いつでも元気
2024年9月30日
保険証なくすな!
聞き手・武田 力(編集部)
政府は12月から従来の健康保険証の新規発行をやめ、
マイナ保険証※に一本化するとしています。
マイナンバーカード(マイナカード)活用の推進の背景に何があるのか。
全日本民医連の山本淑子事務局次長に聞きました。
この間の政府によるマイナ保険証の押しつけは異常です。5~7月の「利用促進集中取り組み月間」には厚労省が〝台本〟まで作って、医療機関や薬局のスタッフによる声かけとチラシ配布を推進。「マイナ保険証がなければ、受診や処方ができない」との誤解や不安を広げ、窓口でのトラブルも続発しました。
マイナ保険証の利用が進まない根本には、個人情報の漏えいや誤登録など、システムに対する国民の不信と不安があります。マイナ保険証に移行するメリットもよく分かりません。利用者の不安を解消する責任は政府にあるはずなのに、これを現場の医療従事者に押しつけて矛盾を深めています。
背景に財界の要求
そもそもマイナカードの取得は任意です。いのちや健康に関わる保険証を〝人質〟にして、マイナカード取得を強制することは許されません。
なぜ政府がこれほど強引にマイナカードの活用や医療のデジタル化にこだわるのか。背景には、日本経団連や経済同友会など財界の要求があります。
多様な関連づけで集められた膨大な個人情報(ビッグデータ)は、新商品の開発やマーケティングに活用できる〝宝の山〟です。マイナカードには医療のほか、税金や年金、公金を受け取る銀行口座など29項目の個人情報がつなげられています。
財界は以前から、行政が集積した情報などを「儲けるための資源」として狙ってきました。新たな経済成長の原動力として、マイナカードの活用や医療のデジタル化が位置づけられています。
医療費の抑制策にも
さらに重大なのは、マイナカードの活用や医療のデジタル化が、医療費の抑制策に使われる危険です。財界は税金や社会保険料の企業負担を軽減するために、医療費と社会保障費の削減を政府に迫り続けてきました。
具体的には、大量のデータを分析して医療を〝標準化〟〝画一化〟することで、医療費を低く抑えることが狙われています。また、個人ごとの給付と負担を厳しく精査する「医療費の個人勘定化」や、個人の金融資産を国が管理して取り立てる「死後精算」など、国民にさらなる負担を強いる可能性も指摘されています。
日本経団連は、個人のライフログ(歩数・移動・購買などの生活関連データ)と医療情報を重ね合わせて活用することまで提言しています。個人の行動が監視されるだけでなく、「健康管理は自己責任」の風潮をますます強めかねません。
国民皆保険制度の肝
従来の保険証の発行停止は、医療を受ける権利に対する国の責任の放棄です。マイナ保険証への移行で、国・保険者の保険証交付義務がなくなり、申請しなければ手元に届かなくなってしまいます。
特に高齢者や障害者、認知症の方など、自力での申請・更新が困難な方々のことが心配です。いつでも、どこでも、誰でも安心して医療を受けられる国民皆保険制度の崩壊につながりかねません。
記号番号が記された従来の保険証は、受付スタッフに見せるだけですぐに資格確認ができます。緊急時や災害時のことを考えても、マイナ保険証よりはるかに便利です。
政府はマイナ保険証のメリットとして、医療情報の共有を挙げますが、既に全国で約270の地域医療情報連携ネットワークが運営されています。薬に関しては「お薬手帳」で十分です。
マイナ保険証をめぐっては、システムの設計や開発を受注した企業から自民党への献金も明らかになりました。先の国会で「政治とカネ」の問題がテーマになりましたが、国民の権利より財界の利益に奉仕する政治のあり方が問われています。
どんな政策も、誰のために何のために実施するのかが重要です。財界本位のデジタル化や経済成長ではなく、いのちとケアが大切にされる経済政策への転換が求められます。
私たちの大切な保険証を守るために、署名を集めるなど一緒に声をあげましょう。財界の言いなりで国民の声を聞かない政権には、退場してもらうしかありません。
※マイナ保険証 マイナンバーカードの取得後、一定の手続きによって保険証機能を付けたもの。7月時点でマイナ保険証の利用率は11.13%にとどまる
いつでも元気 2024.10 No.395
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