民医連新聞

2004年4月19日

カルテ開示は患者の権利 「実行していかにゃ」

ベッドサイドにカルテを毎日配布して
総合病院南生協病院(愛知)

 病室でカルテを広げる近藤高さん(68歳)。「患者の権利章典の考えが、染み渡ってほしい。いくら御託を並べ たって実行していかにゃ、絵に描いたモチだから、どんどんすすめにゃね」。「カルテ開示は、介護する家族の助けにもなっているのよ」と奥さん。「療養上の 注意点が本人の身に付いていて、退院後、自宅療養で役立ちます」。(木下直子記者)

 「診療記録開示の規定」をもつ病院は、国内全体の約四九%だといいます。患者・市民団体などの声が高まり、〇三 年九月、厚生労働省は「診療情報の提供等に関する指針」を出しました。〇五年四月には「個人情報保護関連五法」が施行されます。民医連の各施設では、早く から「カルテ開示」にとりくんできましたが、全日本民医連理事会は昨年一二月、「診療記録の開示について法制化を求める」と決定し、具体的な実践を強めよ う、と提起しています。

カルテ開示をすすめる現場では

 愛知・総合病院南生協病院では、九七年からカルテ開示を始めました。「患者との情報共有をどうすすめるか」…そ の後も、工夫・改善をつづけています。申請して閲覧する方法から、患者のベッド際に毎日配布する方法へ変更、専門用語や英語の記述は極力やめる、患者にも 訴えや症状をカルテに書き込んでもらう、などなど。これらの工夫は毎年とっている患者アンケートに基づいています。

 当初は配布しても、開くことさえ遠慮する患者さんもいました。配布前に放送を流す、『カルテの見方手引き書』を病室に置く、「カルテ開示班会」を開くなど、病棟ごとに工夫する中で、定着してきたといいます。

 昨年度は「看護計画」の改善に着手。看護計画が一番読まれていないことが、アンケートで判明。「看護師が力を入 れて作った計画が読まれていなかった」とショックを受けつつ「患者様に理解でき、主体的に療養生活を送れるよう工夫しよう、と話し合いました」と、林園子 看護課長は話します。

 名称を療養計画に変え、書式も改定。アルファベットで書いていた部分は「気をつけて看させていただくこと」「看護師がお手伝いさせていただくこと」「患者様・ご家族に協力していただくこと」といった表現に変えました。またその療養計画は、患者が確認のサインをします。

 改定の後もう一度、患者と看護師に意識調査を行いました。患者は療養計画を読むようになり、「役だっている」と答え、看護師の側も「立案時に患者と目標を確認する」が二倍に、「計画内容を説明する」が三割から八割にアップしました。

 「患者にわかりやすいものを作ろうと検討したことが、看護師の意識も上げました」と、小酒井あい子総看護課長。 「これまでのとりくみには、何か手本があったわけではありません。患者の権利章典を実践しよう、という工夫の産物でした。『闘病の主体は患者様』と言って も、できていないことはまだ多いのですが」と、語ってくれました。


患者団体の声

医療情報の公開・開示を求める市民の会
”例外のない「開示」が必要”
勝村久司
 同会事務局長。一九九〇年に陣痛促進剤被害で長女を亡くし、医療裁判や市民運動にとりくむ。編著書に『患者と医療者のためのカルテ開示Q&A』(岩波 ブックレット№577)、『レセプト開示で不正医療を見破ろう!』(小学館文庫)。高校教諭。

 「カルテ開示」が、「患者の権利」として法制化されることを願っています。医療法や医師法を改正し「医師の義務」にするより、「患者の権利として認める」ことに意義があります。

 また「カルテ開示」は、例外のない開示が必要です。「患者のために見せない方が良いと判断される場合」などと、 制限のつく開示ではいけません。本当に困っている人の、思い、意見、悔しさを生かすためにこそ、開示が必要なのです。「条件付きでない開示」が民主主義社 会の発想です。「カルテ開示」の実施はまだ一部の医療機関にとどまり、必要とする被害者が困っています。そのために医療事故が繰り返され、医療不信の傷口 を広げています。

 「個人情報保護法」と「情報公開法」の二つが整い、「民主主義社会がようやくここまで来たか」との思いです。しかしこの法では、情報が五〇〇〇件未満の事業所には適用されないし、遺族には開示されない問題が残ります。医療についてはこれではいけない。

 厚生労働省が「診療情報の提供等に関する指針」を出しましたが、「ガイドライン」と「法律で定めること」では、大きく違います。法律をつくることが医療界の意識改革になると思います。民医連が先陣を切って、「カルテ開示」の法制化を求め、実践するのはうれしいことです。

 「カルテ開示」のとりくみは、民医連だけでなく、社会全体に広げてください。「カルテ開示をすることで何も問題が起こらない」と、他の医療機関に向かって発信してほしいと思います。


