いつでも元気

2008年8月1日

特集2 C型肝炎 進歩したインターフェロン治療

医療費助成も活用しよう

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石川 徹
東京・小豆沢病院内科

 昨年末、国を動かした「薬害肝炎訴訟」原告団は、和解成立後も「命の線引きは許さない」という 立場で、すべての肝炎患者に対する医療費助成などを求めて活動を続けています。その成果の一つとして、ことし4月からC型肝炎(およびB型肝炎)のイン ターフェロン治療に対する医療費助成が始まりました()。
 この治療は、インターフェロンという薬を注射し、肝炎ウイルスを排除する治療法です。医療費助成は感染の原因を問わず受けられます。インターフェロン治療を一人でも多くの患者さんに検討してもらえたらと思います。
 あらためてC型肝炎とはどんな病気なのかお話しましょう。

 

表 インターフェロン助成で月々の負担が軽くなる          (国の基準)

     階層区分 自己負担限度額(月額)
世帯の区市町村民税(所得割)課税額が
65,000円未満の場合
10,000円
世帯の区市町村民税(所得割)課税額が
65,000円以上235,000円未満の場合
30,000円
世帯の区市町村民税(所得割)課税額が
235,000円以上の場合
50,000円

   ※助成は1年間。1度だけ利用できる
   ※東京では非課税世帯は自己負担なし


汚染された血液が原因に

 C型肝炎は輸血などでウイルスに「感染」して起きる病気です。現在、C型肝炎に感染している人は国内で250万人と予想されています。
C型肝炎ウイルスに感染すると7割以上の方が慢性肝炎となり、肝臓が炎症をおこし肝臓の細胞が破壊され、線維化がおこります。20年から40年をかけてゆっくりと肝硬変、肝がんへ向けてすすんでいきます。
 このウイルスが発見されたのは1988年ですが、それ以前から輸血を受けた人に肝炎が発症することがわかっており、日本では1960年代には輸血を受けた人の約半数が肝炎になっていました。
 欧米では輸血で使う血液は第2次世界大戦中から献血が当たり前でしたが、日本では長い間「売血」が使われていて、ウイルスに感染した血液が多く含まれて いたのです。当時、そのような血液を提供していたのは、「ミドリ十字」(現田辺三菱製薬)の前身の会社でした。
 輸血用血液の主流が日本でも献血になると、ミドリ十字社は「売血」からフィブリノゲンなどの血液製剤をつくり、「止血剤」として販売しました。これが薬害エイズや薬害肝炎を引き起こしたのです。

C型肝炎は「医原病」

 C型肝炎は輸血などが原因といいましたが、現在C型肝炎の患者さんで輸血歴がある方は半数以下に過ぎません。それ以外の方はどうやって感染したのでしょうか。
 多くは予防注射や不適切な医療行為が原因だと考えられています。医療現場では現在、注射器や注射針は「使い捨て」で、同じ注射器・針を違う人に使うこと はありません。ところが戦後の日本では長い間、予防注射などで注射器・針などが使いまわされていました。この使いまわしが人から人へと感染を拡げたと考え られています。
 厚労省が正式に予防注射について「一人一筒一針」の通達を出したのは1988年です。輸血や予防注射の実施などの医療行政について、国は直接的な責任を 持っていました。国際的な基準から見ても安全性に対する配慮が遅れ、国に重大な責任があったことが、肝炎訴訟で厳しく指摘されています。C型肝炎は国が引 き起こした「医原病」(医療が原因の病気)といわれるゆえんです。

