声明・見解

2008年1月19日

【声明2008.01.19】医療崩壊の危機を深刻にする08年診療報酬改定

2008年1月19日 全日本民主医療機関連合会

 1月18日中央社会保険医療協議会総会が開催され、08年診療報酬改定の「現時点の骨子」 を確認した。今後パブリックコメント、公聴会を経て決定されていくが、今回の「骨子」は重大な問題を含んでおり、今日の日本の医療の矛盾を解決するどころ か、医療崩壊を一層深刻にする内容となっている。

1.改定幅について
 08年改定率は本体部分を0.38%引き上げる一方で、薬価などの改定を1.2%引き下げ、全体の会定率はマイナス0.82%と2002年以降4回連続 のマイナス改定となった。また改定の内容も、「大きなタンカーの小さな舵」といわれてきたように、政策誘導の具とされており、第一線で奮闘している地域病 院や診療所にとっては大幅なマイナス改定になる可能性がある。今日の医療崩壊の危機の最大の要因は、この間の医療費抑制政策に基づくマイナス改定によるも のであり、今回の改定はその危機を一層深刻な事態に導くことを危惧する。われわれは、診療報酬のマイナス改定ではなく、診療報酬を大幅に引き上げることを 重ねて要求する。
 また、今回の本体部分0.38%の引き上げによる国庫負担増300億円のうち、生活保護の母子加算の削減によって50億円を捻出するとされている。国民生活の最低基準を保障する生活保護基準の引き下げは許されない。

2.小手先の改定では、医療の崩壊の危機をくいとめることはできない
 今回の改定の重点の一つとして、産科・小児科医療を始めとする病院勤務医の負担の軽減、救急医療への対応が掲げられている。しかし、小手先の診療報酬の 操作だけでは、事態はなんら改善しない。医療費を大幅に増やし、医師数の削減政策を改め、医師の大幅な増員を図ることが必要である。 
 また、産科・小児科医療への診療報酬の評価の財源を、再診料の引き下げによって担保しようという動きがある。再診料は、最も基本的な技術に対する報酬であり、技術料の削減には反対である。

3.診療報酬改定によって、医療の現場に混乱を招いてはいけない
 06年改定によって、7:1看護が新設された。これによって、看護師不足が顕在化し、多くの病院で看護師の確保が困難となり、病院の縮小や閉鎖など、経 営が悪化する事態が生まれた。このような結果は当然予測されたはずである。国は、生じる事態を正確に予測し、医療の現場に混乱をきたさないようにする義務 がある。
 08年改定においては、7:1看護の算定要件に、看護師数に加えて、「看護必要度」の導入と医師数の要件が検討されている。この新たな要件によって、 7:1看護の要件を満たすことができない病院が続出することを危惧する。そもそも日本の病院における看護師の配置数は諸外国と比較してきわめて低く、看護 師の大幅な増員と配置基準の引き上げ、その報酬の改善を基本にすべきである。そうでなければ、安心・安全の医療は実現できない。今回の要件の追加は、看護 師の再配置によって事態を乗り切ろうとするものであり、認められない
また医師の要件は「病床数に対して10分の1以上」とされているが、看護師の獲得競争のように、医師の偏在を招くおそれがあり、7:1看護以外の病院の医師不足を深刻にさせるおそれがある。

4.後期高齢者の医療を差別すべきではない
 後期高齢者医療制度の創設に伴って、外来においては、かつての外来総合診療料のような包括制が検討されている。年齢によって受ける医療に差別を持ち込む ことには反対である。この包括制には、「高齢者担当医のもとに、主病と認められる慢性疾患の治療に対して1医療機関のみにおいて算定する」とされており、 高齢者のフリーアクセスを制限することになる。また、75歳以上の再診料を75歳未満よりも引き下げることが検討されているが、このような診療報酬上の差 別は認められない。

5.地域医療を担っている中小病院の経営がなりたたなくなる。
 08年改定では、比較的規模の大きい急性期病院に対して、収益増となる項目の重点的な配分が検討されている。これらの病院では、06年改定においても DPC、7:1看護の取得などにて収益増となった病院が多い。08年改定によって、収益増となる要件をクリアできる病院とクリアできない病院との格差を生 じ、二極分化をきたす可能性がある。
 一方、地域の中小病院は、06年改定で療養病棟入院基本料の再編と引き下げ、リハビリ医療の見直しなどによって経営悪化した病院が多く、今回の改定で も、再診料の引き下げ、特殊疾患療養病棟入院料の算定要件の変更、療養病棟入院基本料のさらなる引き下げ、7:1看護要件の見直しなどにより、医療経営が さらに厳しくなり、地域医療の崩壊を一層まねくことが予想される。これらの急性期を担いながら地域の慢性期の医療、外来診療を担っている病院の経営改善に 結びつく点数改定が必要である。
 06年改定によって、地域の中小病院の機能が低下し、療養病床の廃止などにより、急性期後の患者の受け入れが困難になっている。中小病院が崩壊すること は、急性期を担う大病院や診療所の機能にとっても重大であり、中小病院の機能を維持するための診療報酬上の改善を重ねて要求する。

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