いつでも元気

2010年1月1日

元気スペシャル 地球温暖化をとめよう 温室効果ガス 25%削減は達成できる

 地球温暖化の影響が顕著になる中、鳩山首相が国連の集まりで九月、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを「一九九〇年度比で二〇二〇年までに二五%削減する」と演説し、歓迎されました。
 しかし「二五%削減」は本当に可能か。「適切な政策を導入すれば三〇%でも可能」と語る、日本環境学会会長の和田武さん(元立命館大学教授)に聞きました。

和田 武さんに聞く
日本環境学会会長

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福島県布引高原の風力発電(提供:Aflo)

 二五%削減のカギはまず、省エネルギー。そして石油や石炭、天然ガス、ウランなど限りある「再 生不能エネルギー」中心の社会から、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス(生物由来のエネルギー)など、自然の中でほぼ無限に再生できる「再生可能エネ ルギー」(自然エネルギー)中心の社会へ転換することです。
 日本ではエネルギー全体に占める、再生可能エネルギーの割合は三%。これを一五%~二〇%まで高めれば、二五%削減は達成できます。

雇用創出、平和にも貢献

 再生可能エネルギーが普及すると、他にもさまざまなよいことがあります。
 (1)エネルギーの自給率を向上できる。日本の自給率は四%だが、再生可能エネルギーは国内にも豊富にある。
 (2)再生可能エネルギーは少量ずつだが、どこにでもあり、住民参加の普及促進に適している。
 (3)再生可能エネルギー関連産業が発達し、多くの雇用を創出。ドイツは再生可能エネルギーで二八万人の雇用を創出した。アメリカのオバマ政権も再生可 能エネルギー開発で五〇〇万人の雇用創出を掲げた。再生可能エネルギーが豊富な農村部などの地域振興にも役立つ。
 (4)世界平和にも貢献。石油や天然ガスなどは特定の国に偏在しているため、戦争の火種にもなってきたが、再生可能エネルギーはどの国にもある。

対策とってこそ経済も発展

 「地球温暖化対策は経済や家計にマイナス」という人がいます。前麻生政権が「中期目標検討委員 会」の試算を発表したときも「GDP(国内総生産)がマイナス」「家庭に負担。年間の可処分所得が四万三〇〇〇円減り、光熱費が三万三〇〇〇円増える」と 報道されました。しかしこれは計算結果をごまかしたとんでもない主張です。国立環境研究所は「温室効果ガスを二五%削減しても現在より可処分所得は増え、 光熱費も変わらない」と試算しています。
 その上、温暖化防止対策をとらなかったときの被害を考えていません。対策をとらなければ今世紀末の日本の真夏日は二〇世紀末の倍、約八〇日に延びるおそれが。熱中症の死亡リスクは三・七倍、農作物被害や土砂災害が増え、一七兆円の被害が出るといいます(環境省)。
 イギリス政府の試算「スターン・レビュー」(〇六年)でも、対策を取らなければ地球上の被害は最大で世界のGDPの二〇%にも及ぶとのことで、これはもう一度世界大戦が起こったくらいの打撃です。逆に対策費用は一年あたりGDPの一%ずつですむとのことです。

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CO2削減に原発必要ない

 産業界に責任を果たさせることが重要です。日本のCO2総排出量の三分の二が発電所を含む一万五〇〇〇カ所の工場によるもの。先進諸国ではこうした大口のCO2排出源に対して政府と協定し、削減を義務づけるところが増えています。日本にもこうした協定が必要です。
 日本では原発を「CO2を出さないクリーンエネルギー」として増やし続けている点も問題です。操業しているだけで放射能汚染を招き、大地震による苛酷事故も否定できません。しかも震災で操業不能に陥るなど稼働率が下がり、CO2削減効果も低下しています。
 その上、実は原発も温室効果ガス「排出ゼロ」ではありません。原発や核燃料施設などの排出量は年八二万トン、中規模火力発電所ひとつと同程度です。
 一方で電力会社は石炭火力発電所も大幅に増やしています。石炭はもっともCO2を排出する燃料です。発電所の石炭を天然ガスや複合火力に変えれば、日本のCO2総排出量を一五%削れます。
 ドイツやイギリスでは原発を減らしながらCO2も減らしています。

