声明・見解

2007年6月15日

【声明2007.06.15】すべての利用者のサービスの継続を求めるとともに 介護の営利・市場化を推進する国の責任を問う -コムスンをめぐる一連の事態に対して-

2007年6月15日
全日本民主医療機関連合会 理事会

 厚労省は、訪問介護事業者大手のコムスンが全国に展開する2018事業所(06年5月末現 在)のうち、1655事業所について今後事業指定の更新をしないことを決め、各都道府県に通知しました。この間の監査を通して明らかになった5都県8事業 所で虚偽の指定申請、及び廃業届による指定取消処分の回避などの一連の対応に対する行政処分です。コムスンは介護事業からの完全撤退と他法人への事業譲渡 を決め、現在30社近くの大手企業が受け入れを表明していると報じられています。
 こうした経過の中で、全国で6万5000人を超える利用者のサービス利用の継続、ヘルパーをはじめとする2万4000人の雇用の保障など深刻な問題が浮 上しています。同時に介護を市場に委ね、営利を目的とする企業の参入を許すしくみをつくった国の責任がきびしく問われています。

利用者の生活・権利を守ることを何よりも優先すべき

 今回の事態の最大の被害者は利用者であり、必要なサービスが確保され、今までの生活が継続できるようあらゆる対策が講じられなければなりません。
 第1に、コムスンが指定事業者としての社会的責任を果たすことは当然です。
 全国の利用者、国民に対する説明責任を果たすとともに、6万5000人の利用者が、従来通りの介護サービスを継続して利用できるよう手立てをつくすこ と、2万4000人を超える職員の雇用を確保することなど、現在の状況の中でなしうる最大限の努力をはかることを求めます。
 第2に、都道府県、市町村に対して、すべての利用者に対して必要なサービスが確保され、生活の安定が保障されるよう必要な対策を講じることを求めます。
 その際、単に民間事業者に委ねるだけではなく、社会福祉協議会や市町村直営のサービスの実施、拡充をはかることが必要です。利用者に不利益が生じ、「介 護難民」を生まないよう相談窓口を設置するなどの対応も求められます。「住民福祉の向上」「生存権保障」は自治体に課せられている義務であり、利用契約制 度のもとで個々の利用者を必要なサービスの利用につなげることは自治体の果たすべき責任です。
 第3に、営利を目的とする企業を指定事業所として受け入れるしくみをつくった国の責任がきびしく問われなければなりません。この間の一連の事態は、市場 に委ねられた介護保険制度に対する強い不信、不安を利用者・国民にもたらしています。厚労省は今回の事態の重さを改めて認識し、「消えた年金」問題と同様 自治体まかせにすることなく、利用者のサービス確保をはじめ、自ら問題の解決にあたることを強く求めます。

営利・市場化路線では、利用者の介護・生活は守れない

 コムスンをめぐる一連の事態は、介護を市場化し、営利を目的とする企業もふくめた「多様な供給主体の参入」によってサービス基盤を構築する矛盾を大きく露呈させました。制度設計者としての国の責任はきわめて重大です。
 「“日本一”というブランドの確保」を目標に法令を逸脱した事業拡大をはかり、事業撤退の理由ではグループの「株価の下落」をあげるコムスンと、その撤 退後の事業の切り売りに群がる異業種までふくめた大手営利法人の動きは、市場原理に基づく営利性と介護に求められる公共性とはまったく相容れないものであ ることを改めて示しています。
 今回の事態は、「介護保険サービスは誰が担うべきか」という制度の根幹を問うものであり、第1に、公的サービスを縮小し、営利の追求、株式配当を最大目 的とする大手営利法人に介護事業を委ねる現在のシステムの誤りと、第2に、市場原理のもとでの「競争」がサービスの質を向上させ、利用者の選択を拡大する ものではないことを改めて浮き彫りにしています。このことは同時に、「規制緩和・民間開放推進」を介護・福祉、さらに医療の領域にまで貫徹させようとする 政府の「構造改革」路線の問題点とその完全な破綻を明確に示しています。
 利用者の介護と生活、権利を守ることよりも、利益の最大化、株主への配当を優先する営利企業に介護事業はまかせられません。

介護報酬の改善・引き上げによるサービス基盤の確立・強化を

 介護サービスは地域に根ざした数多くの事業所の奮闘によってささえられています。その圧倒 的多数は小規模な事業所です。「制度の持続可能性の確保」を理由に介護給付費の抑制政策が貫かれる中、低い水準・内容にすえおかれた介護報酬は事業所経営 を圧迫し、職員の低賃金構造を固定化しています。06年報酬改定では、05年改定と合わせて全体で2.4%もの引き下げが実施されました。03年改定も 2.3%のマイナス改定であり、介護報酬は介護保険スタート以降一度も引き上げられることなく、改定の度に大幅に目減りしながら推移しているのが実態で す。人件費などの削減をはじめとする個々の事業所の経営努力ももはや限界に達しています。
 こうした低介護報酬の構造が、サービスの質の向上を妨げ、利用者に対する必要な介護サービスの提供・継続、職員の労働条件の改善を困難にし、地域のサービス基盤を脆弱化させる最大の要因となっています。
 今後高齢化がいっそう進行していく中、誰のための介護保険か、何のための「制度の持続可能性の確保」なのかが改めて問われなければなりません。介護を必 要とするすべての高齢者に行き届いたサービスを保障するために、国庫負担を大幅に増やし、介護報酬の改善・引き上げをはかることを強く求めるものです。

以上

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