いつでも元気

2009年6月1日

トピックス ヒブワクチンを公的接種に 細菌性髄膜炎から子どもたちを守りたい

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武内 一
大阪・耳原総合病院(小児科)
細菌性髄膜炎から
子どもたちを守る会副代表

  子どもが熱を出す場合、多くはウイルス感染症です。ウイルスには抗生物質は効きません。一方、抗生物質が必要となるのは細菌による感染症ですが、赤ちゃん~3歳くらいまでの子どもたちにとって最も恐い病気が「細菌性髄膜炎」です。

細菌性髄膜炎とは

 細菌性髄膜炎は、特別な場合を除き、お子さんが鼻やのどの奥にもっている菌(ヒブなど)が知らない間に血液の中に侵入し、脳を包んでいる髄膜で増えて炎症をおこす病気です。
 抗生物質でしっかり治療しても、難聴などの後遺症が残ることがあります。最近は、耐性菌の急激な増加で治療がむずかしくなってきており、菌の勢いを抑え られない場合は死に至ることもあります。死亡率は5%近く、完治例は8割未満といわれています。

WHOも定期接種化を勧告

 

図1 ワクチンで予防可能な疾患による15歳未満児の死亡
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 ヒブワクチンは、細菌性髄膜炎だけでなく、死亡率が極めて高い「喉頭蓋炎」(ノドの奥が腫れあがって窒息する)など、重症のヒブ感染症から子どもたちを守ってくれる画期的なワクチンです。
 日本でも昨年12月、やっと接種できるようになりました。欧米諸国では、90年代に定期接種が実現したのに、日本は15年以上遅れてようやく接種できるようになったという現状です。
 1998年、世界保健機関(WHO)は声明を出し、ヒブワクチンの定期接種化を各国政府に勧告しています。WHOが声明まで出した背景には、ヒブがワク チンで防げる病気であるにもかかわらず、麻疹(はしか)のつぎに、子どもたちのいのちを奪っている現実が世界中にあったからです(図1)。
 図2は、93年にヒブワクチンを導入したデンマークのヒブ髄膜炎の年次発生数推移です。デンマークの人口は約550万人、日本の20分の1です。ワクチ ン導入前のヒブ髄膜炎発生数は50人以上、日本にあてはめれば年間1000人以上です。それがワクチン導入後は数名に激減し、ついに2007年にはゼロと なりました。デンマークのような先進国だけでなく、世界中から同じような報告がされています。

図2 デンマークにおけるヒブ髄膜炎の発生数推移
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定期接種を求める世論を大きくして、国を動かそう

定期接種化は、世界の流れ

 わが国では、細菌性髄膜炎の約7割がヒブによるものです。このワクチンによってヒブによる髄膜炎とすべての喉頭蓋炎が予防できます。千葉県での最新の統 計調査にもとづき全国発生数を推計すると、少なくとも年間700人以上がヒブ重症感染症にかかり、うち100人以上に後遺症が残り、20人ほどが亡くなっ ていると推測されます。
 また、ほとんどの子が定期接種していると、その効果は定期接種の対象児だけでなく、接種できない赤ちゃんや、年齢の高い子どもたちも感染から守る間接的な効果があることもわかってきています。
 ワクチンの導入が世界に遅れること15年。単純に考えると、救えたであろう「いのち」は300人にのぼります。
 図3は、今日の世界のヒブワクチン接種状況です。先進国だけでなく、多くのアフリカ諸国もすでに定期接種が進んでいますが、日本を含む東アジアの対応が 遅れています。日本は本来、東アジア地域のリーダーであるべきです。私は、何としてもすべての子どもたちがヒブワクチンを接種できるようにと、髄膜炎を経 験した当事者や家族のみなさんと「守る会」の活動を続けています。

図3 ヒブワクチンを定期接種している国とその接種率(2007-08年)
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今日の問題点と今後の展開

 ヒブワクチンは、3種混合と同時に、基本的に4回接種します。1回目の接種を受ける年齢が7カ月を過ぎると接種回数が減りますが、5歳までは接種できます。
 ただ、ワクチン接種には二つの問題があります。その一つは値段です。日本では任意接種で、100%自費となります。1回7000~8000円、4回で3 万円ほどかかります。一部の自治体では独自の補助金制度を導入していますが、一日も早く国の責任で自己負担のない定期接種にしてほしいと思います。
 もう一つは、ワクチンの供給不足です。輸入・販売している製薬企業は、任意接種で年間20万人程度(水ぼうそう相当)を見込んでいました。4回接種が基 本であるため、医療機関への供給は年約100万本、月8万本の輸入を想定したようです。しかし現実には、2月に14万本の要望があり、想定を大きく超えた ためワクチン不足が表面化したのです。
 国は事態を深刻にとらえ、メーカーも努力しているようですが、まだ安定供給には至っていません(この文章が出るころには少し改善されていると期待しています)。
 定期接種を求める世論を大きくして、国を動かしましょう。ことしは総選挙もあります。「ワクチンで防げる病気はワクチンで防ぐ」、この当たり前のことが世界水準でできる国を、私たちの手で実現していきましょう。

■細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会
http://zuimakuen.net/

いつでも元気 2009.6 No.212

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