いつでも元気

2008年5月1日

特集1 いま、新たな展望を創り出すとき! 全日本民医連第38回総会―鈴木 篤 新会長に聞く

 三月六日~八日、横浜市で第三八回全日本民医連定期総会が開かれました。「いま、新たな展望を創り出すとき!」と掲げた今総会。ポイントを、新会長の鈴木篤さんに聞きました。(多田重正記者)

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鈴木篤さん
全日本民医連会長、1947年生。東京勤労者医療会理事長

―総会の特徴をひとことでいうと…。
鈴木
 社会保障改悪、貧困・格差拡大、医療崩壊など厳しい情勢ですが、世論を変え、情勢を自らの手で切り開いてきたことが確認された総会だったと思います。
 二年前には憲法が改悪されようとし、貧困・格差拡大や、医療崩壊などは、世論になっていませんでしたね。しかしいま、マスコミも医療費抑制策を批判し、医療崩壊や貧困の特集を組むようになっています。
 民医連も世論を変える大きな役割を果たしてきました。医療崩壊の問題でも、地域や共同組織、医師会などと協力してシンポジウムを各地で成功させ、医療関 係者と患者・住民が一体となって解決しようとするとりくみが拡がりました。
 看護師不足問題では民医連独自で署名を一〇〇万筆以上集め、請願が国会で三たび採択されました。これは国会史上初めてのことです。
 さらに高齢者生活実態調査や国保証取り上げによる死亡事例調査など、国民のおかれている深刻な実態をあきらかにする調査にとりくみ、記者会見やビラなどで世に訴えてきました。高齢者生活実態調査では共同組織とともに、二万人もの方に答えていただきました。
 マスコミ関係者に、「民医連だからこそできた」といわれるのは、地域に出て住民のくらし、患者さん・利用者さんによりそって医療・介護をしているという ことです。地域に起きている具体的な事例をつかんでいる。だからこそマスコミも事例を聞きにやってくるという循環ができてきたと思います。

「まっすぐな人権意識」について

―スローガンの「まっすぐな人権意識」も印象的です。
鈴木
 民医連は原爆症集団認定訴訟、水俣病訴訟、東京大気汚染公害訴訟、薬害肝炎訴訟などにもとりくみ、人権を守り抜こうと患者さん、 被害者の方とともにがんばってきました。そこには「人権を守る」という原則がある。その一貫した姿勢を「まっすぐな人権意識」という簡潔な表現でスローガ ンにしました。
 また、今日の「人権問題」は「感じる」だけではなく、運動の中で「意識的に」高めていく問題です。薬害肝炎訴訟原告の福田衣里子さんは、「薬害は『利益 優先で自分さえよければいい』という考え方が生み出した。私は裁判の途中から、そういう考えの対極でいたいと思うようになりました」と語っています。 原 告のみなさんは和解後、「私たちの運動はB型・C型肝炎患者全員の救済をめざすものだ」とおっしゃった。これは運動の中で勝ち得た「人権意識」だといえる と思います。
―室料差額問題も議論になりました。
鈴木
 民医連は「無差別・平等」の医療のシンボルとして室料差額はとらない方針を貫いてきました。ある法人が病院新築にあたって室料差額をとる方向とわかり、中心的議論になったのが今回の総会のひとつの特徴でした。
 私たちは職員、共同組織の英知を集めて経営を守り抜き、無差別・平等という理念を貫く。その旗印として、室料差額は取らない。「まっすぐな人権意識」というスローガンは、こうした姿勢を示したものでもあります。
―室料差額の議論は、今後どのようにすすめられるのでしょうか。
 今総会では、民医連の姿勢が揺らいでいないことが確認されたと思っています。原点に戻って「考え直してほしい」という全国の代議員の発言があいつぎました。
 同時に総会参加者にとっても、今回の議論が自分たち民医連の理念と存在意義、「無差別・平等」の意味を見つめる契機になったと思います。全国で大いに議論しましょう。
 当該法人も民医連に結集していくと表明しています。そこに確信を持ち、話し合いを続けていきたいと思います。

