いつでも元気
2024年9月30日
まちのチカラ 秋田県三種町 水の宝石と真夏の砂の像
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)
秋田県北西部に位置する三種町。
国内有数の生産量を誇るじゅんさいや、
〝しょっぱい〟温泉で知られます。
自然豊かな房住山と浜辺の
アートイベントも紹介します。
秋田駅から北に車を走らせること約45分、三種町に到着しました。西は日本海に面し、北に白神山地を望む豊かな自然が魅力です。東の房住山に源を発する三種川が町の中央を流れ、八郎潟へと注いでいます。
日本海沿岸の釜谷浜海水浴場は、環境省選定の「快水浴場百選」に選ばれた水のきれいなビーチ。ここで毎年夏に行われているのがサンドクラフトinみたねです。
サンドクラフトとは特殊な工法で制作される砂像のことで、砂のアートと呼ばれます。メーン砂像は高さ3mにもなり、制作期間は7月中旬からの2週間。制作過程の見学も可能と聞き、会場を訪ねました。
会場の砂浜には大小合わせて25基の砂像が完成間近。砂像彫刻家の保坂俊彦さんが砂像プロデューサーを務め、全国の砂像作家と地域住民が参加しています。
今年のテーマは「世界の神話・伝説」。天照大御神やアーサー王など、大迫力の砂像に圧倒されます。龍をモチーフにした砂像に挑戦する高校生たちは「四角い砂のかたまりから立体的に彫っていくのが難しい」と、砂と真剣に向き合っていました。
7月27日のイベント当日には、砂像制作体験やマリンアクティビティー、キャンドルナイトなどが行われ、花火も打ち上げられる夏の一大イベント。砂像は8月末まで展示され、その後崩されます。全てが砂じんに帰する〝儚い美しさ〟を体感してください。
日本屈指の強塩泉
次に訪れたのは町中央部の森岳温泉郷。1952年、石油発掘中の田んぼから突然湧き出した温泉で、秋田の奥座敷として長く親しまれてきました。
泉質はナトリウム・カルシウム塩化物泉。〝しょっぱい温泉〟として有名で、県内外から湯治客が訪れます。塩分濃度が高いため体の芯から温まり、入浴後も微細な塩分が体を覆い湯冷めしにくいのが特徴。お肌の潤いを長く保ち、皮膚疾患への効果も期待できます。
1957年から約20年間の八郎潟干拓事業の時代、多くの職人の疲れを癒やした森岳温泉。当時の活気と喧噪に思いを馳せながら湯に浸かり、心も体もリフレッシュしてください。
町の宝 じゅんさい
三種町といえばじゅんさいです。じゅんさいは、水質のきれいな沼や池に生息するスイレン科の多年草。水底の地下茎から水中に茎を長くのばし、春から夏にかけて浮葉を水面いっぱいに広げます。
水中の幼葉とそれに隣接する茎が食用とされ、ゼリー状のヌメリに覆われた独特の姿から「水の宝石」とも称されます。味は淡白ですが、つるんとしたのど越しとプリッとした食感が魅力で、懐石料理にも用いられる高級食材。町では古くから自生していましたが、1935年頃から栽培も始まり、国内でも有数の生産量を誇ります。
じゅんさいは5月から8月が収穫時期。観光客向けの摘み採り体験ができる北林農場に伺いました。水深50〜60㎝ほどの沼に1畳程の小舟を浮かべ、棒で舵を取って進みます。水面に浮かぶ葉をかきわけて水中のじゅんさいを探し、ひとつひとつ夢中で収穫しました。
摘み採り後は、お待ちかねのじゅんさい料理を目当てにホテル森山館へ。お吸い物や酢の物が定番ですが、町ではじゅんさい鍋が人気だとか。
「秋田の人は、夏でもお酒を飲みながら熱い鍋を食べるのが大好き」と教えてくれたのは、ホテル森山館の石井雄大さん。比内地鶏の旨味が詰まった醤油仕立ての鍋に、じゅんさいがたっぷり入ります。熱々のヌメリをまとった三種町のソウルフード。ヤケドにご注意を!
信仰の山 房住山住山
町の東部にある房住山は標高409・2m。古くから山岳仏教の拠点として知られ、多くの修験者の僧房(僧侶が居住する建物)があったことがその名の由来です。山に分け入ると、樹齢200年を超える天然杉と広葉樹などの原生林が、光と緑のハーモニーを奏でます。登山道には江戸時代に建立された三十三観音が点在し、信仰の山であることが分かります。
道中の「台倉の坂」には、うばすて山の悲しい伝説が残る「ババ落とし」と呼ばれる断崖絶壁があり、山一番の難所。およそ2時間、汗だくになって登った先に山頂が見えました。山頂の爽やかな風が汗を拭います。
10月中旬から11月中旬は、無農薬のキウイのもぎ取り体験がおすすめ。ここにしかない景色がたくさん詰まった三種町。ぜひ一度訪れてください。
■次回は徳島県海陽町です。
まちのデータ
人口
14,426人(4月30日現在)
おすすめの特産品
じゅんさい、梅、メロン
アクセス
東京駅から秋田駅まで新幹線で約3時間50分、奥羽本線に乗り換えて約50分で森岳駅
問い合わせ
三種町観光協会
0185-88-8020
いつでも元気 2024.10 No.395
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