肝がん死の70%がC型肝炎

図1 肝細胞癌における肝炎ウイルスの陽性率
(日本肝癌研究会、第17回全国原発性肝癌追跡調査報告)
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図2 C型肝炎ウイルスの年齢別陽性率
(2006年 東京都板橋区肝炎ウイルス検診)
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 日本国内では毎年3万5000人ほどの方が肝がんで亡くなっていますが、その原因の70%がC型肝炎です(図1)。肝臓病になると「疲れやすい」「食欲がなくなる」「体が黄色くなる」などといわれますが、慢性肝炎にはこれらの自覚症状がありません。肝硬変や肝がんでも症状が出るのはかなり進行した状態ですので、検査による早期発見が重要です。
 C型肝炎に感染しているかどうかは血液検査でわかります。厚生労働省は「C型肝炎等緊急総合対策」の一環として、2002年から06年までの5年間に、 C型とB型の「肝炎ウイルス検診」を全国でおこないました。全国で863万人あまりが検診を受け、9万9950人のC型肝炎ウイルス感染者が発見されまし た。年齢別に見ると、高齢者ほど陽性率が高くなっています(図2)。

血液検査で肝炎を診断

 血液ではじめに調べるのは、「HCV抗体」検査です(図3)。この検査が陰性(-)の場合、C型肝炎ウイルスに感染していません。
 陽性(+)の場合は、現在C型肝炎に感染している人と、過去に感染したが治っている人が含まれます。インターフェロン治療でウイルスが排除された人も陽性になります。

図3 C型肝炎ウイルスの血液検査
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 詳しい血液検査が「HCV―RNA」検査で、これが検出された場合、現在C型肝炎に感染していると判断されます。ウイルスにはいくつかの「型」があり、感染している場合は型を特定する検査をします。
 型は日本人の場合、約7割は「1型」、3割が「2型」と呼ばれるものです。さらにウイルスの「量」も測ります。ほかにも検査をおこなって、総合的に診断して治療方針を決めます。
 いままで肝炎ウイルスの検査を受けたことのない方、とくに40歳以上の方はこの血液検査を受けることが必要です。住民検診や保健所でこれらの検査を受け ることができます。無料検査を実施している自治体も多いので、お住まいの自治体や、保健所、病院・診療所に問い合わせてください。

肝炎を「列車」にたとえて

図4 C型肝炎「列車」
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イラスト・井上ひいろ

 わたしはC型肝炎を「列車」にたとえて説明しています(図4)。感染したすべての人がC型肝炎列車に乗っているとします。感染した時点を始発駅として、そこから肝硬変あるいは肝がんにむけて次第にすすんでいきます。
 いまどれくらいのスピードで(肝臓の炎症の程度)、どの地点を走っているのか(繊維化の程度)が重要な指標になります。これらを血液検査で判定することになります。
●AST(GOT)、ALT(GPT) C型肝炎列車のスピードメーターです。数字が高いほど肝臓の炎症の程度が強く、それだけ早く病気が進んでいるということです。
 いつ測っても100(IU/L)を超えているなら「新幹線」でどんどん進んでいる状態、50くらいなら「各駅停車」、30以下ならどこかの駅に停車中、 インターフェロン治療でウイルスが排除できた方はC型肝炎列車から「途中下車」できたことになります。
●血小板 C型肝炎の場合、この数値がC型肝炎列車がどのあたりを走っているかをおおよそ示します。病気の進行にしたがって、少しずつ血小板が減ってきます。16万()以上あればまだ始発駅からそう遠くない、そして10万未満になるようなら肝硬変に近いと考えます。
 もうひとつ重要なのは、腹部の超音波(エコー)検査です。肝がんの早期診断に欠かせません。肝がんは相当進行するまで自覚症状がまったくありません。で すから血小板が減少しているような場合は、定期的な(3~6カ月に1回)超音波検査を忘れないようにしてください。

向上したウイルス排除率

 C型肝炎の治療には大きく分けて二つの考え方があります。一つは、C型肝炎ウイルスを排除するインターフェロン治療です。もう一つは、C型肝炎の進行を遅らせる治療法(ウルソデオキシコール酸の内服、グリチルリチン酸の静脈注射など)になります。
 C型肝炎はウイルスの感染によって引き起こされる病気ですから、ウイルスを排除することが根本的な治療になります。ですからC型肝炎の患者さんすべてに、インターフェロン治療を検討する必要があります。
 日本におけるC型肝炎に対するインターフェロン治療は1992年から始まっています。当時はウイルス排除の成功率は日本人のC型肝炎で一番多い「1型で高ウイルス」の場合は5~7%程度でした(図5)。

