いつでも元気

2009年3月1日

地球温暖化を止めよう(10) 動き始めた日本の市民 …バイオ、小水力、ほか

筆者:和田武(わだ・たけし)
 1941年和歌山生まれ。立命館大学産業社会学部元教授。専門は環境保全論、再生可能エネルギー論。「自然エネルギー市民の会」代表、自治体の環境アド バイザーなど。著書に『新・地球環境論』『地球環境問題入門』『市民・地域が進める地球温暖化防止』『飛躍するドイツの再生可能エネルギー』(世界思想 社)など多数。

 これまで、太陽光、風力と、日本で普及がとりくまれている主な自然エネルギーについてふれてきました。その他の自然エネルギーについて、駆け足でご紹介しましょう。

■生物由来のバイオマス

 植物や動物、生物から生まれるのがバイオマスエネルギーです。たとえば、薪や炭もこれにあたります。おじいちゃん、おばあちゃん、そのまた先代も使っていたような私たちに馴染み深いものも含まれ、種類は豊富。固体、液体、気体のバイオマスに分かれます。

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木質バイオの工場(大阪・高槻市)

■「固体バイオマス」は、木材・間伐材や製材時に出る木屑、 わら、農作物の茎、乾燥動物糞など。燃やして発電に使ったり熱を利用します。発電の際の熱も利用する電熱併給もあります。発展途上国では台所の燃料として 今でも広く利用され、先進国ではスウェーデンなど欧州諸国での新技術を使った利用が活発です。ペレットストーブも普及しています。
 日本は国土の65%の面積を森林が占める資源豊かな国ですが、有効活用できていません。本気で利用をはかれば、山村地域の新しい仕事おこしにもなります。
■「液体バイオマス」は、サトウキビやトウモロコシなど糖やでんぷんを原料に発酵させてつくるバイオエタノール、なたねやアブラヤシなどの植物油を原料にして製造するバイオディーゼル燃料(BDF)などで、主に自動車燃料として利用します。
genki209_08_02 休耕田で菜の花を育て、食用油として使った廃油をバイオディーゼル燃料に転換し、船や車の燃料に使う「菜の花プロジェクト」()というとりくみを耳にしたことがあるでしょう。90年代後半から琵琶湖の水質を守るために滋賀県で始まり、いまは全国140カ所の市民団体や自治体がとりくむようになっています。
■「気体バイオマス」には、動物の糞尿や生ゴミ、農業廃棄物などを原料に発酵させて得られるメタン(天然ガスと同じ成分)や、木などを蒸し焼きして得られる木ガスなどがあり、発電や熱などに利用されています。
 …といった風に、使い道に幅があり、備蓄も可能なバイオマスは国内外で注目されています。
 このとりくみに際して欠かせないのは、地産・地消、食料との競合を避けるなどの計画性です。世界の穀物市場の大混乱は、アメリカ政府がバイオ燃料政策を 無計画に打ち出し、起こったのです。本来、バイオマス利用は農山村地域を活性化する力のあるものです。

■小水力…環境破壊型のダムではなく

 水力発電は、水源豊かな日本向きの発電法です。「ダム式」と「水路式」がありますが、河川をせき止め、自然を壊して多額の工費を投じてつくる大規模ダムは環境保全的な発電方法ではありません。

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水力発電のようす(水路式)

 水路式は、水流をせき止めることなく、勾配のある水路や落差を利用して発電するしくみ。小水力、マイクロ水力と呼ばれるものの多くがこの方式です。
 発電設備がコンパクトなのでまわりの自然を破壊することなく、周辺の生態系への影響も小さくてすみます。 さらによいことに、河川だけでなく、農業用水路や上下水道施設などの水流でも使えますから、利用の可能性は大きいのです。
 他の自然エネルギーよりも稼働時間は長く、年間の出力も安定的で、優れたエネルギーといえるでしょう。
 08年4月から1000キロワット以下の小水力発電は太陽や風力と同じ「新エネルギー」のグループに分けられたので、これからの普及が期待されます。全 国小水力推進協議会の推計では、小水力による発電の可能性は、原子力発電所3~4基分に相当するといいます。
 用水路などに設置した発電機で、農村地帯や山間の過疎地が、電力を自給できるようになる姿を想像すると、楽しくなります。

■雪氷、地熱など

 ほかに、冬の間の積雪や氷の冷熱エネルギーを建物の冷房や農作物の冷蔵に使う「雪氷エネルギー」。北海道や新潟県などの豪雪地帯で利用されています。
 「地熱エネルギー」は、地下のマグマだまりからの高温水蒸気を発電に利用できます。それだけでなく、どんな土地でも一定の深さの地下は安定した温度が保たれているので、そこにパイプで水などを送り込み、汲み上げた温熱や冷熱を冷暖房に使うこともできます。
 日本の地熱発電は世界5位の設備容量です。総発電量の4分の1が地熱発電、というフィリピンのような国もあります。

次回は、原発に未来は? 最終回

ミニ解説

バイオガス…生ゴミやふん尿などの水分を多く含んだ生物資源を嫌気性発酵させ、メタンなどのバイオガスを集めてそのエネルギーを利用する。発酵用の槽があれば実施可能なので、途上国などでも導入されている。

バイオディーゼル燃料(BDF)…植物油をアルコールで加工し、ディーゼルエンジンで利用できるバイオディーゼル燃料にする。使用済みの廃油も使えるので、各地で廃油回収・菜種栽培などのバイオディーゼル事業がおきている。

バイオエタノール…食物を原料としてつくられるエチルアルコール。トウモロコシやサトウキビなどを使ったものが代表的。ガソリンに添加して代替燃料として利用。欧米ではこれを混ぜたガソリンが自動車燃料として使われ、日本でも3%の混入が認められている。

太陽光発電への補助金募集始まる…自然エネル ギーのひとつ、太陽光発電を設置する住宅への補助金の募集がはじまった。補助金は標準的な設備3.5Kwを導入する場合約24万円(1Kwあたり7万円) が4月以降支給に。3万5000件程度の補助件数を想定し90億円の予算が組まれている。募集期間は1月13日~3月31日。各都道府県で定められた窓口 団体が申請を受け付け中。

“温暖化で難民増加”…地球温暖化が進行すれ ば、居住地を失い、難民になる人が増加する恐れがあると、昨年開かれたCOP14(国連気候変動枠組み条約第14回締約国会議)のシンポジウムで報告され た。難民・避難民は現時点で2000万人だが、2050年に2億5000万人に増加する可能性もある、と国連難民高等弁務官事務所のジョンストン副高等弁 務官。また、国連人道問題調整事務所代表は、07年1月以降におきた26件の国際的な大規模人道災害のうち23件までが温暖化に関連して起こったと報告し た。

 いつでも元気 2009.3 No.209

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