拡がる怒りが国会を動かす

―人権を守り抜くとりくみは、全国で拡がりました。
鈴木
 リハビリテーションの日数制限問題でも、患者さんと私たちの共同が生まれました。多田富雄さん(東京大学名誉教授)という著 名な免疫学者の「リハビリ中止は死の宣告」という投書論文が新聞に載ったのがきっかけで大運動となりましたが、実はその前に民医連の言語聴覚士の投書論文 があったのです。その投書に応えるように多田さんの投書が出たんですね。
 政府は大きくなった運動を前に、今年度の診療報酬改定で一定の見直しをおこないました。しかし、日数制限そのものは残されています。引き続き、日数制限の撤廃を求めていく必要があります。
―後期高齢者医療制度の中止・撤回の運動もますます拡がっています。
鈴木
 三月一二日、医療団体連合会(医療労働組合、保険医団体連合会、民医連な ど医療団体が加盟)の主催で国会内集会がありました。そこには民主・共産・社民・国民新党の野党四党のほか、自民党の一部議員まで来て、「後期高齢者医療 制度は中止を」と発言する状況です。参議院選挙で自公政権が大敗北し、後期高齢者医療制度の中止・撤回を求める運動と世論を国会議員も無視できなくなって いるのです。
 しかし国は一部「凍結」はしましたが、高齢者を差別する制度そのものは始めるわけで、国民の怒りは収まりません。後期高齢者医療制度に対する自治体の意見書・反対決議は全自治体の三割、五五三にもなり、増え続けています(四月三日現在)。
 高齢者をめぐっては、介護保険から事業者に払われる介護報酬が低く、十分な介護が提供できない、ヘルパーのなり手がないという問題もあります。高齢者の 医療と介護をどうするのか。医療者、介護事業者、住民、自治体がいっしょに考えるときにきているのではないでしょうか。

「ともに声を あげよう」という訴え通る時代

新綱領草案―創造的教育運動に

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確信に満ちた発言があいついだ総会

―今総会では新しい民医連綱領草案が示されました。
鈴木
 いまの民医連綱領は歴史的価値のあるもので、この旗印のもとに多くの医療 従事者が集まり、いまの民医連を築いてきました。その精神を変えるつもりはありません。ただ、二一世紀のいま、「民医連とはこういう組織です」ということ を、わかりやすい言葉で伝わるものにしたいという声の反映です。青年職員も大いに議論に参加してほしい。自分たちの存在意義を考え、後継者養成、民医連の 精神を引き継ぐ運動として綱領改定を考えてもらえたらと思います。
 「創造的教育運動」といってもよいかもしれません。共同組織の人からも大いに意見をほしいと思います。
―医療・介護制度再生プラン(案)も示されました。どんなねらいが?
鈴木
 医師・看護師、さらに介護関係者も足りないことは世論になってきた。ではどうするかということが議論になる段階にきています。
 要求を掲げ、それをどう実現するか、国民の側から財源の問題にも踏み込む。どうしたら医療・介護制度を再生できるか。共同組織のみなさんや他の医療者・ 介護事業者などとも考え、共通認識を見出していく。これが再生プラン(案)を発表したねらいです。
 今後、消費税が大きな問題になります。どこから社会保障財源をもってくるのか私たちも問題提起し、総選挙でもたたかえる武器にしたいと思います。

たたかえば未来は開かれる

―職員や共同組織に訴えたいことは?
鈴木
 情勢はこれからも厳しい。医療・介護制度の再生にも時間がかかります。しかし事実と道理をふまえてたたかえば、未来は開かれ る情勢です。「新たな展望を創り出すとき!」。スローガンの先頭にこの言葉を打ち出したのは、展望は創り出せるという点に確信を持つことが大事だと考えた からです。
 今は転換期です。国民は痛めつけられてきた。しかし「構造改革」でやられっぱなしの時代から、「ともに声をあげていこう」という訴えが通る時代になっています。
 まだ少しですが、光が射してきました。しかしもっと光を求めたい。そのためにいまある暗雲を取り払う運動を、いっしょにすすめたいと思います。

総会スローガン

いま、新たな展望を創り出すとき! 国民と医療・福祉関係者の大同団結で、「医療・介護再生プラン」を実現しよう!

憲法を生かし、まっすぐな人権意識を持ち、連携と共同を強め、地域の医療と福祉を充実させよう!

新しい綱領の策定をめざし、全国的な連帯と団結の力で、民医連運動の担い手を育て、新たな時代を切り開こう!

 

【総会発言から】

情勢は切り開ける!

