声明・見解

2008年2月14日

【声明2008.02.14】医療事故を取り扱う公正中立な第三者機関の実現をめざして当面強化すべきこと

2008年2月14日
全日本民主医療機関連合会
       会 長  肥田 泰

 07年10月に厚労省が公表した「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する試案(第二次試案)」、また12月に自民党・医療紛争処理のあり方検討会がまとめた「診療行為に係る死因究明制度等について」をめぐって議論が沸騰しています。
 全日本民医連は去る1月19日に、医療事故を取り扱う第三者機関の設立をめざしてシンポジウムを開催しました。そこでは医療者と医療事故被害者、患者、 事故調査専門家などが一堂に会して、厚労省第二次試案や自民党案の何が争点になっているのか、今後検討が必要なことは何なのか、討論しました。
 医療事故調査委員会(仮称・以下、事故調)をめぐる問題点(組織の目的をもっと鮮明にすること、医師法21条や刑事手続きとの関連を明確にすること、な ど)があきらかになり、組織のありかたについても、国主導なのか、地域のネットワークを生かした形なのか、という問題提起がありました。
 同時に、医療事故の解決には患者との信頼関係が極めて重要であること、医療事故に対する刑事介入の問題でも、医療者側と患者側の受け止めに違いがあることも浮き彫りになりました。
 民医連はこれまで、「医療事故を取り扱う第三者機関の設立を求める要望書(2007.6.14)」や「厚労省第二次試案に対する意見(2007.11.2)」で、私たちの目指す方向を明らかにしてきました。
 事故調については、将来的にどのような制度設計が求められるのか、当面どの範囲から出発するのか、もっと国民的な議論を尽くし、よりよいものにしていく 必要があります。例えば第三次試案の提示・パブリックコメントも求められています。引き続き幅広い人たちから意見を聞き、議論を積み重ねていきましょう。
 一方で、事故調の実現を待たずとも、(1)医師をはじめとする医療従事者がプロフェッショナリズムを発揮し、医療機関自ら努力すべきこと、(2)現存す るネットワークの最大限の活用、(3)またそれを支援するために国や行政がいますぐ実施すべきこと、があります。以下6点提案します。

1.「相談窓口」としての医療安全支援センターの機能強化を
 患者からも医療機関からも、相談できる窓口の整備が不可欠です。2003年から、医療安全支援センターが都道府県を中心に設置されています。年間の相談件数は4万件以上にも達しています。自治体任せにせず、国の責任で十分な人材と予算をつけ、医療安全支援センターの機能強化をはかることが必要です。

2.院内事故調査委員会の充実のために
 医療事故が発生した際、当該医療機関自らが速やかに調査委員会を立ち上げ、事実経過を明らかにして患者・家族に説明をし、原因究明・再発防止のために調 査を進めることが基本です。民医連では、事故調査委員会に第三者的立場の外部委員を加えることを推奨しています。
 しかし、いま日本では医療事故調査について確固とした指針がありません。とりわけ中小病院では、専門医の人数が少ないうえに外部委員の確保も困難で、事故に直面してとまどうことが少なくありません。
 国と厚生労働省は事故調査委員会の構成や調査の方法についてガイドラインを示すなど、医療事故調査の方法の確立を急ぐことが求められています。また、地域の医療ネットワークで、外部委員や適切な専門家の派遣など、院内事故調査委員会の活動を援助する仕組みが必要です。

3.院内ADR(裁判外紛争処理)の充実のために
 医療事故がおこったら、当該医療機関自らが患者・家族に対してきちんと説明し、患者・家族の思いを受け止め、対話による解決をめざすことが基本です。そ のために、各医療機関で担当者(メディエーター)を配置することが必要になります。いくつかの病院で取り組みが始まっていますが、その人的配置や研修に対 する費用の保障はなく、すべて病院の持ち出しです。特に中小病院では人材の確保・養成が大変困難です。また、院内のADRだけで解決に結びつかないとき、 より客観的な立場からの助言や、他の機関との連携も必要と考えます。
 院内ADR促進のために、医療メディエーターの養成・研修の強化、医療ADRネットワークの構築を進めることが必要です。また、院内ADRを実施する病院に対して、費用などの援助を求めます。

