民医連新聞

2004年6月7日

トピック・医療活動 脳心事故の危険因子は労働ストレス

 民医連の高血圧追跡調査をもとにした研究で、高血圧をもつ労働者が「仕事上のストレス」を受けると、脳や心臓の合併症を起こしやすくなることが、明らかになりました。
 4月13日に名古屋で開かれた、日本産業衛生学会総会の「産業医フォーラム」で、愛知・星崎診療所の内山集二医師(写真)が、報告しました。その要旨を紹介します。

 高血圧の治療目的は、脳や心臓の合併症を抑え、事故を防ぐことです。働いている高血圧患者の治療では、バブルの時代は長時間労働が重要な危険因子でし た。しかし、バブル後、リストラ、不況が激しくなった90年代後半以降は、それだけではなくなりました。私たちは、「労働負荷に対する自覚的な訴え」が、 危険因子として重要であるとの仮説を立て、2次にわたる高血圧追跡調査データから検証することができました。

第1次高血圧追跡調査の結果

 1980年代から90年代前半は景気が上向き、バブルが成長した時代でした。この時に、第1次高血圧追跡調査を行いました。
 民医連の123の医療機関が参加し、1985年から88年に患者登録をして、1990年まで追跡しました。対象者は、脳卒中、心筋梗塞、心不全、ガンな どがない1年以上通院の降圧剤服用者です。このうち、50代男性で労働時間拘束7時間以上の899人(追跡期間平均2.8年)を調べました。
 この集団を、11時間以上の長時間労働群とそれ以下の対照群とに分け、比べました。前者には深夜労働、少ない休日、少ない睡眠時間、朝の疲労感、仕事の ストレス、管理職が多かった一方(統計的に有意)、喫煙、肥満、血圧コントロール状態、コレステロール値、心電図異常は両群で差がありませんでした。
 追跡期間中に27人の初回脳心事故発症があり、そのうち4人が死亡しました。長時間労働人たちは対照群と比べて2.7倍倒れやすくなっていました。
 当時、「慢性的長時間の拘束はあったが、平常の労働であった」として労災の適用外とされた事例に、この論文と意見書を添えて再審査請求したことがありま す。労働保険審査会は長時間労働が疾病の原因であったことを認めました。この事例は、1987年の認定基準の枠を初めて踏み越えたもので、その後、厚生労 働省の認定基準の見直しにつながりました。

1990年代後半以降の平成不況の時代

 つづいて、第2次高血圧追跡調査を行いました。対象と方法は第1次調査とほぼ同じです。1994年に登録し、2000年まで追跡しました。
 この時は、「労働ストレス」の関与について疑いをもち、検討しました。そのため(1)仕事の負担、(2)仕事の競争が激しい、(3)ノルマや納期に追わ れる、(4)職場の人間関係で悩む、(5)仕事のやり方を自分で決められない、のKarasekのモデルにある5項目を問い、1つ以上当てはまれば「労働 のストレスあり」としました(表1)。
 40歳から65歳で拘束5時間以上の1615人を対象にしました。男性908人、女性707人で、平均57歳。追跡期間は平均5.6年でした。

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第2次高血圧追跡調査の結果

 「労働ストレスあり群」と対照群を比較すると、男女ともコレステロール値や肥満や喫煙等では差はありませんでした。男性では「労働ストレスあり」の人には深夜勤務、少ない休日、長時間労働が多くなっていました(有意)。
 追跡期間中、初回脳心事故は男性29人、女性9人の計38人が発症し(表2)、うち6人が死亡しました。「労働ストレスあり」の人たちは、そうでない人 たちと比べて2.1倍、脳心事故発症を発症していました(表3)。一方、長時間労働の男性は、1.48倍倒れやすい状況にありましたが、統計的に有意では ありませんでした。

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仕事の要求度が高く、裁量度が低いと危険

 まとめると、(1)過労死が社会問題化した1980年代の高度成長、バブル期では、長時間労働が、高血圧治療を受けている50代男性労働者の脳心事故発症の独立した危険因子でした。
 (2)不況時代の90年代後半では、高血圧治療を受けている労働者の脳心事故発症の危険因子は労働時間では推し量れず、「労働負荷に対する自覚的な訴 え」が関与していました。仕事の要求度が高いことや仕事の裁量度の少ない状態が危険因子となっていました。
 労働によって高血圧を悪化させたり、合併症になることを防止するためには、長時間労働とともに仕事の負担、ノルマ、裁量のなさなど患者が自覚する「労働のストレス」を受けとめ、改善をはかることが重要です。

第1次の詳細は:内山集二等、「長時間労働は脳心事故の独立した危険因子」『産業医学』1992;24:318-325.

(民医連新聞 第1333号 2004年6月7日)

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