市民団体の声

患者の権利オンブズマン
”医療と患者間の信頼高めます”
池永 満
 同NPO法人理事長。厚生労働省に「医療記録開示の法制化を求める意見書」を提出、「第3回診療に関する情報提供等の在り方に関する検討会」(2003 年1月27日)で意見陳述を行った。主著に『患者の権利(改訂増補版)』(九州大学出版会)。福岡大学法科大学院教授、弁護士法人本流代表社員弁護士。

 患者から受ける相談のなかには、「カルテ開示がされず自分の情報がわからない」ことが、苦情になっているケースが数多くあります。カルテ開示が医療機関から拒まれると、患者は「何かあるのか?」と不審に思い、それが不信へとつながります。

 「自分の情報を知る」ことは、患者が主体的に医療に参加するための入り口です。「カルテ開示」は、患者に日常的 に情報提供する手段です。費用もかからず効率的に患者と情報を共有できる。間違った記載をただすことで医療のあり方を揺さぶり、医療を適正なものにする手 段にもなります。「カルテ開示」が、患者との信頼関係を崩したようなことは、現実には何も起きていません。むしろ医療と患者双方向の太いチャンネルを設定 し、信頼を高めています。

 厚労省が出した「診療情報の提供等に関する指針」は評価できる部分がたくさんあります。二〇〇五年四月に発効する「個人情報保護法」でカバーできない点、たとえば遺族への開示などを補っています。

 民医連には、「カルテ開示」で患者にていねいに説明し、情報を共有し、医療の中身を高めていってほしい。「年に 五件しか開示請求がない」なんて消極的じゃなくて、患者に積極的に見せて、どんどん質問してもらって、一生懸命答える。これは職員の研修になります。患者 からパワーをいただき、医療をレベルアップできるのです。民医連の「共同の営み」を徹底的に実体化することにつながると思います。


全日本民医連医療部、長谷良志男理事の話

患者の権利として「カルテ開示」を

「カルテ」は患者と医療従事者の「共有財産」

 「カルテ」は医療という「共同の営み」の記録であるべき、と考えています。ですから「カルテ開示」は、単なる 「診療情報の提供」ではありません。インフォームド・コンセントの理念に基づき、医療従事者と患者の間で診療情報を共有し、医療の現場で患者の人権を守り 発展させるための「共同の営み」の一つです。「カルテ開示」は、患者の権利を守るための「運動」でもあります。

医療分野での「自己情報コントロール権」とは

 「診療情報に患者がアクセスする権利は、患者のプライバシー権に属する」との基本的考え方による、重要な患者の権利の一つです。医療者として守るべきこととして、「患者の権利オンブズマン」は次のようなことを提示しています。参考にして下さい。

(1)患者に知らせずに、患者の家族や第三者から患者の個人情報を入手してはならない。

(2)患者に知らせていない医療情報を紹介状等に記載して医療機関間に流すような、患者不在の情報の流通は止めなければならない。

(3)患者の同意をとることなく、カルテに記載されている情報を学会報告等に使用してはならない(患者の権利オンブズマン)。

「診療記録の法制化を求める」意味

 現時点で求めているのは、「カルテ開示の法制化」ではなく、「診療記録の開示」についての個別の法制化です。

 これまで「カルテ開示」については「診療記録の開示」「診療情報の開示」など様ざまな表現がなされ、用語の定義がされず、議論が混乱していました。昨年九月に厚生労働省が出した「診療情報の提供等に関する指針(ガイドライン)」では明確にされました。

 民医連のいう「カルテ開示」が義務化されるためには、日本における患者の権利全般、特にインフォームド・コンセントについての法的規定が前提となります。これにはまだ、国民的コンセンサスに時間を要します。かといって先延ばしにすることはできません。

 今回、厚生労働省が出した「ガイドライン」自体が、抜け道だらけの「個人情報保護法」を根拠としています。「診 療記録の開示」ですら、医療従事者側の判断で「患者と家族や患者の関係者の利益を害するおそれがある場合」などに、「全部または一部を提供しないことがで きる」と記されています。「ガイドライン」が守られなくても罰則はありません。そこで、すべての出発点として「診療記録の開示」について個別の法制化を提 起したのです。この点で呼びかければ広く一致できると考えています。

医療現場でとりくむ課題

 「診療記録の開示」の実施が患者にわかりやすく掲示されているか、申請窓口が明確か、患者が申請しやすいかな ど、早急に点検しましょう。厚生労働省の「ガイドライン」は、問題はあるものの日本の医療の現状からすれば、かなり先進的。この内容を充分つかむことが大 切です。具体的な「カルテ開示」については、各施設で患者の権利を守る立場で、工夫していく必要があります。

(民医連新聞 第1330号 2004年4月19日)

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