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世論を変える仕掛け役を果たしてきた民医連(記者会見)

 困難な情勢を切り開いてきた確信に満ちた発言があいつぎました。
京都の尾崎望代議員は ことし2月におこなわれた京都市長選のたたかいについて発言。民医連や市民が推す中村候補が、当選した門川市長に951票差まで肉迫。選挙後、中村候補が 掲げた政策が実現したことを報告。多人数、低所得者世帯を中心に国保料が引き下げられることになったものです。
鹿児島の吉見謙一代議員は救急医療の危機打開のとりくみについて発言。国分生協病院は地域社保協や医師会、自治体などに協力を働きかけ、市長との懇談を実現。市長は国分生協病院を訪れて職員や患者の声をききました。
昨年10月には国分生協病院主催の救急シンポジウムに副市長、郡歯科医長、消防局代表などが参加。2月には姶良地区循環器救急ネットワーク協議会が結成さ れ、自治体代表、郡歯科医、救急病院、消防局代表などが参加し、心筋梗塞に輪番で対応することも決めるなど共同が広がりました。

室料差額問題

新病院建設にあた り、室料差額徴収を決めた当該法人の代議員は「医療者が個室は必要ないと判断しても、患者の『個室にしてほしい』という権利をどうするのか議論した」と。 組合員や職員で推進委員会をつくり、200回以上の地域懇談会をひらき、医療生協の総代会で決定したことで「差別を持ち込むことにはならず、組合員や個室 を選びたい人も含めた事業計画にしようという決断だ」と述べました。
これに対し大阪の池田信明代議員は「療養環境の整備や個室を増やすことは重要。個室希望も当然の要求」と述べた上で「問題はお金のある人しか希望が出せないこと。総代会で決定したというが、『強者の多数決』に陥っていないか。もう一度議論を」と発言。
福岡の山内正人代議員は健和会の再建について。自己の力量を過信し、主体的力量を超えた過大投資で事実上の倒産に陥り、93年度には139億円の債務超過に。しかし差額徴収せず、07年度で債務を解消する見込みと発言。
北海道の玉井美恵子代 議員は、看護師の中途採用面接での経験を紹介。以前の病院で「個室料をとる部屋の前では背筋を伸ばし、笑顔をつくってノックする自分に気付いた。自分はお 金で患者を差別しているのではと悩み、心が変になる前にやめた」と語った看護師がいたことを話しました。

「宗谷の医師は地元から」と市ぐるみ

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何枚も記念撮影を。前列の制服の女子2人とその後の白衣の2人が中学生。女性2人と後列右から2人目と4人目が医師。先生たちに囲まれて

 深刻な医師不足の実情が報告されるなか、感動を呼んだ話。北海道稚内市で、医師・ 看護師になりたいという小学校高学年と中学生を対象に、「進路探検・医師講座」が開かれました。呼びかけたのは「地域医療を担う医師は地元から輩出した い」と願う稚内中学の平間信雄校長ら市内4中学校の校長先生。2月19日、保護者らをふくめ66人が集まりました。
 講師を務めたのは北海道勤医協中央病院の4人の研修医。佐藤健太さんが「医者の夢~現在・過去・未来」と題して医師の仕事とはどんなものかなど講演し、 4人で質問に答えました。生徒たちからは「中学生のときの成績は?」など、ストレートな質問が飛び出し、将来への希望や地域の期待などが感じられる2時間 となりました。
 「参加した小中学生の数にびっくり。真剣な目が印象的でした」と青年医師たち。稚内市長・教育長、宗谷医師会会長、市連合PTA会長も参加し、市をあげ てのとりくみに。「地元でがんばる医師を育てたい」と願う全国を励ましました。


新しい展望を育てていきましょう

韓国・緑色病院 梁吉承院長

 来賓の梁吉承院長のあいさつです。

genki199_01_05 総会スローガン「いま、新たな展望を創り出すとき…」に深く共感しています。新自由主義の波は世界的なものですが、韓国でも、深刻な二極化現象が生じ、医療の公共性はさらに失われつつあります。
●韓国で唯一、運動でつくられた病院
 韓国で大衆的な保健医療運動が組織的に始まったのは、民主化運動と同じく一九八七年です。しかし活動は困難で、看護師が中心となった保健医療労働組合は 全国的な産別組織として一定土台がありますが、医師、歯科医、漢方医など職種別の組織はほとんど土台がありません。
 そのなかで緑色病院は韓国で唯一、運動によってつくられた病院です。職業病とのたたかいでたくわえた資金をもとに、保健医療運動をしてきた人びとがつく りました。公共医療が弱い韓国で新しい保健医療運動の根拠地となるため努力し、ことし九月に開院満五年を迎えます。
 新自由主義の荒波のなかで、緑色病院が原則と方向を失わず、今日まで生き延びたことは、ひとえにいっしょに働く職員の力です。学び奉仕し参加する病院を つくろうという職員の夢が、緑色病院を今日まで引っ張ってきました。私は、その夢こそが新しい展望だと考えます。
●互いの共通点と違いを力にして
 日本と韓国の運動を比較して、よく、歴史と躍動性といわれます。
 民医連は尊敬すべき長い歴史を持っています。この総会のような大きな集まりを、全国から来た同志とともに開くことは、私たちの夢です。国民から信頼され る団体でなければできないことですから、長い歴史はまさしく生命なのです。
 韓国は日本による植民地支配期から解放後、民族同士の戦争と独裁政権との命をかけた闘争を経て経済発展を成し遂げた、躍動性があります。保健医療運動の年月は短いが、活動性が生きています。
 大きな木である民医連と、ようやく一つの幹を伸ばしつつある緑色病院の連帯は、互いの共通点だけが力なのではなく、互いの違いも力としていかなければな らないことを教えてくれます。新しい展望を新しい運動方式に、新しい連帯方式に育てていきましょう。

