いつでも元気

2009年11月1日

特集1 国民の願い、形にする秋 総選挙でつくった変化をさらに前へ 全日本民医連副会長・国民運動部長 吉田万三さんに聞く これからが“第2ラウンド” 聞き手・尾鍋トシ子さん 愛知・名南健康友の会

 総選挙で自民・公明が惨敗し、民主党中心の政権が誕生しました。国民の願いを実現させる方向への大きな一歩です。この変化を、形 にしていくには? 全日本民医連副会長で国民運動部長の吉田万三さんに『いつでも元気』編集委員の尾鍋トシ子さん(愛知・名南健康友の会)が聞きました。

genki217_02_01 尾鍋 民主党中心の政権ができて、いよいよ動き出しましたね。
 吉田 国民の願いを踏みにじってきた自民・公明が政権の座から退場させられた。大きく、一歩前進したことは間違いありません。私たちの願いを実現する可能性が生まれたといっていい。
 さっそく、全日本民医連は中央社保協などといっしょに「四点署名」を始めています。犾後期高齢者医療制度の廃止、猤生活保護の母子加算復活、猪障害者の 自立支援法の廃止、獷利用者負担を増やさず介護報酬を増額する、の四点です。これは、総選挙前から民主党、共産党、社民党、国民新党が一致していることな んですね。これをまず、実現させようと。
 尾鍋 なるほど、いままでの政府はこの要求を拒否してきたわけですからね。
genki217_02_02 吉田 そう。それが今度は、私たちの要求の多くをマニフェストに掲げた政権が誕生したんですから。そうしなければ国民の支持が得られないところまで、私たちの運動が広がったということなんですね。
 後期高齢者医療制度でも、三年前に法案が通ったときは、国会前で座り込みをしているのは、少数だったでしょう。でも運動でその後、世論は大きく動いた。
 尾鍋 今度は、きちんと公約を実現するように、運動していくことが大事ですね。後期高齢者医療制度を廃止すると公約して政権についたことは、ほんとうに大きい。でも、そう簡単にいくでしょうか。

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後期高齢者医療制度廃止や生活保護母子加算復活などを求めて民主党議員を訪問した千葉の友の会員ら(9月16日、中央社保協の国会行動で。撮影=多田重正記者)

 吉田 廃止の方向へ動かなければ、今度の政権も国民の支持を一気に失いかねません。国民は許さないと思いますよ。
 もちろん、私たちの運動が弱くなっちゃうと、うやむやになる可能性はあります。民主党は「医療保険を一元化する」といっていますが、それを待っていたら 何年先になるかわからない。自民・公明は「地方が混乱する」などといっていますしね。
 しかし昨年、「廃止していったん老人保健制度に戻す」という法案が参院では可決されています。もとはといえば国民健康保険の財政難を口実に高齢者を切り 離そうとしたわけだから、国保への国庫負担を元通りに増やして財政を立て直し、それから長期的な改革をすればいい。
尾鍋 早く廃止させたいですね。
吉田 この制度は高齢者が増えると自動的に保険料が上がるしくみで、しかも来年四月には保険料が改定されます。東京ではもう広域連合の議会で、来年の保険料の話が始まっていて、基本的に値上げです。全国でも、基本的に値上げでしょう。
ですから後期高齢者医療制度をすぐに廃止しろという運動と、地域でも保険料を上げさせない運動をしなければいけませんね。

「日本の消費税率は低い」?

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税金の無駄遣いの焦点になっている八ツ場ダム。写真は、町沈没後にダム上を通る予定の橋(群馬県長野原町。撮影=民医連新聞)

 尾鍋 高校の教育費無償化や生活保護の母子加算の復活なども、ぜひ実現してほしい公約ですが、問題は財源ですよね。教育費、社会保障費という話になると、すぐ消費税増税が出てくる。民主党も「四年間は上げない」というだけで、その後は上げざるをえないという立場ですが。
 吉田 消費税の問題は、気をつけなければなりませんね。すぐに「日本の消費税率は低い。ヨーロッパの消費税率は高いんだ。ヨーロッパなみの社会保障制度にしたければ、日本も消費税率を上げた方がいい」、こういう論調が出てきます。
 でも、意外に知られていないのは、日本の消費税はいまでも「ヨーロッパなみ」だということ。国の税収に占める消費税の割合は、日本は二四・六%。イギリ スでは消費税率一七・五%ですが、国の税収に占める割合は二三・七%、イタリアは消費税率二〇%で二七・五%です。
 同じ消費税という名前でもヨーロッパは日用品や食材などには消費税がかかっていなかったり低税率で、ぜいたく品にだけ高い消費税がかかるところが多いん ですね。ところが日本では何にでも一律消費税がかかるから、五%でもかなりの税収になる。「日本の消費税率は低い」というのにはまやかしがあるんです。
 尾鍋 消費税は社会保障のためだといって始まったのに、少しも社会保障はよくならない。大企業の法人税減税などにほとんど持っていかれましたよね。
 吉田 大企業はずいぶん減税の恩恵を受けた。高額所得者も減税されました。所得税の最高税率もずいぶん下がりましたよね。昔は七〇%を超えていたのに、いまでは四〇%でしょう。
 尾鍋 国民健康保険の上限も、医療・介護あわせて六九万円ですよね。所得が六〇〇万円ぐらいの中間層でも六九万円という上限にすぐいってしまう。すごく高い。何千万円も収入がある人でも同じ六九万円でしょう。もっとお金持ちの人からお金をもらえばいいのに。
 吉田 同じようなことをアメリカのオバマさんもいっていますね。高額所得者からお金をもらって、アメリカにない公的医療保険制度をつくる。軍事費にも少しメスを入れて財源を生み出しましょうと。こういうことが日本でも必要ですね。
 尾鍋 日本の民主党は企業団体献金をもらっていますよね。大企業にはっきりモノがいえないのでは。
 吉田 その心配はありますね。後期高齢者医療制度廃止や派遣法の改正だって、財界の要求と矛盾します。ですから民主党もつらいでしょうけど(笑)、そこはくじけないように国民が励まさないと。国民の方がもっとつらいんですから、いいかげんにはできません。

