いつでも元気

2008年8月1日

地球温暖化を止めよう(5)  「ピース」の道は「エコ」へとつづく

■「9条の会」に招かれて

筆者:和田武(わだ・たけし)
 1941年和歌山生まれ。立命館大学産業社会学部元教授。専門は環境保全論、再生可能エネルギー論。「自然エネルギー市民の会」代表、自治体の環境アド バイザーなど。著書に『新・地球環境論』『地球環境問題入門』『市民・地域が進める地球温暖化防止』『飛躍するドイツの再生可能エネルギー』(世界思想 社)など多数。

 温暖化問題は新聞やテレビが競って報じていますね。知識も増えて、皆さんの関心も高まってきた のでは? 私もあちこち講演に歩いています。そんななか、珍しい集まりに呼ばれました。地域の「9条の会」です。うれしいことでした。なぜなら、温暖化防 止の視点と平和の問題は無関係ではないからです。

■戦闘機は1時間で車8年分の燃料を

 軍事活動には膨大なエネルギーや石油が必要です。軍事は国家機密なので、なかなか正確なデータがありませんが、わかっているだけでもすごいのです。
 世界中で消費される石油のうち、軍事に使われるのはどれくらいだと思いますか? 10%前後=軍隊が直接使った分3~4%、兵器生産に6~8%と推定さ れています(91年レスター・ブラウン)。これは、日本の全消費量に匹敵する規模です。
genki202_07_01大量の石油の消費は、温室効果ガス=CO2の大量排出につながっています。
 たとえば、自衛隊も持っているF15戦闘機を1時間飛ばすには8000リットルのジェット燃料が必要です。デイサービスの送迎車が燃費10キロ/リット ルで年1万キロ走るとした場合、その8年分の燃料を、ものの1時間で使ってしまうのです。
 戦闘機や戦車は「燃費を重視し、排ガスも生物に無害にしましょう」などという発想では開発されませんから、当然でしょう。それにしても戦争は私たちが求 める「持続可能な社会」と正反対の位置にあるものだとつくづく思います。

 最近の情報もご紹介しましょう。06年、米軍の輸送分野におけるCO2の排出量はアメリカ全体の輸送分野の総量の1.2%でした。空母キティホークは1日に20万ガロンの燃料を消費。乗用車数100万台ぶんの燃料になります。
 イラク戦争開始時、イラク領内で展開している米軍が1日に消費する燃料は5.7万キロリットルと発表されています。排出するCO2に換算すると約15万 トン。アメリカ全土の1日のCO2排出総量の1%、日本の1日の排出総量の4.5%ぶんです。
 ちなみに、インド洋で自衛隊がおこなってきた給油は48万キロリットルでCO2の排出量130万トンに相当します。

 また、核兵器の使用が最大の環境破壊であることはいうまでもありません。核戦争はこの連載でお話してきた「進行性」の地球環境破壊とは異なり、いつ起きるかわからない「突発性」の地球環境破壊です。

■本気で無駄をなくすなら

 戦後の復興で使われるエネルギーも膨大になります。なかなか綿密な数字は出ませんが、CO2の排出量は戦時以上に大きくなるでしょう。
 戦争を起こさなくても、その準備のための軍備や軍事演習、兵器生産などの行為そのものが、環境保全の立場からはマイナスです。兵士として徴用される多く の若者たちも、人的資源の浪費です。本来、生産活動に従事すべき人が消費活動ばかりおこなうことになるのですから。

■“人類の安全保障”と憲法9条

 このように考えると、軍事活動が人々を「防衛」するどころか、温暖化の要因をつくって人類を「攻撃」し、人類を危機に陥れていることは明白です。基地建 設や軍事演習、核実験などが自然破壊だということは容易に理解できますが、それ以外にも温暖化の原因となる資源の大量消費と廃棄物の大量放出、有毒物質の 放出などという形で、軍事は環境破壊に深く関わっているのです。
 地球に未来を残すために、1%でも温室効果ガスを減らしたいと各国首脳が真剣な顔で話し合う一方、これだけの無駄が手つかずになっています。世界平均で GDP(国内総生産)の5%を占める軍事費が環境保全対策などに使えれば、地球温暖化防止も大きく前進するでしょう。スターン報告(英国・06年)では、 GDPの1%を温暖化対策に使えば、危機的状況を回避できるといっているのですから。

 人類共通の危機に直面しているいま、戦争などしている余裕はありません。軍備の削減や廃絶を大きくおしすすめる力をもった日本国憲法9条は、温暖化防止のためにも有効だと思います。

次回は、自然エネルギーと後進国

湾岸戦争での環境破壊
genki202_07_0291 年1月にはじまった湾岸戦争はたとえ短期で局地的な戦争でも猛烈な環境破壊をおこすことを示した。この戦争で炎上したクウェートの油田は732カ所。約8 カ月にわたって燃え続け、大量のばい煙や温室効果ガスを放出した。CO2の排出量は5億トン前後の推定だが、これは世界の年間排出総量の2.5%にあた る。また、近隣地域の大気汚染は深刻で、クウェート国境のサウジのカフジでの観測で大気中の二酸化硫黄濃度が平均0.226ppm、最高1時間値は 1.133ppmにも達し、大気汚染レベルは1960年代に1000人を超す死者を出した川崎大気汚染公害を超えるものだった。
(写真:森住卓1998年12月)


ミニ解説

軍用機が使う燃料…航空機用ジェット燃料は、世 界の総消費量の4分の1近くが軍事に使われているとみられる。アメリカでは1860万トンで国全体の27%、旧ソ連では1180万トンで34%に相当する 燃料を軍が使用(91年)。日本でも航空自衛隊だけで日本航空の消費量の約18%・70万キロリットルを消費していた、という資料もある(88年)。

軍事演習と温暖化…軍事演習時に消火に使われる大量のハロンは、オゾン層を破壊する。そのうえ、対流圏にオゾンが流れこみ、温暖化をすすめてしまう。オゾンは温室効果ガスでもある。

いつでも元気 2008.8 No.202

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