温暖化対策で新しい社会へ

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ヤルン河流域に拡大する砂丘(チベット自治区・ツエタン近郊)

 すべての再生可能エネルギー発電電力を電力会社が買い取るよう義務づける制度(電力買取補償制 度)を導入する国が世界中に広がりつつあり、再生可能エネルギーが急速に普及しています。ドイツでは再生可能エネルギーによる発電設備を導入する際、費用 の八~九割を銀行から借りても売電収入で返済でき、おつりが出ます。買い取り費用は消費者の電気料金に三%加算され、社会全体で賄っています。日本では 二%弱が電源開発促進税として加算されていますが、ほとんど原発に使われています。
 また、日本には電力会社に年度毎に再生可能エネルギー発電導入目標を与え、達成を義務づける制度(RPS法)がありますが、目標が二〇一〇年でわずか 一・三五%。その上、超過達成分を翌年以降に繰り越せるため目標が容易に達成でき、風力発電などでは自治体や市民などの設置申請の大半を電力会社が断るあ りさまです。
 たとえば〇六年、九州電力に申請があった風力発電は八五件、総容量一〇五万キロワット強でしたが、九州電力が契約したのはたった七件、五万キロワットで した。〇九年一一月に新たに太陽光発電が対象となりましたが、買い取る義務は電力の余剰分だけ。すべての再生可能エネルギーを対象とした買取制度はありま せん。
 二〇一〇年の再生可能エネルギー発電導入目標はドイツで一二%、イギリスで一〇%。日本も目標をもっと高くして電力買取補償制度を導入すべきです。
 世界で風力発電は年二五%ずつ伸びています。ドイツやデンマークでは、再生可能エネルギー普及の主な担い手は市民。日本でも太陽光発電の八〇%は、市民が設置しています。適切な制度を導入すれば、市民主導でもっと普及が進みます。
 温暖化対策は新しい社会への挑戦。エネルギーを市民が生産する時代へと変わりつつあります。市民が変われば地域、日本、世界が変わる。主役は私たちです。

チベット高原に砂漠が

永久凍土がとけだした!

写真家 野田雅也 

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永久凍土の融解は砂漠化も引き起こす(チベット高原)

 ヒマラヤ山脈の北方、世界最高地に広がるチベット高原。平均海抜は四〇〇〇神を超え、極度な乾燥と寒冷の厳しい大地だ。チベットの人びとは草原で牛科のヤクや羊を放牧し、わずかに育つ大麦などを栽培し、数千年前から変わらない営みを続けてきた。
 しかしいま、その草原に明らかな異変が起きている。若草色の海原が広がっているはずの初夏の草原に、ゴルフ場のバンカーほどの小さな砂漠のかけらが、ま だら模様に現れ始めた。そして山の斜面や風の通り道にそれらが連なり、集積して巨大な砂丘も出現している。「草が育たない」と牧民が不安を抱き始めたこ ろ、砂漠化は激しいスピードで進行していた。

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井戸が涸れ、新たな水を探す僧侶たち(チベット東部カム地方)

 チベットを横断するヤルン河流域で半農半牧の生活をしていたチャチ村の女性は、「二〇〇二年ご ろから川の水が涸れ始め、砂漠が拡大した」という。村の周辺では植林がおこなわれていたが、木が根を張るよりも土壌の風化が速く、その多くが立ち枯れして いる。チベットの草原は表土がわずかしかない脆弱なもの。それに加え、乾燥と強い風の影響で砂漠化の進行が速い。人間の力では及ばない異変を前に、「草原 は永遠にあると思っていた」と村人は途方にくれる。
 アジアを潤す主要河川の水源はチベットにある。しかし砂漠化により、その水源が危機に瀕している。それだけでなく、地球温暖化の影響で永久凍土もとけ始 めた。寒冷で凍りついた土壌、つまり“天然の水がめ”も縮小しているのだ。「天空の大地」からの警告は、日本にも黄砂になって届いている。

いつでも元気 2010.1 No.219

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