶりで皮ごと食べることができ、ほのかな酸味と甘みでやわらかな食感です。「サルが我を忘れて食べた」というエピソードが語源ともいわれています。
 ビタミンCが豊富で栄養価が高く、昔から天然の強壮剤として重用されました。果実が店頭に並ぶ時期は8月下旬から9月にかけての1~2週間と短く、生で味わえる果実はつぶれやすくて市場に出回りにくいことから、主にジャムや果実酢などの加工品として販売されています。
 「40年ほど前、エメラルドグリーンに輝くサルナシに偶然出会ったのが始まり。研究を重ねても、未だに栽培の方法は分からないことだらけです」と語る芦川さん。現在、18戸の生産者がサルナシと対話をしながら大切に栽培しています。

毛無山 森林セラピー

 村は中国地方の尾根にあたる毛無山を主峰とする1000m級の美しい連山に囲まれています。ブナの自然林を中心とした混合林が多く、植物や野鳥の宝庫。希少な動植物も数多く生息し、その豊かな自然を生かした楽しみがたくさんあります。そんな自然の見どころを知るには、森の案内人と一緒に森林セラピーツアーに出かけるのがお勧め。「新庄村森林セラピー協議会」の黒田眞路さんに案内してもらいました。
 森林セラピーとは、癒やし効果が科学的に裏付けされた「一歩進んだ森林浴」のこと。NPO法人「森林セラピーソサエティ」によって全国65カ所の森が認定されています。新庄村は岡山県で唯一認定を受け、県内最大級のブナ林が広がる「ゆりかごの小径」などが森林セラピーロードとして整備されています。木々に囲まれた土用ダムを周回する「湖畔の小径」は車いすも対応可能です。
 入り口の小川で靴底についた外来種の種子を落として入山すると、腐葉土の道は足に優しく、森の香りにリラックス。途中、ハンモックが登場し、横たわると森に抱っこされたように包まれます。
 印象的だったのはブラインドウォークという体験。目隠しをして森の中を歩きます。視覚がなくなると他の五感が研ぎ澄まされ、人の気配や小川のせせらぎの音、土を踏む足の裏の感度がぐっと上がります。最後は「ヤッホー」と全力で叫び、山全体にやまびこが響きました。
 「山はどんな人でもがっつり受け止めてくれる。ふだん吐き出せないものを吐き出してリセットしてください」と黒田さん。大自然の中での体験に、本来の自分を取り戻したような気がしました。
 美しい自然と深い歴史が宿る新庄村。安心して、ゆっくりと散策に来てください。

■次回は沖縄県今帰仁村です。

まちのデータ

人口
833人(2023年11月末現在)
おすすめの特産品
ヒメノモチ、サルナシ、リンドウ
アクセス
岡山駅から村役場まで車で約1時間45分。
岡山駅からJR伯備線根雨駅まで特急列車で約1時間50分、根雨駅から車で20分
問い合わせ先
新庄村産業建設課 0867-56-2628

いつでも元気 2024.3 No.388

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