いつでも元気

2008年5月1日

特集2 コレステロールとつきあう 4人に1人が脂質異常症

生活習慣見直し適度な運動も

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土田弘基
千葉勤労者医療協会・慢性血管合併症研究所

 血液中のコレステロールが多い状態を「脂質異常症」といいます。「高脂血症」と呼ばれていましたが、日本動脈硬化学会が昨年、新しい指針を出し、呼び方を変えたものです。
 血液中の脂肪分(血清脂質)にはコレステロール、トリグリセリド(中性脂肪)、リン脂質、遊離脂肪酸などがありますが、コレステロールとトリグリセリド の一方、または両方が高い状態が脂質異常症です。動脈硬化を招き、脳血管障害(脳梗塞、脳出血)、虚血性心疾患(冠動脈硬化症)、慢性腎臓病、大動脈瘤な どを引き起こす重大要因となるため、恐れられています。
 日本人の死因の2位は心臓病、3位は脳卒中で、両者とも動脈硬化が関係しています。合計で約30%で、1位のがんに匹敵するほどです。

動脈硬化おこすLDL

 コレステロールは人間の身体に必要なものです。細胞膜の成分のひとつで、ホルモンや胆汁などの合成にもかかわります。エネルギー源にもなります。
 しかしコレステロールが高すぎると、冠動脈硬化症の発症率・死亡率を上げることがわかっています。トリグリセリドは、単独で動脈硬化性疾患に影響するかははっきりしていませんが、メタボリック・シンドローム()の要因のひとつで、他の要素と相まって動脈硬化を起こす可能性が指摘されています。
 コレステロールはそのままでは水に溶けず、血液中では特殊なタンパク質がくっついた状態で循環します。これをリポ蛋白といいます。サイズの大きい順にカ イロミクロン、超低比重リポ蛋白(VLDL)、中間比重リポ蛋白(IDL)、低比重リポ蛋白(LDL)、高比重リポ蛋白(HDL)に分類されます。
 この中で直接、動脈硬化を招くのはLDL(LDLコレステロール)で、「悪玉コレステロール」と呼ばれることもあります。逆にHDL(HDLコレステロール)は、余分なコレステロールを抜き取る働きをするため、「善玉コレステロール」と呼ばれたりします。
 これらのメカニズムを明らかにする先駆けとなったのは、米・マサチューセッツ州のフラミンガムで住民を長年追跡調査した「フラミンガム心臓研究」です。 研究の背景には、米国では心血管疾患での死亡率が高かったこと、朝鮮戦争で若くして命を落とした米国兵士を病理解剖した際に、心臓に血液を送る冠動脈の硬 化が目立ったことなどがあります。
 高血圧、高血糖、喫煙なども血管の壁をもろくし、動脈硬化を引き起こす要因となります。

(注)メタボリックシンドローム(代謝異常症候群) へそまわり85cm以上(男)、90cm以上(女)でかつ、(1)脂質異常、(2)高血圧、(3)高血糖のうち2つ以上が当てはまるもの。内臓脂肪がたまって体内代謝に異常が起き、動脈硬化の要因が複数ある状態をいう。

患者数は3000万人に

 脂質異常症と診断する基準は、トリグリセリド(TG)150以上、LDL140以上、HDL40未満のいずれかにあてはまることです(単位mg/dl、2007年日本動脈硬化学会)。従来の「総コレステロール220以上」は診断基準からはずされました。
 わが国の脂質異常症患者は、2003年に約3000万人に達したと推定されています。日本人の4人に1人が脂質異常症ということです。
 私たちが05年まで9年間健診を続けた成人1282人中初期に肥満を認めた無処置者(65人)の中性脂肪は平均176・5mg/dlから228・8mg/dlにもなりました。肥満が脂質異常に密接にかかわっていることをしめしています。
 近年わが国でも脂質異常症患者と肥満者が増えています。脂質異常症がメタボリックシンドロームと大きくかかわっているという視点で分析し対応することが重要です。当法人がおこなったある集団健診でも受診者の10%がメタボリック・シンドロームでした(図1)

図1 健診におけるメタボリックシンドロームの割合
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他の病気や薬なども原因に

 脂質異常症は基本的に症状がありませんが、長期間続くと、肘や膝、手の甲やアキレス腱などに黄色い脂肪の固まりができる黄色腫、眼球の黒目の周辺が白く 濁る角膜輪、肝臓や脾臓が大きくなる肝脾腫、血管内にお粥のようなかたまりができる粥  状硬化症などが見られることがあります。
 また、急性症状として急性膵炎、脾梗塞、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、壊疽や間欠性跛行(血流が悪くなり、歩くとふくらはぎが痛いなどの症状が出る)などが見られることもあります。
 さらに脂質異常症には大きく分けて脂質異常が単独で起きる原発性と、他の病気などが引き金になる続発性があります。続発性は全体の40%といわれ、甲状腺機能低下症などの内分泌代謝疾患、薬剤、腎臓や肝臓の病気、免疫の病気、ストレスなどによって引き起こされます。
 問診では本人や家族が動脈硬化性疾患にかかったことがあるかどうか、冠動脈疾患、狭心症、間欠性跛行があるかを聞きます。続発性かどうかの診断も重要です。
 続発性では脂肪異常症を引き起こしている疾患にも注意が必要です。

治療法は

  治療の原則は、生活習慣の是正(生活のリズムの正常化、食事療法と運動療法)に加えて、薬剤療法が必要です。脂質の管理目標値は動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007(図2、3)に従っておこないます。