図5 C型肝炎(1型高ウイルス)に対する
    インターフェロン治療のウイルス排除率
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 その後、インターフェロン治療は進歩し、ウイルス排除率は向上しています。2001年にはリバビリンという内服薬とインターフェロンを使った併用治療が始まり、排除率が約20%になりました。
 そして2004年、ペグ・インターフェロンとリバビリンの併用治療が開始された結果、治療効果が約60%にまで改善しています。また、インターフェロン 治療が効きやすい2型の場合、排除率が約90%という結果になっています。厚生労働省の研究班が毎年、C型肝炎治療のガイドラインを発表しています。
 ペグ・インターフェロンとリバビリンの併用治療では、ペグ・インターフェロンを週に1回注射します。あわせて免疫力を高める内服薬リバビリンを毎日服用 します。これを24週間から48週間、場合によっては72週間まで続けます。
 この治療は以前のインターフェロン治療と同様に発熱や頭痛、貧血や皮膚のかゆみ、うつ症状などの副作用がありますが、適切な対応により多くの人は治療を 続けられます。治療を受けたことがない人はもちろん、以前に受けたがウイルスを排除できなかった人も再検討してください。 

肝機能が正常でも

 以前は肝機能のALT(GPT)が正常な患者さんには特別な治療をせず、定期検査でようすを見ていましたが、最近では積極的にインターフェロン治療をおこなうようになっています。血小板数とALTによって基準が示されています。
 まず血小板が15万未満の場合です。ALTが正常でも、慢性肝炎がかなり進んでいる可能性があります。きちんと検査し、インターフェロン治療を検討すべきです。
 次に血小板が15万以上の場合です。ALTが正常値でも血小板が31万を超えていたら、インターフェロン治療を検討してください。30万未満であれば定 期検査でようすを見てもよいのですが、最近ではこのような人に対してのインターフェロン治療で、70%以上がウイルスを排除できたという報告も出ていま す。とくにウイルスが消えやすい2型の方の場合は、ALTが正常でもインターフェロン治療をおすすめしています。

日常生活では感染しない

 C型肝炎ウイルスは血液を介して感染しますが、感染力は一度空気に触れてしまうとほとんど消失してしまうほど弱いものです。食べものや飲みものからは感染しません。
 家庭内での生活、たとえば食器の共用、一緒に風呂に入る、洗濯物を一緒に洗う、子どもや孫を抱きかかえる、手を握るなどで感染することはありません。く しゃみやせきによる感染もありません。血液が直接、他人に触れないようにするという、常識的な注意で十分です。例えば、かみそりを共用しない、鼻血やけが などで出血したときにはなるべく自分で処置する、もしも他の人が手当てをしなければならない時は手袋を使ってもらうなどです。

患者会活動に参加しよう

 各地に肝臓病の患者会があり、医師による肝臓病についての最新治療の学習会や、インターフェロン治療・肝がんの治療などを体験した患者さん自身の闘病体 験交流、地域の信頼できる医療機関の紹介、厚労省などへの医療制度充実のための陳情活動など、各種の活動を旺盛におこなっています。C型肝炎について一人 で思い悩んでいたある患者さんは、患者会の会合にはじめて参加し、元気に活動する患者さんの姿にふれて「目からうろこが落ちた」と感激しておられました。
 患者さん同士の交流から新しい世界がひらけてきます。積極的に患者会に参加しましょう。

【患者会連絡先】
日本肝臓病患者団体協議会

〒161―0033
東京都新宿区下落合
3―14―26―1001号
03(5982)2150

 いつでも元気 2008.8 No.202

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