いつでも元気

2009年11月1日

元気ネットワーク ワカモノたちと健康、語ってみた 東京西部保健生協

働きすぎ、ワーキングプア…20代30代から悲鳴

 「若者たちの健康は大丈夫?」そんな問題意識で、行動をおこした組織があります。東京西部保健生協です。同生協が開いた、若者の医療懇談会におじゃましました。二〇代三〇代をとりまく環境とともにご紹介します。

夜の医療懇談会

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吉岡さんの説明に一喜一憂

 夜八時をまわって。東京・杉並区のマンションの一室に、人が集まってきました。玄関にはスニーカーや革靴があふれて足の踏み場もありません。
 東京西部保健生協が呼びかけた医療懇談会です。体脂肪や骨密度、血圧を測って…というこの光景、日本全国でおこなわれている医療懇談会と変わりはなさそうですが、顔ぶれが違いました。集まっていたのは若者たち。
 発端になったのは、同生協が、地元で活動する、杉並青年九条の会のメンバーとおこなった懇談でした。街に出て生活や雇用アンケートをとり、たくさんの声 を集めてきた彼らから、少なくない青年が、雇用や生活の問題に悩み、健康不安も持っている、という実態が語られたのです。
 「健康診断も受けていない」「ネットカフェも満員状態で、商店街のアーケードで寝泊まりしている人もいる」「ネットカフェでは咳をする人が多い。以前、 結核が流行した」「低賃金の上に長時間労働なので、休日は自宅で一日中寝ている青年が多い。友人との交流も少なく、孤独なせいか、うつなどの精神疾患も目 立つ」
 個別の事例には、次のようなものも。

不規則な生活で体を壊した。どんなに働いても給料が上がらない。残業を申請すると査定に響くので正確に請求できない。(29歳・スーパー勤務)

派遣の介護職をしていて、給与が低く、月収は一五万円未満。そんな中、仕事中に倒れた。高血圧状態だと診断された。退職をすすめられ、現在パート職。(33歳・派遣)

めまいがひどい。生活が厳しく通院にもお金がかかるので、市販の頭痛薬でごまかして働いている。交際費を削るため、外出も控えている。(29歳・事務パート)

愛知で工場の建設をしていたが、年末クビになり上京。派遣村に行ったが終わっていた。歩き回ったはてに路上で倒れ、救急車で搬送された。しかし保険証がないとわかり「出て行かなければ金をとる」と病院を出された。(36歳・建設業)

「相談があれば医療生協に」

 「医療生協にできることがあれば、と思ったんです」と、同法人専務の吉岡尚志さん。そこで医療懇談会をもちかけると、青年たちは「ありがたい」と。仕事を終えて参加できるよう、夜、おこなうことになったのです。
 吉岡さんが健康チェックの結果の見方を説明し、看護師の酒井正江さんが、風邪の予防のポイントや、食事の取り方をミニ講演。風邪予防には疲労やストレス を減らすこと、朝食はひと口でも意味がある、残業などで夕飯が遅くなるときは、空腹を感じたとき軽く食べておく、などの酒井さんのアドバイスに「ふー ん」。そして「仕事の合間に食べるヒマもなく、缶コーヒーを流し込むくらい」という声もあがります。
 血圧の高さを指摘されていたスーツ姿の三〇代男性は、「月三〇〇時間労働は当たり前。土日も働いている」と。厚労省が過労死と認める月八〇時間以上の残業時間をゆうに超えていました。

若者たちの健康はいま

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チェックの結果「ドキドキするよー」

 青年労働者の働き方と健康についての調査がこのほど発表になりました。
 昨年、働くもののいのちと健康を守る全国センターが、全労連非正規雇用労働者全国センターや、労働運動総合研究所とプロジェクトを組み、三二〇〇人を超 える青年労働者(三五歳未満)におこなったものです。この世代の大規模な実態調査は貴重です。
 調査は長時間労働やサービス残業の多さ、有給休暇がとれない、低賃金など、青年層の厳しい労働実態を示すものでした。また、疲労や健康状態は労働時間の 長さや重さ、雇用の安定性などと関係していることもうかがえる内容でした。
 回答者の約三分の一が、仕事で「とても疲れる」と感じ、「やや疲れる」をあわせると実に九割が疲労を訴えていました。
 過労死の危険がある週六〇時間を超えて働いている(月の残業八〇時間以上にあたる)人は一八・五%も。「体調が悪い」と答える割合は、労働時間が長い人 たちほど、高くなっていました。週五〇時間以上働いている人は二割を超え(二一・四%)、週八〇時間超えの層になると四一・五%にも(グラフ)。
 睡眠時間が短い人に健康不安を訴える傾向も強く、「四時間未満」の人は、非常に不調、やや不調をあわせ、半数近く(四六・七%)が不調を訴えていました。
 悩みやストレスに感じることは、仕事の「量」や「質」「会社の将来性」が三割を超え、非正規労働者では「雇用が不安定」という回答が最多(男性三九・ 五%、女性三〇・六%)でした。また「抑うつ傾向」も五〇%以上にみられ、労働時間が長くなるにつれ多くなります。

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非正規は療養も困難

 目についたのは、「過去一年間に病気やケガで仕事を休んだ(四〇・九%)」という人の状況をき いた項目です。正規労働者は九割が有給休暇を使えたのに、非正規の人は四人に一人(二四・六%)が「休んだため給与がなくなった」と回答、「解雇された」 人までいました(一・二%で実数は三人)。
 「病気やケガで休む必要があっても休めなかった」人は五%でしたが、その六割が「仕事が忙しかったから」と回答。非正規労働者で、「生活のため休めな かった」が五・四%、「健康保険証がないので病院に行かずがまん」も二・七%いたことが特徴でした。
 非正規労働者は急増し、現在は全労働者の三分の一を占めるまでになっています。またその傾向は青年ほど強まり、二〇~二四歳では四三%に(内閣府二〇〇八年度版「青少年白書」)。
 生活の基盤を失っている人の健康問題はなおさら深刻です。東京の派遣村実行委員会の調査では、アンケートに回答した相談者一〇八人のうち五三・七%が体 や心の不調を訴えていました。また、派遣村に相談に来た理由で「病気や障害のため働けない」は一二%でした。

 正社員だが働いても働いても仕事が終わらない。非正規で生活が苦しい、こんな困難が二〇代三〇代の多くを直撃し、健康も脅かしている、そんな問題が今回の医療懇談会の背景にありました。
 懇談会の最後に、青年職員の亀井さんが訴えました。「何かあったら医療生協に相談してほしい。組合員にもなって」・地域の命を守る共同組織の存在は、こんな若い世代の中にも求められています。
文と写真・木下直子記者

いつでも元気 2009.11 No.217

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