民医連新聞

2024年4月2日

相談室日誌 連載557 定住外国人の生きる権利 相談や協力の支援体制を(島根)

 島根県出雲市には約5000人の在住外国人がおり、その7割がブラジル人です。精密機械製造工場などで働きながら生活をしている人も多くいます。
 Aさんは50代後半の男性でブラジルからの定住者。30年前に仕事を求めて仲間たちとともに来日。30代で脳出血を発症し構音障害が残存。また、50代前半に脳梗塞を発症し、新たに片麻痺(まひ)と失語症の後遺症が残りました。勤務先を退職し、ブラジルの仲間たちとも徐々に疎遠に。身体障害者手帳を取得し、生活保護を利用しながらアパートで一人暮らしをし、就労継続支援B型事業所で働いてきました。
 誤嚥(ごえん)性肺炎を発症したAさんは、急性期病院へ入院しました。嚥下(えんげ)機能はかなり低下し、今後経口摂取は難しいという判断が下され、胃瘻(いろう)造設と退院調整のために当院の地域包括ケア病棟に転院。胃瘻造設については通訳者を介して主治医から説明し、本人の承諾も得られたので手術をすることになりました。全身状態は安定しましたが寝たきり状態、胃瘻の注入やたんの吸引など医療行為があるため、一人暮らし、ブラジルにいる親族とは疎遠で、頼れる友人もいないAさんの今後の療養先をどうするか、という課題が残りました。Aさんの状態からは療養型病院への転院が選択肢にあがりますが、通訳者を交えて延命治療に関する希望を聞くと、生き続けたい意思が返ってきました。療養型病院でできる医療行為は限られており、高度医療を提供する病院への転院や人工呼吸器装着などは原則行われないことになっています。現段階でAさんに理解して受け入れてもらうことは難しそうでした。また急変時に病院が医療行為を相談できる相手もおらず、そのような状態を理由に療養先が決まりません。
 遠い異国から働く場を求めて来日しても、病気になってその状態が重ければ、自国へ戻ることなくそのまま日本で最期を迎える人は少なからずいると思います。Aさんのように社会環境的にさまざまなハンディキャップがある人たちの支援に、行政や在住外国人支援機関、通訳、他の医療機関と相談・協力し合いながら、その人びとの生きる権利を尊重できる社会づくりが必要だと感じます。

(民医連新聞 第1803号 2024年4月1日号)

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