いっしょにがんばりたいね

総会に参加した共同組織のみなさん

 今回の総会には、共同組織活動交流全国連絡会の二七人がオブザーバー参加しま した。医療生協組合員や友の会員は、職員がおこなった討議をどう感じたか。安藤秀夫さん(愛媛医療生協)、礒野博康さん(長野医療生協)、早川子さん (倉敷医療生協)、舩木幸子さん(北海道・道南勤医協友の会連合会)の四人が交流しました。

■社会を動かしてきた確信
安藤 民医連が情勢を打開してきた役割はすごい。職員も真剣で感動しました。
礒野 本当に! 薬害肝炎訴訟の話では、問題発覚当初、うちの病院でもカルテを全部調べ、該当しそうな人に連絡した。それが地元紙に載り、「こんな病院があってよかった」という声が出たことを思い出しました。
舩木 「経営が厳しくて職員の給与も少ない」なんていう中で、いい医療を、といってふんばってるんですもんね。
 寒冷地の室温調査の報告がありましたが、北海道でも今年は図書館に人がたくさん。日中の燃料代を節約しようとおにぎりを持って来て、夕方帰るんです。
早川 暖房代を倹約してる家が多くて、ヘルパーさんは何枚も着込んで訪問介護しているという話も出ていました。そんな実情を聞くにつけても、「そういう人たちは、室料差額のある個室には入りたくても入れないなあ」と思ったりして。

■室料差額のこと
礒野 室料差額は「お金を出せば特別な診療を受けられる」という混合診療の考え方。医療は社会保障ですから、受ける権利は平等に保障されないとおかしいです。「公的保険の中でやっていこう」という立場は譲れないのでは。
 なぜ差額をとらないのか、これまで正面から話す機会はあまりなかったけど、もっと議論したいですね。
早川 私のところでも「そんなに経営が大変なら、室料差額をとれば?」という意見はさらっと出ます。お金のある人はいいけど、ない人は出せないんだから、その選択肢は論外なんだけど。話しあわないといけんなあ、と思いました。

■全国の連帯。力の源は
安藤 民医連の連帯の力を感じましたね。この間三つの法人の経営困難に、全国から人や資金の支援をして乗り越えようとしている報告がありました。
早川 これまでもこういう連帯はあったのですね。二五年前に山 梨勤医協が倒産した時、北海道の職員たちが一二〇〇匹もの新巻鮭を届けてくれた、というエピソードを山梨の代議員が涙で紹介されて、私ももらい泣きしなが ら聞きました。今度、北海道勤医協の経営難で連帯基金を呼びかけた時、山梨からの反応が大きかったそうです。こういう歴史は伝えていかないと、と思いまし た。
礒野 こうして「命の平等」を実践しようと挑戦している民医連事業所は地域の宝だから、「ぜったい潰さない」と全国が連帯する姿勢もよく理解できました。

■前途は開けている
舩木 私も、同じ法人の職員が発言する姿に、「新しいことに向かってがんばっている、これが民医連職員なんだなあ」と励まされてしまいました。ときどき若い人たちを大丈夫かな? と思うこともあるけど、「共同組織もいっしょに向かっていかなきゃ」と。
早川 民医連の後継者をつくることにも積極的にかかわらなければ。専門研修で外に出る若い医師たちに、「帰ってきてね」と、組合員からエールを送り続けないとなあ、と。
礒野 共同組織が「来賓」ではなく初めて「オブザーバー」で参加できたことはうれしかった。われわれは部外者ではなく、民医連と共に歩む仲間ですから。
安藤 これまで情勢を切り開いてきたことに確信をもつと同時に、これからも切り開けることにも確信を持とう、前途は開けている、と思えましたね。

いつでも元気 2008.5 No.199

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