民医連新聞

2004年5月3日

私と憲法(2) 先進的な「憲法」 古いのは「日本の政治」

 憲法を変え、日本を戦争できる国にしようとする動きが強まっています。憲法記念日の「私と憲法」は、改憲のねらい、そして憲法を守るとりくみについて、国会議員の小池晃さんに聞きました。(小林裕子記者)

 「イラクに自衛隊を送るな」、「医療改悪反対、年金削減許すな」の根拠は憲法なんです。国民の生存権、社会保障に責任を持つのは国、憲法にはっきり書いてあります。私の国会活動で、憲法は頼りになる中心軸で土台です。これは実感しています。

 みなさんが、日々患者さんのために仕事をする医療の現場でも、土台に憲法があります。民医連が大事にしている「社会保障を推進する活動」は、まさに憲法 二五条を実現する運動です。医療は平和な社会があってこそ。戦争に歯止めなく駆り出される社会になったら、いのちを守る仕事の価値は、踏みにじられます。 憲法九条を守って、日本を戦争する国にしないことも、医療人の大きな責任だと思います。

自公民各党9条にねらい

 自民党、民主党の若手議員が「改憲」に向け活発に動いています。自民党は、二〇〇五年一一月までに「憲法改正 案」をまとめる、それも「憲法前文から見直す」と言っています。侵略戦争の過ちを、二度と繰り返さない決意から書かれた部分すべて、変えるつもりです。民 主党は「創憲」、公明党は「加憲」と言い、九条を検討の対象にしています。彼らはアメリカとの軍事同盟を第一に置く点で、自民党と同じ土俵で議論をはじめ ています。

背景にアメリカの要求

 いま改憲論が急激に出ている背景に、アメリカの要求が強くあります。「日米同盟は、米英同盟をモデルにせよ」と日本の軍隊が最前線に出て、米軍とともに戦争できるようにという要請です(アーミテージ報告・二〇〇〇年一〇月)。

 そのじゃまであるのが憲法です。だから「変えよ」と要求しているのです。小泉内閣は昨年有事法制を通し、イラクに自衛隊を派兵し、さらに今国会に有事関 連七法案などを出してきました。もう「解釈改憲」では無理な段階にきて、憲法そのものに矛先を向けてきました。

憲法の「新しさ」を生かせない政治

 いまの改憲論の特徴は、何の根拠も示さず、ただ「古い」と言っていること。「五〇年経ったんだから」と。しかし日本国憲法は決して古くない。あの時代によく、現代に通用する憲法をつくったものです。

 たとえば、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と、世界平和のために日本がどう役割を果たすのか を、前文にはっきり書いています。そして国際社会のなかで「名誉ある地位を占めたい」とあります。このように、世界平和のための国の基本姿勢を書いた憲法 を持つ国は、世界にもまれです。

 基本的人権の問題でも優れています。ヨーロッパの憲法には、市民的、政治的権利が書かれていますが、日本の憲法は、憲法二五条に、社会的、経済的な権利 まで明記され、先進的です。しかし、日本では先進的な二五条の中味が実行されていず、ヨーロッパでは実行されている。そういう意味で、古くなっているのは 憲法ではなく、日本の政治なんです。

新しい権利を生んだ憲法にもとづく運動

 「日本国憲法には、環境権とかプライバシー権などが書かれていない」という意見があります。しかし「環境権・プライバシー権」を生んだ、市民の運動の根拠は憲法なんです。

 第一三条に「幸福追求権」があります。この憲法に基づいた「環境を守る」、「プライバシーを守る」国民の運動が、こうした権利の概念を生み出しました。そう考えると、現憲法はたいへん懐が深く、新しい人権にも対応できるのです。
 しかも、これらの権利を理由に「改憲」をいう政党の姿勢はどうでしょう。公明党が「プライバシー権」をいうなんて、悪い冗談みたいです。盗聴事件を起こ すような政党にプライバシー権をいう資格はありません。それに九三年に「環境基本法」をつくる時に、「環境権」という表現に反対したのは、自民党です。環 境破壊の先頭に立っている政党です。

どう考える「国民投票法」

 国民投票法案について、一部に「国民投票をして否決したほうがいいのでは」という意見があります。しかしこれは非常に危険な意見だと思います。

 憲法改悪に向けた手続きの中で、最初の関門が国民投票法案です。これに踏み入ることは、改憲に向けた扉の一つを開けたことになります。くいとめなければいけません。

 もし国民投票で改憲を否決する状況ならば、与党は絶対に提案しないでしょう。否決されたら、彼らの野望は数十年は実現しなくなりますから。彼らが国民投 票をしかけるときは、報道を操作し、言論弾圧で国民がものを言えなくし、国会では共産党の議席を減らした上での話になるでしょう。「手続きだからよい」と いう議論は極めて危険です。

9条2項が戦争の歯止め

 小泉首相は「自衛隊は軍隊だ。だから憲法九条の規定を変えて認めるべきだ」と言い出しました。これも極めて危険な意見です。

 憲法九条は、第一項で「戦争を放棄」し、二項で「戦力は保持しない。交戦権を認めない」としています。この二項が、日本が海外で武力行使することを抑え ているのです。「戦争放棄」は当然で、国際法上も侵略戦争は不法行為です。だから戦争する国は「これは戦争じゃない。自衛権の行使だ」と言ってするので す。二項で「日本は戦力を持たない」としているから、「自衛隊は海外で武力行使はできない」と解釈されています。

 もし二項を変えて、「自衛隊は軍隊だ」とした途端、全く違った状況になります。例えばイラク戦争にも「アメリカとの集団的自衛権の行使」を理由に参加で きることになります。二項をなくして「自衛隊を軍隊と認める」ことは、「戦争をする国にする」ことなのです。

世論は憲法を評価 確信もって呼びかけよう

 国会の議席だけ見ると護憲勢力は少数派ですが、決め手は国民世論だと思います。去年、外務省のしたアンケート で、「日本の平和と安全は何によって守られているか」という質問に、「平和憲法」と答えた人が六四%、トップでした。「自衛隊の存在」と答えた人は一二% しかない。国民の多数は憲法改悪反対です。ここにしっかり確信をもち、多くの国民を信じて、呼びかける活動を広げましょう。

 今まで政府はごまかしでやってきました。今度のイラク戦争でも、「危険なところに行かない、武力行使をしない」と言ってきた。既成事実をつくっているが、正面から「戦争をやる」とは言えない。

 「憲法九条を変えることは、まさに戦争をすることに踏み出すこと」、こう世論に訴えれば、必ず憲法改悪反対のたたかいが広がっていくと確信します。

 今度の参議院選挙で、国民世論は「憲法改悪反対だ」の声を各政党や政治家に突きつけていきましょう。


日本国憲法

 第九条【戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認
一.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
二.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 第二十五条【生存権、国の生存権保障義務】
一.すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
二.国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

(民医連新聞 第1331号 2004年5月3日)

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