いつでも元気

2008年9月1日

地球温暖化を止めよう(6) 再生可能エネルギーと途上国────インド

筆者:和田武(わだ・たけし)
1941年和歌山生まれ。立命館大学産業社会学部元教授。専門は環境保全論、再生可能エネルギー論。「自然エネルギー市民の会」代表、自治体の環境アドバ イザーなど。著書に『新・地球環境論』『地球環境問題入門』『市民・地域が進める地球温暖化防止』『飛躍するドイツの再生可能エネルギー』(世界思想社) など多数。

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 温暖化による地球の危機は待ったなし。これまで、温室効果ガスの排出を抑えるため懸命に努力する欧州の実践などについてお話してきました。
 では、途上国は温暖化防止とどう向き合っているか。インドの話をしましょう。7月の洞爺湖サミットでもしばしば名指しされていましたね。「途上国といっ てもCO2総排出量は日本とほとんど同じじゃないか」という指摘もあります。しかしインドは人口11億人で、国民1人あたり年間排出量でみると1トン、世 界平均の4分の1、日本の10分の1です。
 インド国民の半数以上が電気のない生活をしていることを考えても、「さらに排出量を減らせ」というのは気の毒な要求で、これ以上増やさないようがんばる方向でよいと思います。

■自然エネルギーを推進する「省」

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幼児が手をかけているのがソーラーランタン

 牛糞や薪を燃料に使うなど、インドでは古来の形の自然エネルギーが使われてきました。それをよ り進んだ形で活用するシステムに切り替えようと「新再生可能エネルギー省」(MNRE)を置き、推進をはかっています。自然エネルギーの「省」まで置いて いる国は、ほかにないでしょう。インドは温暖化対策に後ろ向きな国ではないのです。
 同国では当初、再生可能エネルギー導入の主目的を農村地域の発展のためとしてきました。しかし最近は、「安定的なエネルギー供給」「環境保全」「経済発 展」を同時達成できる有効な手段として位置づけを強めています。住民やNPOが、とりくみの中心。多くの州でドイツのような電力買い取り制度も導入し、促 進しています。
 そして今、あらゆる再生可能エネルギー発電の導入量で世界の上位10カ国に入るまでに。太陽光発電をのぞき、すべてで日本を上回っています。

資料
再生可能エネルギー普及でインドが世界10位以内のもの

1位
 バイオマスガス化発電
 太陽光発電・家庭用照明
 太陽光発電・ソーラーランタン
 太陽熱利用・ソーラークッカー
2位
 家庭用バイオガスプラント
4位
 風力発電
 バイオガスコージェネレーション
10位
 小水力発電
 太陽光発電

(2007年1月インド政府)

 

■「地産地消」ができる利点

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エネルギー自給に挑戦する村。これがその家

 インドのような広大な国土の隅々まで送電線を巡らそうとすれば、時間も費用も膨大にかかります。でも、太陽や風力発電機なら、その場に設置するだけでよく、送電によるエネルギーのロスもありません。
 自然エネルギーが、その場に存在する自然の力を借りる「地産地消型」(独立分散型)エネルギーであることは、非常に有効です。
 最近では電気のなかった5317の村や集落のうち、2501村と830集落で自然エネルギーを導入、電化しました(2007年1月末)。

■CO2を出さず生活も向上

genki203_06_04  さらにおもしろい動きとして、100%再生可能エネルギー自給村をつくるプロジェクトがあります。今年春、インドを訪問した際、電力を自給できる家屋を、 住民が自分たちで建てている村に立ち寄りました。全家庭130戸にそれぞれ太陽光と小型風力発電の装置をつけ、計400Wの電力が得られるようになりま す。村人たちは、「これまでの粗末なワラの家からコンクリート造りの家に引っ越し、電灯やラジオ、テレビ、小型冷蔵庫が使える」と、楽しみにしていまし た。工事費用の半額は国が持つので、3万ルピー(約8万円)で入居できます。
 またそれまで村にはなかったトイレも集合型のものを設置し、そこにたまる屎尿でバイオガスを生産、各家庭に供給するしくみもつくっています。衛生状態を 改善し、農業廃棄物や乾燥牛糞、薪などといった燃料の調達に働きづめだった女性の家事労働を軽減し、排煙による屋内の空気の汚染も改善されるのです。

■電気がなかった村で若者は

 ある若者に出会い、感動しました。電線がひかれていない彼の村にソーラー街灯がつき「ぼくの人生が変わった」と。街灯がついてから、その下で毎晩11時ごろまで勉強できるようになり、村で最初の大学生になったというのです。
 国民生活を向上させながら、温室効果ガスも出さない再生可能エネルギーの導入は、途上国にとって先進国以上の意味を持っていました。電気もない生活か ら、西欧型の化石燃料に依存する社会には進まず、一足とびに低炭素社会へと移行する挑戦をしている途上国に、今後も注目したいと思います。

次回からは日本。対策が進まないのは?

ミニ解説

1人あたりのCO2排出量…世界の行動計画 は「2050年までに、温暖化ガスの排出量を現在の半分に減らす」というもの。世界人口1人あたりのCO2排出量を年間1~2トンにする目標だ。しかしイ ンドやアフリカなどは、現在でも1人あたり1トン程度。一方、日本は年間10トン、アメリカ20トンといった具合で、先進国が削減に負うべき責任は大き い。

途上国の温暖化被害は大きい…地球温暖化により被害が大きいのが途上国だ。自然災害による打撃が大きく、大量の「環境難民」が出る恐れがある。海面上昇で国土そのものが消えそうな国も。

途上国の再生可能エネルギー利用率…先進国 と比べると利用率は高い。総エネルギー供給のうち再生可能エネルギーの占める割合を地域別でみると、アフリカ49%、アジア(日・中のぞく)32%、ラテ ンアメリカ29%で、OECD加盟国全体の5.7%や旧ソ連圏諸国の3%などをはるかに上回る(04年国際エネルギー機関)。

genki203_06_05ジェトロファ…インドではバイオ燃料になる植物「ジェトロファ」の栽培実験を進めていた。肥料も水もない荒れ地で育つのが特徴。食用にならず、農地も不要なので、食料問題と競合しない。今後、土地の緑化と燃料確保に役立つことが期待できる。

【訂正】先月号のミニ解説「軍事演習と温暖化」を下のように訂正します
軍事演習時に消化に使われる大量のハロンは、オゾン層を破壊する。すると対流圏の紫外線が強くなり、その作用でオゾンが発生し、温暖化をすすめてしまう。オゾンは温室効果ガスでもある。

いつでも元気 2008.9 No.203

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