図2 脂質異常症の治療(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007)
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図3 リスク別脂質管理目標値
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生活習慣是正
 一次予防は生活習慣の是正に尽きます。十分な睡眠をとり、規則正しい生活を送り、ストレスをためないことです。危険因子を評価し、危険因子の数に応じてグループ分けし、対策をおこないます。
 代謝異常をきたす最大の原因として、内臓脂肪の増加があります。この異常を改善するため、現体重を5%減らすことを目標にし、適正体重を維持します(内臓脂肪の減少)。
 コレステロールを下げるには、後述する食事療法、運動療法などのほか、禁煙も効果があります。

食事療法
 コレステロールは食事によるものと肝臓で合成されたものが自動的にバランスをとっています。コレステロールを適切に保つには、食事の過剰・過少摂取に注意します。
 1日あたりの適正カロリーは標準体重1kgあたり25キロカロリーがよいとされています。標準体重は身長(m)×身長(m)×22で計算できます。
 鶏卵、レバー、乳製品、魚卵、イカ、ウナギなどはコレステロールが多くふくまれるので取りすぎないようにします。緑黄色野菜を多く取ることもすすめられています。
 なお、コレステロールを下げるには植物性脂肪(リノール酸)がよいといわれていますが、はっきり証明するデータはありません。

運動療法
 運動は急に息を止めたり力を入れる「無酸素運動」ではなく、酸素を取り込みながらおこなう「有酸素運動」が脂肪燃焼に有効です。1日20~40分の軽く汗ばむ程度のウオーキングを週3日以上おこないます。

薬物療法
 冠動脈疾患にかかったことがある人は薬物療法もくわえます(二次予防)。生活習慣・食習慣是正、運動療法の効果がない場合も同様です。

特殊療法
 先天的な代謝障害が原因となる「家族性高コレステロール血症」では薬物療法が十分な効果をあげないことがあります。その場合は血漿交換療法や、特殊な器 械を使ってLDLを除去するLDLコレステロール吸着療法、肝移植なども考慮します。

肥満対策が大きな核に

 日本では脂質異常症患者のうち、治療を受けている人は約22%、670万人と推定されています。
 WHO(世界保健機構)レポート(2002年)によると冠動脈疾患、脳血管障害による死亡が1200万人といわれています。その50%は危険因子(タバ コ、血圧、アルコール、コレステロール、肥満度、果物・野菜の摂取不足、運動不足、違法薬の使用、低栄養、鉄欠乏など)の対策で減らせるとし、特に肥満対 策は大きな核になると報告しました。

具体的症例から

図4 治療成功例のデータ推移(07年2月~08年2月)
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 最後に治療成功例(図4)を紹介します。42歳男性で、2 型糖尿病(後天的な糖尿病)と脂質異常症を伴ったメタボリックシンドロームです。過去にかかった病気では特記すべきことはありませんが、母が耐糖能異常、 母方の家族に糖尿病、父は高血圧でした。本人は高校までバレーボールをしていましたが、その後は運動をしていませんでした。
 23歳からメーカー営業となり、28歳で結婚後、体重が増加。20歳で75kgだった体重が36歳で90kgに。36歳の時、健診で糖尿病を指摘されま すが治療せず、41歳でのどの渇き、体重の減少が見られ、千葉健生病院を受診しました。飲酒は毎日ビール350ml、焼酎200ml、喫煙は20歳から1 日40本でした。
 治療では栄養指導で総カロリーを1800キロカロリーに制限、アルコールは半分に。運動は毎日30分歩くこととし、薬物療法もおこないました。
 結果は、体重はもちろん脂質代謝、糖代謝、肝機能が改善。筋肉量(主に背筋と腸様筋)も増え、動脈硬化をおさえる体内物質(アディポネクチン)もわずかに改善(図5)。
 初診時、血圧は正常でしたが、腹部大動脈の石灰化など、動脈硬化がすすんでいました。この症例から推定できることは、動脈硬化が一定すすんでも対策をおこなえば改善が期待できるということです。
 しかしさらに病状がすすみ、臓器障害が起きた場合には、対策はむずかしいのではないかと思われます。

図5 治療前後の推移(腹部CT)
千葉健生病院放射線科
佐藤元氏計測
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内臓脂肪面積 130cm2 70cm2
皮下脂肪面積 189.8cm2 114cm2
脂肪対筋肉の面積比 27.6% 40.2%
アディポネクチン 4.11μg/ml 4.77μg/ml

◆上のへこみがおへそ。黒く見える部分が脂肪。7カ月で脂肪はほぼ半減

 


 

コレステロールの代謝

 コレステロールは、大きく分けて食事によるもの(外因性)と、肝臓でつくられるもの(内因性)があります(下図)。
 食事中の脂肪分は腸から吸収されてカイロミクロンとなります。血管内でカイロミクロン内のトリグリセリドが分解され、コレステロールを多く含むカイロミ クロンレムナント(レムナントとは「残り物」の意味)となり、肝臓に取り込まれます。
 肝臓でつくられるVLDLは、血管内でトリグリセリドが分解されてIDLとなった後、コレステロールを多く含むLDLとなっていきます。このLDLはコ レステロールの供給源となり細胞に取り込まれます。過剰に取り込まれると血管壁に入り込んで酸化してたまり、粥状硬化症を起こすなどして動脈硬化の原因に なります。
 一方、HDLは主に肝臓と小腸で合成・分泌され、末梢細胞の余分なコレステロールを抜き取り、VLDLやIDLに引き渡します。
 これらのリポ蛋白が過剰にできたり、コレステロールの代謝が妨げられることで脂質異常症になります。

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いつでも元気 2008.5 No.199

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