いつでも元気

2009年1月1日

地球温暖化を止めよう(9) 動き始めた日本の市民 …風力発電

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筆者:和田武(わだ・たけし)
 1941年和歌山生まれ。立命館大学産業社会学部元教授。専門は環境保全論、再生可能エネルギー論。「自然エネルギー市民の会」代表、自治体の環境アド バイザーなど。著書に『新・地球環境論』『地球環境問題入門』『市民・地域が進める地球温暖化防止』『飛躍するドイツの再生可能エネルギー』(世界思想 社)など多数。

 11月号につづき、再生可能(自然)エネルギーのお話です。今回は風力発電。

■風力発電とは?

 「再生可能エネルギー」といえば、大空を背景に悠々とまわる白い風車をイメージする方が少なくないでしょう。
 風の力で羽根(ブレード)を回し、その運動を発電機に伝えて電気をつくるのが風力発電です。いちばん普及しているプロペラ型の風車のほかに、円筒を縦切 りしたようなものや、球形を描くものなど、姿はバラエティに富んでいます。規模についても、電球1つつける程度の100ワットの小さなものから、 2000~5000世帯もの電力をまかなう5000キロワットの大きなものまでさまざまです。
 日本では、1000基を超えて稼働していますが、世界の普及状況からみれば、まだまだ!(図1

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■「市民風車」ならトラブル少ない

genki207_06_02 日本では、90年代後半に補助事業が整備され、自治体や民間事業者が風力発電建設にとりくむようになりました。
 しかし、企業が設置する場合、まず重視するのが「儲け」です。騒音や景観、周辺の生態系(とくに鳥類)などといった地域への影響への配慮を欠いて建設されることもあり、地元とのトラブルも起こりがちです。
 いっぽう、市民が共同出資して建設する風力発電「市民風車」は、10機動いて(07年9月現在)います。総出力は1万4790kW。出資者を募り、出資 金に対して年率1%以上の配当をつけて返還しています。出資者は損をすることなく風車を所有し、再生可能エネルギーの普及・温暖化防止に参加していると実 感もできるのです。また、国や自治体のエネルギー政策への関心も強く持つようになるでしょうし、地域の温暖化防止活動の中心になる人が出てくる可能性も。 建設に参加者は全国で3000人を超えています。
 日本初の市民風車「はまかぜちゃん」は2001年、北海道で産声をあげましたNPO法人北海道グリーンファンドのとりくみです。市民の出資1億6600万円に、銀行からの融資を加えて建設。出資者の約8割が道民でした。

■地域の活性化にもひと役

 市民風車で地域の活性化に貢献できる可能性も魅力。企業立のように、採算性目的ではなく、地域への利益還元を目指して建設することが多いからです。
 青森県鰺ヶ沢町に建った市民風車「わんず」は、まさにそういう運営をしていて、配当率も地元を優遇しています。鰺ヶ沢町の出資の配当率は年3%、青森県 内では年2%、県外は年1.5%といった具合です。また、地元産のリンゴや枝豆を「風車ブランド」をつけて販売し、地域産業の活性化にもひと役かっていま す。1100世帯ぶんの電力を発電し、年間売り上げは5000万円。

■「促進法」がブレーキ?!

 市民風車普及のブレーキになっているのが、意外にも日本の新エネルギー法なのです。「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(03年施行、通称「RPS法」)。再生可能エネルギー普及の施策のはずが、欠陥だらけなのです。
 まず導入目標が低すぎます。2010年までの電力会社の再生可能エネルギー電力の利用目標量(義務)が大型水力発電を含まない122億kWh(=総電 力)比で1.35%、2014年では同1.6%という設定。ドイツが2010年までに掲げた目標の総発電量比12.5%、2030年45%と比べると、ケ タ違いに低いことがわかるでしょう。
 これに加え、同法では当該年度の目標をオーバーして達成した場合、超過分を翌年度に繰り越せる(バンキング)ルールが大問題。目標が低すぎるので、繰り越しぶんが増え続け、07年度などは義務量の87%を前年度までの繰り越しが占めることに(図2)。

図2 電気会社に義務づけた目標が低すぎて新エネルギーの伸びは頭打ち

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 RPS法が導入される前の再生可能エネルギーの伸び具合をみると、超過しつづけるのは当然です。しかし、電力会社は毎年超過達成しているので、再生可能エネルギーの導入の抑制を始めました。電力会社以外の主体が風力発電を導入しようとしても認めないのです。
 たとえば06年、九州電力に風力発電で申し込んだのは85件・総容量105万kW強あったのに、九州電力が契約したのは7件・5万kWで、申し込み全体 のわずか5%でした。北海道電力でも約100万kWの設置希望のうち、採用したのは2件でたったの4.95万kWでした。しかも風力発電電力の電力会社に よる購入価格は、RPS法施行前に1kW時当たり11円台であったのに施行後には非常に低くなっているようです(価格は非公表)。
 これでは「抑制法」です。風資源も十分にあり、導入希望も多いのに、採用されないとは、じつにもったいない話です。

次回は、小水力発電など

ミニ解説

風力発電に適した場所…設置のためにはいくつか条件 がある。まずは風況、安定した方向で、強い風(年の平均風速毎秒6㍍以上)が吹く土地がよい。また、近くに送電線があるか、風車建設の資材を運ぶ道路や建 設に必要な土地があるかなどが立地を決める際のポイントになる。住宅や集落からの距離や生態系(鳥、とくに猛禽類)や景観などへの影響などのアセスメント (環境影響調査)も、重要な判断条件だ。

 いつでも元気 2009.1 No.207

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