いつでも元気

2024年4月30日

まちのチカラ 兵庫県香美町 日本海が育てたカニと“空の駅”

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

 日本海に面し、冬はカニ、夏は海水浴が楽しめる香美町。
 「空の駅」として知られる餘部駅や、長楽寺での写経体験が魅力です。
 豊かな自然とおいしいものに出会える町を巡りました。

 日本海に面した香美町は、日本有数のカニの水揚げ地。冬は松葉ガニ、秋から春にかけてはベニズワイガニ漁で賑わいます。
 午前3時、香住漁港を訪ねると、帰港した漁船から大量のカニが水揚げされていました。6時から始まった競りでは多くの仲買人が目を光らせ、活気に溢れています。
 関西では唯一、香住漁港だけで水揚げされるベニズワイガニを香住ガニと呼びます。栄養豊富な深海で育った香住ガニは身が詰まり、甘みが強くみずみずしいと人気です。漁法は餌を入れたかごを海底に沈めるカニかご漁。漁に出てから24時間以内に競りにかけられるため、鮮度抜群です。
 町はカニ料理発祥の地とも言われます。茹でガニしかなかった昭和初期、一軒の民宿が「カニすき」を考案し大ヒットしたという逸話や、炭で甲羅ごと香ばしく焼く「焼きガニ」を提供する店などもあります。
 「スープ状のカニ味噌に酒を入れて酒蒸しにするのが通好み。ぜひご家庭でお試しを」と教えてくれたのは「にしともかに市場」の山田直弘店長。併設のレストランかに八代れんが亭では「丸ごと香住蟹ランチ」が人気。ぷりっとした食感と上質な甘みを味わうことができます。香美町を訪れたら、思いっ切りカニ料理を楽しんでください。

余部鉄橋と空の駅

 町北西部のJR山陰本線餘部駅は、鉄道ファンなら一度は訪れたい場所。地上41mにあるホームから、真っ青な日本海を見下ろすことができます。駅までは展望エレベーター「余部クリスタルタワー」で約45秒。全面ガラス張りで、スリルと日本海のパノラマが楽しめます。
 駅から東へ延びる余部鉄橋は1912年の完成から約100年間、東洋随一の「鋼製トレッスル橋」として多くの人々に愛されました。トレッスル橋とは、末広がりのやぐらのような橋脚で橋桁を支える構造のこと。2010年にはコンクリート製の「余部橋梁」が完成し、その役目を終えましたが、橋脚の一部が展望施設として残り、「空の駅」として保存されています。
 山陰海岸の入り組んだ地形を走る列車に乗り、餘部駅から隣の鎧駅へ。トンネルを3つ抜けると、急に視界が開けて海の青色が飛び込んできます。
 鎧駅は小さな無人駅ですが、幾度となくテレビドラマや小説の舞台となった場所。眼下には天然の良港・鎧漁港が、潮の香りの混ざる新鮮な空気の中で佇んでいます。駅舎にはノートが置かれ、訪れた人々が思い思いの言葉を綴っていました。旅情を誘われ、旅の印象を書き留めたくなります。

山陰海岸の絶景

 町は山陰海岸ジオパーク に属し、奇岩や怪石の美しい海岸が続きます。
 香美町役場観光商工課の松井範好さんに案内されたのは、香住海岸にあるかえるそっくりな奇岩「かえる島」。その昔、北前船(江戸時代から明治時代にかけて日本海海運で活躍した船)で航海に出た男たちが、無事にこの地に「帰る」ことを祈願したとされています。かえる島に願いをかけると、無くした物が手元に返る、自分の性格を変えるなど、何かを「かえる」ことが叶うと言われています。
 かえる島の先には大引の鼻展望台があり、海抜50mの高さから日本海を一望できます。「夏は夕陽に照らされて真っ赤に染まるので、〝赤壁〟と呼ばれているんですよ」と松井さんが指さす断崖絶壁には、波がリズムよく打ち寄せます。
 日本列島がアジア大陸の一部だった時代から今日に至るまでの、海と大地の営みに思いを馳せ、自然の荘厳さに圧倒されたひとときでした。

山陰海岸国立公園を中心とした、東西約120km、南北約30kmのエリアで、「日本海形成に伴う多様な地形・地質・人々の風土と暮らし」をテーマにした地理的領域。

世界最大級の木像三大仏

 最後に訪れたのは、町の中心に位置する村岡エリアの長楽寺。世界最大級の木彫金箔座像、通称但馬大仏が安置されていることで知られています。
 長楽寺は約1200年の歴史を持つ真言宗の古刹で、奈良時代に行基によって開創されました。平成の初めに大改修され、大仏殿には身の丈15mを超える三大仏が並びます。中央は釈迦如来、向かって左に阿弥陀如来、右が薬壺を手にした薬師如来です。中国で多くの仏師が制作に関わり、はるばる海を渡って大仏殿で組み上げられました。楠木の寄せ木造りに金箔132万枚(21・8㎏)が貼りめぐらされ、金色に光り輝いています。
 その端正で慈愛に満ちたまなざしの三大仏を前に、有料で写経体験ができます。「写経をすることによって、自分の中の仏さんが目を覚ますんですよ」と案内してくれたのは住職の五十嵐啓道さん。仏の教えを説いた般若心経をお手本に、一字一句願いを込めて筆でなぞります。

 旅の香り、海の香り、グルメの香りに誘われる香美町。ぜひ一度足を運んでみてください。

■次回は三重県菰野町です。

まちのデータ

人口
15,591人(2月29日現在)
おすすめの特産品
香住ガニ、松葉ガニ、活イカ、
のどぐろ、岩ガキ、但馬牛、すっぽん、チョウザメ料理
アクセス
JR新神戸駅から車で約2時間半
JR姫路駅から特急電車で約2時間
連絡先
香美町観光商工課 0796-36-3355

いつでも元気 2024.5 No.390

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