民医連新聞

2024年3月19日

1日目 増田剛会長あいさつ 人間の尊厳が問われる情勢「非戦」「ケアの倫理」で変革

 全国の代議員のみなさんと対面で、この沖縄総会を開催できることをともに喜びたいと思います。たくさんのメッセージ、ご来賓、総会を引き受けてくれた沖縄民医連のみなさんに、心から感謝を申し上げます。
 いまこの瞬間も新型コロナウイルス感染症に対応している現場の職員、自らが被災当事者となりつつも奮闘している被災地の職員と共同組織のみなさんに、心からの感謝と敬意を表します。
 前総会以降、計65人の現役民医連職員、加えて歴代の元幹部が亡くなりました。そして能登地震で多くの貴重ないのちが失われました。亡くなった方々に心から哀悼の意を表し、黙とうを捧げたいと思います。

■結束して乗り切る

 2週間前に、石川の輪島と羽咋(はくい)の両診療所を訪問し、目にした被害のすさまじさは想像以上でした。そして被災時の恐怖や苛烈な避難生活の実態を聞き、言葉を失いました。そんななか、自らも困難を抱えながら、患者・利用者に変わらぬ笑顔でやさしく接する職員のみなさんの姿には、強く胸を打たれました。
 現在、全国からさまざまな職種の支援が行われています。帰りの車で同乗した青森の支援者は、自ら志願して参加したと話していました。全国の仲間の連帯支援が、復興に向けて歩みをすすめています。今後も結束した力で、この難局を乗り切ることを決意し合いたいと思います。

■平和、 政治変革、 経営

 2年前に始まったロシアによるウクライナ侵略は停戦の兆しすら見えません。少なくともウクライナの民間人1万人以上、両軍合わせて50万に及ぶ死傷者が発生していると報道されています。
 本日で139日目となるパレスチナ・ガザ地区での武力攻撃では、2万9000人のいのちが奪われ、その7割が子どもと女性です。許しがたい不条理、人権侵害にほかなりません。
 日本国内でも、森友学園の公文書改ざんで自死した赤木俊夫さん、過労自殺した甲南医療センターの高島晨伍(しんご)医師、コロナ禍のいのちの選別で亡くなった高齢者、沖縄県民のいのちと人権を踏みにじり、新基地建設に遺骨入りの土砂投入を画策する非道など、理不尽な現実が目の前にあります。
 問われているのは人間の尊厳、そのような強い問題意識で今回の方針案を起案しました。
 スローガン案ですが、第1文は国際社会との連帯でウクライナ、ガザ地区での一刻も早い停戦を実現するために行動することを、46期の重点として強調しました。この点については全国討議で複数の意見をもらい、のちほど理事会での討議状況を報告します。
 第2文では、劣化が激しい日本の政治を変革することを掲げ、総選挙がある46期の民医連の立ち位置を示しました。
 第3文には、かつてない経営危機という認識がベースにあります。今春の診療報酬改定の本体プラス0・88%の約8割は使途が限定されており、これでは深刻な経営状況を改善させることは極めて困難です。事業所の存続がかかった事態だという認識で、政治的働きかけを強め、組織をあげてこの課題に臨むことを呼びかけます。
 第2文、第3文では、ジェンダー平等や「ケアの倫理」など重要な表現を使用し、支持する意見も多くもらいました。同時に多様性の尊重など、さらに文案を豊かにするような提案もありました。

■運動に 「非戦」 かかげ

 この10年は安倍政治のもとで新自由主義の害悪と戦争国家づくりが進行し、そこに未曽有のパンデミックが襲いました。第1章はそのふり返りと引き継ぐべき教訓をまとめました。自公政権は、防衛費対GDP1%枠や殺傷兵器の輸出禁止など、これまで維持してきた最低限のルールをも壊しました。第2回評議員会で「この国のあり方そのものが瓦解する危機」と表現した特別な10年という認識で、この章は書かれています。
 キーワードの一つである「非戦」は、現在も、これからも紛争解決や平和構築の手段として武力を用いない、あわせて憲法9条を守り、大軍拡を許さない、という意思表明をする言葉です。「非戦」という表現は弱々しくもないし、無抵抗とも違う。暴力や戦争に明確に対置する立場性を示す、的確な表現だと思います。「非戦」が導く運動は、こぶしを振り上げて反戦を主張しにくい人も、憲法や防衛政策についてさまざまな意見を持つ人たちも、ひろく包摂した発展が期待できると感じています。

■ケアの視点で前進を

 全国の討議では「ケアの倫理」への関心が高く、この表現を45期運動方針に記載した影響の大きさを感じています。この2年間、人権や倫理に関する議論や学習が旺盛に行われましたが、そこでは「ケアの倫理」を探求する視点が共有されていたように思います。
 この国の政治・経済に根深く浸潤しているケア・ケア労働者の疎外という状況が、コロナ禍で明瞭になりました。このことは「社会や政治に働きかけないと守れないいのちがある」という最大の教訓と軌を一にしていると捉え、ケアレスな社会・政治を、ケアの視点で変革することの重要性を方針案に示しました。
 この数年間の民医連は、フェミニズムと「ケアの倫理」に本格的に出会い、学びを深めていると感じています。誰もがケアなしでは生きられない、ぜい弱な存在であるという事実から、ケアの実践は始まり、そのなかで個人の尊厳が尊重され、育まれることをケア労働者はめざしています。そうした視点で社会・政治を構想する、この「ケアの倫理」を深め、「医療・介護活動の2つの柱」を全面実践することで私たちの事業と経営を守り、運動を前進させたいというのが今回の提起です。
 アメリカに隷従する日本政府の非民主主義的策動に対して、平和と人権を断固守る立場で奮闘してきた沖縄県民のパワーを感じ取りながら、この3日間を過ごせることを期待しています。みなさんの主体的で能動的な参加をお願いして、理事会を代表してのあいさつとします。

(民医連新聞 第1802号 2024年3月18日号)

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