控除廃止は無駄な争い招く

 尾鍋 子ども手当の財源にするために、配偶者控除や扶養者控除をなくすという公約も気になります。
 吉田 配偶者控除や扶養者控除をなくすことについては彼らなりの理屈がある。以前は「サザエさん」や「チビまる子ちゃん」のような専業主婦の家庭が普通でしたが、いまは共働きが普通。専業主婦といってもパートで働いている人も多い。だから共働きを基本にするというのです。
 でもそれなら配偶者控除や扶養者控除はそのままで、「共働き控除」をつくればいい。共働きでは保育料などの経費が余計にかかるでしょうから。「専業主婦 は控除を受けて優遇されている。ずるい」「今度はこっちにお金をまわせ」みたいな話にすると、苦しい人同士をたたかわせるような、ムダな争いを起こすだけ です。
 尾鍋 私の友人にも、息子さんが最近、子育てを終えたという人がいます。「子育て中は何の手当もなかったのに、その上控除がなくされたらかわいそうだ」といっていました。制度をつくるなら、みんなが「よかった」と思えるようにしてほしい。

「しっかりやれ」と運動で

 尾鍋 もうひとつ、民主党の、憲法を変える立場にも不安を感じています。
 吉田 露骨な改憲論者はかなり落選しましたが、民主党には「議論してもいいんじゃないの」という人が多い。「議論してもいい」ってことは変えてもいいってことでもありますから、気をつけないと変える方向へ行くことは十分ある。
 でも、これも私たちが運動してきちんと声を上げていくことですよね。自衛隊のインド洋給油問題でも民主党は「すぐにやめる」といっていたのに、いつの間 にか「来年一月」。アメリカから猛烈にプレッシャーがかかっているみたいですね。
 尾鍋 オバマさんと鳩山さんは「信頼関係が築けた」そうですけど。
 吉田 給油の問題でも鳩山さんのおしりを支えてあげないと。「フラフラするんじゃない、しっかりやれ」って。
 尾鍋 下から運動で支えるのですね。

「構造改革」はとまっていない

 尾鍋 一〇月から共同組織拡大強化月間が始まります。国会も一〇月中に始まる予定ですが、私たちが運動をすすめる上でのがんばりどころは。
 吉田 「構造改革」はまだ終わっていません。この点に対する運動がこれからも大切です。
 尾鍋 終わっていない構造改革とは?
 吉田 たとえば、大阪の橋下知事などが「道州制こそ日本を救 う」ようにいっています。しかし道州制のねらいは、都道府県をなくすなど自治体の合併をさらにすすめて、社会保障や行政サービスを地方に投げ出すことで す。後は「自己責任」にして国民に負担を押しつけ、国は外交や治安など限られたことしかやらない。削ったお金を産業政策などに振り向ける。これも財界が求 めてきたもので、自民党は賛成、民主党も反対していません。
 後期高齢者医療制度とセットでおこなわれてきた「医療費適正化」の地方押しつけも相変わらずで、公立病院の統廃合も止まっていません。地域から病院がな くなる、医師も看護師も足りない、介護の受け入れ先もない。ですから医療崩壊や介護崩壊を打開する運動を、国政はもちろん、地域でも広げることが大事だと 思います。

「国民が主役」の風 吹かせたい

壁つくらず 大いに地域に出て

「4点署名」もって地域に

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中央社保協・全日本民医連が作成した「4点署名」

 吉田 民医連は地方で、医師増員の運動などを医師会などと も協力していっしょにやってきました。九月一二日には山梨県で「地域医療を守る医師をふやそう」と、「シンポジウムと講演のつどい」が開かれましたが、県 医師会長があいさつし、司会は県民医連会長。全国自治体病院協議会会長が講演して民医連の先生、国立病院長や市長もシンポジストとして参加して四一二人が 集まったんです。
 ですからこっちから壁をつくったりせずに、大いに運動を広げることです。後期高齢者医療制度の廃止の運動でも、いままでおつき合いのなかった老人クラブ の人たちとも署名などにとりくんできました。共同組織のみなさんもこれまでの枠を超えた人と手をつなぎ、一致できる点で協力する。そういう運動をいっしょ にやってほしい。四点署名を持って大いに地域に出てほしいと思います。
 「安心して老後を迎えたい」という気持ちはみんないっしょ。反対する人はいませんから。
 派遣切りの問題でも、世界中が経済危機ですが、首都に派遣村ができたのは日本だけ。社会保障などセーフティネットがしっかりしたところはあんなことは起 きない。この派遣切りに対する反撃も全国で起きましたね。各地で派遣村や相談会が開かれ、共同組織のみなさんや、民医連の職員も参加しています。こうした いろいろな国民の運動が、いまの変化の原動力になっている。
 いよいよ私たちの声を実現する第二ラウンド。総選挙でグッと前にすすんだ変化をさらに二歩、三歩とすすめて形にしていく大事な秋です。
 尾鍋 ワクワクしますね。私も「国民が主役だ」という風を地域でどんどん吹かせたいと思います。ありがとうございました。
写真・久保田弘信

いつでも元気 2009.11 No.217

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