民医連新聞

2004年7月5日

“関係ないヨ”と 思ってない? 医療倫理のはなし(7)

4分割法、検討の実際

 今回はケース4について4分割法にのっとり検討してみます。しかしこれは、あくまでも一つの例と考えて下さい。また、紙面の都合で細かい医学的判断は省略しています。

〈ケース4〉慢性腎不全を持った重症脳卒中患者に対する血液透析実施の是非…五七歳・単身者。糖尿病で腎症 が進行、血液透析していた。が、脳幹部出血で緊急入院。半昏睡状態、人工呼吸器装着。急性期で死亡の可能性が高かったが、もちこたえ、遷延性植物状態(ま たはそれに近い状態)で救命される可能性が高くなった。

 しかし入院後、透析中止で、肺うっ血が発生、透析を再開しないと死亡は確実。この状態で、血液透析を再開すべきか?

■医学的適応

(病態)(1)重症脳幹部出血。意識障害は強く、完全右片麻痺。呼吸状態が悪く気管内挿管され人工呼吸器装着中。(2)慢性腎不全で人工透析中。透析を中断していたが、再開しないと死亡することは確実。(3)脳出血急性期ではあるが、血液透析は安全に実施可能。

(予後)(1)発症後一週間たっており、脳出血については、このまま救命される可能性が高い。(2)血腫径、血腫の場所から考えて、意識障害、呼吸障害、嚥下障害が改善する可能性はあるが、最悪、遷延性植物状態、経管栄養で永続的人工呼吸器装着となることもありうる。

■本人の意向

 意識障害が強く、本人の意思確認は不可能。事前の意思表示(リビングウィル)は存在しない。代理決定者は患者の兄。兄としては、できるだけのことはしてあげたい、という気持ちと、植物状態で人工的に生かされるのではかわいそうだ、という気持ちがある。

■QOL

 将来的に最大限回復した場合で、ADL全介助、人工呼吸器は離脱(気管切開は閉じられないかもしれない)、ある 程度の意思疎通は可能、経口摂取は食物形態を工夫すれば可能、車椅子座位は可能。週三回の透析は必要。最悪の場合、遷延性植物状態、気管切開で人工呼吸器 管理、経管栄養、週三回の透析。後者の場合、客観的には最悪のQOLと考えられる。

 前者のQOLをどう評価するか。現段階では、前者のQOLも悪いので透析をやめてしまえと言い切れる人は誰もいないと思う。残念ながら、本人がこの状態をどのようなQOLと考えるか推測する材料はなかった。

■周囲の状況

 もともと患者は飲酒問題でたびたび兄弟に迷惑をかけてきた。また、糖尿病の治療も、医療スタッフの働きかけにもかかわらず十分行えず、結局、糖尿病性腎症から慢性腎不全になってしまった。家族や医療スタッフの受けは良くない。

〈方 針〉 医学的判断からは、血液透析をためらう理由は無い。本人の意向は確認できない。代理決 定者である兄は透析を絶対拒否というわけではない。現時点でQOLを判断基準にして侵襲的治療を控えるのは危険である。少なくとも、必ず植物状態となるわ けではない。周囲の状況は透析の実施を妨げるものではない。以上より、生命維持のために透析を再開する。ただし、一カ月たった時点で、患者の状態を見て透 析継続の是非を再検討する。

 その後、血液透析を三カ月施行しましたが、結果的にこの患者さんは脳出血を再発して亡くなりました。発症一カ月の時点では、人工呼吸器から離脱できず経管栄養でしたが、意識は回復し、意思疎通も可能になったため、家族と相談の上、透析を継続していました。
 (安田肇 全日本民医連・医療倫理委員)

(民医連新聞 第1335号 2004年7月5日)

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