いつでも元気

2008年1月1日

新連載 ヘルパー日誌  きいてください 私たちの仕事のこと

北海道・協立いつくしみの会ケアセンター
かりぷ・もみじ台 笹原祐美

ほっと介護(74)

 訪問介護は要支援者・要介護者の「日常の生活を支える」というたいへん地味な 仕事です。日常の生活援助は、医療のように「手術して目が見えるようになった」など劇的な変化をおこすわけではありません。振り返って気づけば、食材の種 類が増えた、ごみが分別されていた、ひげを剃っていた、家族との会話が和やかになった…など。日常であるがゆえにゆるやかで目立たず、しかし確実に生きる 意欲を伴って生活の質的な変化をもたらします。わずかな変化にも一年以上かかることもあり、ホームヘルパー(以下ヘルパー)はその人のたどってきた人生や 室内の一つ一つからヒントを得て、ともに生活作りをすすめていきます。 

事例1
掃除援助に入るとひどい尿のにおいが

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「お料理をヘルパーといっしょに」
(提供:ケアセンターかりぷ・もみじ台)
記事とは関係ありません

 要介護2の方への、家事援助の依頼がありました。それまで面倒をみていた娘さんが腰痛になり、お母さんの部屋の掃除だけ頼みたい、とのことでした。
 初めてヘルパーが訪問すると、室内に入ったとたん、目を突き刺すようなひどい尿臭にみまわれました。掃除中、強烈な悪臭がする紙袋を部屋の隅でみつけま したが、「そのままにしてほしい」というご本人を尊重し、その日は掃除だけで帰りました。
 その後の訪問でも尿臭は消えませんでした。置いたままの紙袋に生理用ナプキンが入っていて、尿もれに使っていたことがうかがえました。でも、これでは間 に合いません。掃除中、さりげなく世間話のように話題にしてみました。
 「いま、尿もれで悩むお年寄りが多いそうですよ」すると本人が「そうなの、実は私も、おしっこが間に合わない時があるの」「そうなんですか。どうされているんですか?」
 こうして事情をきくことができました。トイレに行こうとした時にはすでにおしっこが出てしまっている、娘がくれたナプキンを使っていたが、症状はどんど ん悪くなって、下着や寝間着、シーツと洗濯物が増えてゆくというのです。また本人は、娘に洗濯の負担をかけまいと、寝間着や汚れたシーツを洗わず乾かして 使っていたり、おしっこが出ないように飲み物を制限したり、涙ぐましい努力をされていたのです。
 尿臭に閉口した婿からは、居間には来ないようにいわれて、ほとんど自室に引き込もっていました。

介護問題が見えた

 ヘルパーは掃除援助しながら、ナプキンを尿パットに換え、娘さんに代わって洗濯をヘルパーの仕 事にしました。着替えをきちんとするようになると、実は一人でお風呂にも入れなくなっていたが、娘に遠慮して話せず、洗い場で体を拭いていただけだったこ とも分かりました。入浴の段取りもしました。
 すると半年後には、すっかり臭いがなくなるまでになりました。本人の表情が明るくなっただけでなく、婿が優しく話しかける姿も目にするようになりました。
 私たちが頼まれて訪問したころは、失禁という介護の問題が本人や家族だけでは解決できなくなり、尿臭が原因で家族の絆もこわれていた状態だったのです。介護の入り口に家事援助がある典型例でした。

事例2
お味噌汁を作ると涙されて

 腰の手術をして退院した後、予想以上に回復が悪く、「要支援」の認定を受けて掃除の生活援助を依頼してきたひとり暮らしの方です。
 室内は、入院中の荷物が半年もそのままの状態で雑然としていました。初めての訪問時のことです。ゴミを集め、洗い物を整理し、掃除機をぐるりとかけただ けでしたが、たいへん感謝されました。帰りぎわに冷蔵庫の中をさりげなく見たところ、がらんとしており、できあいのおでんやインスタント食品が箱に積んで ありました。
 わずかの時間でしたが、しなびかけていたサヤエンドウで味噌汁を作ってお椀に差し出すと、「おいしそう」とつぶやいて急に泣き始めたのです。そして「あ りがとう。来週もまた来てくれるのね」と。一人で頑張っていた緊張感が一気にほぐれたかのようでした。
 たかが味噌汁や掃除が、涙を流して何度も感謝されることではありません。しかし、この方にとって「来週も来てくれる」「自分の生活の大変さをわかってく れる人がいる」ことは、単に利便性だけではない「生きる希望をヘルパーに見出した」ということだと思います。
 そして、こういった場面はヘルパーなら誰しも経験していることで、やりがいにもなっています。例え一週間に一時間の援助であれ、このことがほかの一週間の生活時間をどれだけ安定させているか知れません。

プロの仕事を評価して!
 ご紹介したように、家事援助を通し、本当の介護問題をみつけることが実に多いのです。ヘルパーの仕事には家事を中心とした「生活援助」と、通院などの 「乗降介助」、入浴・排せつ・食事などのケア「身体介護」があります。
 援助をおこなった時間が「介護報酬」として、事業所に入ります。1時間当たりの身体介護では約4100円、生活援助は約2120円。生活援助の報酬は、 訪問看護(約8400円)のたった4分の1。さらに1時間30分が上限でそれ以上長く援助をしても報酬が出ないため、どの事業所もこの時間内でサービスを 収めているのが現状です。
 これには「ヘルパーの家事援助がお年寄りの自立を妨げる」という厚労省の見解(06年介護保険「改定」時)が働いています。この見解に、私たちは驚き、 怒り、何よりプライドを傷つけられました。また、労働条件は介護報酬に比例します。地域によっては最低賃金に届かない収入で働いているヘルパーもいます。

 全日本民医連は、介護報酬引き上げ、利用者負担の軽減など介護保険の緊急改善要求への賛同を、民医連外の全国の介護事業所に呼びかけました。「このままでは介護は崩壊」「介護に税金をまわして。特に防衛費削減を」など署名とともにたくさんの声が集まっています。

いつでも元気 2008.1 No.195

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