4.解剖体制の充実を
 医師法21条にもとづいて警察に届け出をし、捜査が開始された場合、「捜査上の秘密」ということで司法解剖結果が開示されないことがほとんどです。これ は、医療事故の解決という点でも、遺族と信頼関係を築く上でも、大きなマイナスです。解剖結果が不明なままでは院内の事故調査も思うように進まず、遺族に も適切な説明ができないまま時間が経過します。また、部分的な情報が医療機関と遺族それぞれに対して別々に伝わることもあり、遺族の不信感をいたずらに増 大させます。司法解剖結果を、医療機関と遺族両方に対して、速やかに開示することが求められています。
 また、警察に届け出る必要がないと判断した場合でも、死因究明のために解剖が必要です。当該病院の病理解剖では客観性が保てない場合、地域の他の病院に 解剖を依頼することになりますが、医療事故の疑いがある場合はなかなか応じてもらえないのが実情です。また、その際の解剖費用が遺族の負担になることも問 題です。警察に届けない死亡についても、遺族または医療機関から依頼があれば、速やかに解剖できる体制を大学病院、基幹病院を中心に地域ごとに整備することを求めます。行政としてその費用の補填を検討し、承諾解剖制度の活用を促進する施策を求めます。解剖体制の充実とともに、CTやMRIによる全身精査の普及・充実も必要です。

5.医療機能評価機構の「医療事故収集事業」の充実を
 2004年10月から、医療機能評価機構・医療事故防止センターによって医療事故の収集と分析が始められました。現在は、大学病院や特定機能病院、地域 の基幹病院など、比較的大きな病院を中心に、553の医療機関(274の報告義務対象医療機関と279の参加登録医療機関)を対象に事例が収集されていま す。この機能をさらに充実させ、すべての医療機関から医療事故情報を収集することをめざし、教訓をわかりやすく全国に発信してもらいたいと思います。

6.信頼できる自律的な行政処分の確立のために
 現在、日本の医師・看護師等に対する行政処分は医道審議会で検討されますが、独自に調査する機能はもっておらず、刑事判決や民事判決の後追いにすぎない ものになっています。事故調の議論では、調査報告書を行政処分に活用することが検討されていますが、たとえば危険な行為を繰り返すリピーター医師への対応 などが調査報告書の活用でできると考えるのは筋違いです。
 医療従事者に対する苦情を広く受け付け、独自に調査し、行政処分をおこなうことのできる機関をつくるべきです。そこで肝心なことは、目的は処分そのものではなく、医師をはじめとする医療者全体のモラルと医療水準を高めることにある、ということです。
 諸外国の例でも、免許剥奪などはごくまれで、多くは再教育や行為の制限(難度の高い手術はできない、実施する場合は上級医師が必ずつくなど)を中心に運用されています。
 また、処分の対象は必ずしも医療事故ばかりではなく、医療者として不適切な行為全般にわたると考えます(例えば不十分な知識・技術、暴言・暴力、セクハラなど)。
 そのために医師会・各学会・病院団体などが協力して専門職自らが互いを律する流れをつくり、独立した透明性の高い行政処分の機構を確立することが求められます。

  私たちは、一貫して医療事故を取り扱う公正・中立な第三者機関の設立を要望しています。以上述べた6点は、今まさに医療機関も患者も、切実に求めていることではないでしょうか。また、事故調の議論が熟してあらたな制度を展望する際に土台となるものだと考えます。
 医療費抑制政策のもとで、医師・看護師の数は絶対的に不足しています。諸外国と比べてもきわめて低い人員基準の中、労働強化が極限に達しています。医 師・看護師は、献身的な努力で医療現場を支え、安全性を保つ努力を続けていますが、医療事故問題が士気の低下を招いています。医師・看護師が安心して働 き、患者との良好な関係を築いていくために、公正・中立な第三者機関を求める議論をさらに大きく巻き起こしていきましょう。

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