民医連新聞

2004年5月17日

“関係ないヨ”と思ってない? 医療倫理のはなし(4)

ガンの告知に迷う

 前回はインフォームドコンセント(IC)について、基本的なお話をしました。医療倫理の考え方は、欧米からの直輸入ですので、倫理的な問題を考える場合、それぞれの国での文化の違いについても考慮しなければなりません。

 ICの際に、文化の違いでいちばん問題になるのは「ガンの告知」だと思います。ICが重要なことは良く理解でき ますが、予後が悪い疾患についても、すべてICを行うのはどんなものでしょうか。告知を望んでいない患者に対しても、病名の診断、予後、治療方針につい て、すべてを告知すべきなのでしょうか。


 

〈ケース5〉
 肺癌、骨転移の六〇歳女性。痛みが強く、食事もとれなくなったとのことで入院となった。

 約二年前に肺癌の診断を受けた時点で、すでに骨への転移が見つかり、「余命が短い」という医師の言葉を聞いた患者の夫は、告知しないことを決めた。本人 には、腰部や下肢に痛みがあることから、腰部脊柱管狭窄症の診断が告げられていた。その後、病状の進行は比較的緩やかで、当初考えたよりも長い経過となっ た。

 本人は自分の病状を、薄うす感じている風であったが、直接、医療スタッフや家族にも詳しく尋ねることはなかった。

 夫は、肺癌と診断された段階で告知していなかったことから「今さら、本当のことは言えない」と主張し、結局、告知しないまま、患者は亡くなった。


 

 ご紹介したようなケースは、以前に比べて少なくなってはきていますが、皆無ではありません。「患者さんに対して嘘をつく」ということは、当然のことながら、倫理的ではありません。

「知りたくない」という権利を尊重するためには?

 しかし一方、アメリカで行われているように、「一〇〇%ガンの告知を行うのだから」と言って、患者に対して全例 ガン告知を行う(悪いニュースは知りたくない、という人に対しても)ことも問題でしょう。患者の「知りたくない」という権利を尊重しつつ、ICを行うこと が原則だと考えられています。

 今日、多くの病院では、外来初診時や入院時に、「ガンを含めた予後の悪い疾患の診断がついた場合、本当の病名を 知りたいか、予後、治療法の選択も含めてどの程度詳しく知りたいか、家族が告知に反対した場合、医療従事者はどのように対応したらよいか」、などについて 事前にアンケートをとり、それにのっとって対応するようになっています。

 例えば、京都大学附属病院総合診療部の入院時希望調査ではこんな質問項目があります。

 「もし、あなたが悪性疾患の病名を知りたいと希望しているにもかかわらず、家族が病名を告げることに反対しておられる時、主治医はあなたにどのようにすればよいでしょうか?」。この項目の回答の選択肢には次のようなものが提示されています。

1)家族が反対したとしても、私自身に病名を説明して欲しい

2)家族の意思に従う

3)主治医に任せる

4)その他(具体的にお書きください)

 今回ご紹介したケースでも、最初の診断がつく以前に、ICに関しての患者の希望を確認し、「告知」、「非告知」を決めるべきだったでしょう。

(安田肇、全日本民医連・医療倫理委員)

(民医連新聞 第1332号 2004年5月17日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