民医連新聞

2004年7月5日

介護保険の大改悪ねらう厚労省 各地で調査もとに要請行動

 介護保険は来年、五年目の「抜本見直し」の予定。厚生労働省は「社保審介護保険部会」に「見直し案」を提示、財務省は「建議」を出しまし た。それら内容はまったくの「大改悪」。参院選挙後にも具体案が出される見通しのなか、全日本民医連は、厚労相に「介護保険の緊急改善と抜本見直しの要 望」を提出、六月一二日交渉しました。各地でも調査・事例をもとに要請行動が行われています。

“介護の実情・現場の意見を厚生労働省はきいて”

 厚労省との懇談には、全日本民医連介護部長の山田智医師をはじめ、東京、千葉、山梨、長野、石川、岐阜の各県連事業所から、ケアマネ、SW、看護師、ヘルパーなど一六人が参加。厚労省側は担当官一四人が応対しました。小池晃議員が同席。

「実効ある低所得者対策すぐに」

 北原美佐さん(山梨・SW)は、介護保険利用者二二四人の聴き取り調査を示しました。介護者本人の収入は、年金 額五万円以下が四二%。一〇万円未満が約六割、無年金の人が七人も。年収一〇〇万円以下の人が半数います。「この人たちは、介護費用のために、食事・医療 を削っています。貯蓄を取り崩し、底をつけば生きていけなくなる」と発言しました。

 「介護保険料の第二段階の中には、生活保護基準以下の収入しかない人が多数含まれる」と、片倉博美さん(神奈 川・老健施設長)は指摘し、利用料・保険料の減免を求めました。また「生活保護並みの資産調査が要求され、高齢者や介護する家族には対応できず、実効性が ない」と改善を求めました。

「施設建設の補助金、ゼロにするのか?」

 厚労省は六月三日付で、都道府県に文書を出し、二〇〇五年度の施設整備費補助金をゼロにすることを匂わせていま す。文書には「これまでの枠組みで漫然とこれを行うことなく」などと記されています。その意味を聞くと、「補助金全体を見直しているので、共通認識をつく るために通知した。ゼロになるとは言っていない」と答えました。

 予算削減を当然視する態度に、参加者から「あなた方は、金のことしか考えてない」と批判が飛びました。

「ケアマネ・ヘルパーの報酬改善を」

 斎藤稔さん(東京・ケアマネ)は「報酬が低い中では、専任化が難しい」とケアマネの困難を強調しました。「生活を犠牲にして働き、メンタルヘルスを壊す人も出た」「事業所の閉鎖が続き、他市に依頼せざるをえないところもある」などの発言が続きました。

 岩倉雅子さん(東京・ヘルパー)は、「皆さんと同じ年代の男性ヘルパーが、生活できる給料が出ない。研修の保障もない。実情がわかりますか?」と発言しました。

「給付はずしは重度化まねく」

 鮎沢ゆかりさん(長野・SW)は、「抜本改革といって給付の見直しをするのではなく、まず介護は暮らしの保障だ ということを確認してほしい」と求めました。「介護をきちんと受けられる人は、介護度が上がらない。サービスを切ってしまえば、重度化してしまう」との指 摘が他からも続きました。

 厚労省側は「見直し案について、いまは話せない。制度を持続させることが基本」と回答。「出たときは遅いだろう」のやりとりも。

 大河原貞人次長が「現場の苦労、介護者のたいへんな状況がわかったでしょう。引き続き努力されることに期待したい」、とまとめました。


札幌市のホームヘルパー連絡会が要望書出す

 【北海道発】「要支援・要介護1を、介護保険給付の対象からはずす」。こんな論議が、審議会でされていることに 危機感を持った地域の一三の事業所でつくる「札幌市厚別区ホームヘルパー連絡会」は三月、道と札幌市に対し、「訪問介護に関する介護保険制度改革に向けて の要望書」を提出しました。

 内容は、(1)要介護1以下の人がヘルパーの利用を継続できるように、(2)ヘルパーの教育の充実、(3)ヘルパーが生活自立できる賃金保障、(4)冬季加算です。

 連絡会で学習会を重ねて、原案をファックスで連絡すると、全部の事業所が賛同しました。介護度1以下の利用者が五〇%以上を占め、事業所の存続にとっても切実。サービス利用によって介護度を重度化させずに暮らせる利用者も多くいます。

 「煮つけ」一つとっても店で買ったパックと、ヘルパーが利用者に合う味で作ったものとでは、生活の意欲も変わります。私たちはヘルパーの仕事に誇りを持っています。

 要望書はNPOや会社経営の事業所も、立場を超えて一致して要求しました。これまで所長同士の交流や、職員の学習を積み重ねてきて、共通する思いがあったから、と思います。

笹原祐美さん(北海道・ヘルパーステーションかりぷ所長)

自治体に意見あげようと介護実態を調査

 【東京発】多摩地域九市に事業所を置く健生会では、「事例から介護保険制度の問題点を明らかにしよう」と、三月から利用者一三〇〇人を対象にした調査を開始しました。

 この調査には、三多摩保健医療問題研究会や日本福祉大学の石川満教授が協力。友の会など地域の人も加わり、利用者の了解を得て、事例検討会を行っています。

 「利用者の抱える困難の性質は何か」、「自治体の施策に何を求めるか」、「法人の事業では何が可能か」まで議論し、視点も磨きます。

 調査は途中ですが、事例からは、介護度や収入を問わず、一人暮らしや老老世帯、特に二人とも要介護になった世帯の困難がわかります。

 つまり、介護は、家族介護がささえているのが現状で、社会的な介護になっていないのです。

低所得者ほど〝要介護〟になりやすい

 これまで私たちは、高齢期運動連絡会に加わり、東京・多摩一六自治体に働きかけてきました。うち九市町村から得 たデータは、「低所得者ほど、『要介護』になる率が高い」ことを示しています(図)。ここには何か社会的な背景があるはずです。所得の低い人たちが、どの ように暮らしているか、調査事例から汲み取って検討し、対策を立てる必要があり、まずは国庫支出を増やさなくてはなりません。

 こういう資料は、介護保険ができる前から意見交換してきて、スムーズに作成してもらえる市がある一方、理解してもらえない市町村もあります。行政担当者と、現状の認識を一致させて、同じ土俵のなかで議論できるよう、働きかけることが大事なのです。

小嶋満彦さん(東京・三多摩健康友の会)

改悪されたら、介護と生活成り立たない
利用者224人の事例をまとめる

 【山梨発】山梨勤医協の3つの居宅事業所は、利用者224人の調査をまとめました。「介護保険制度は、経済力・家族力がある世帯のニーズに応えてきた一方、相変わらず貧困と介護地獄の中で、薄氷を踏むような生活をしている実態がある」と、厚労省にも意見しました。

○要介護1でも、介護保険が利用できなければ生活が成り立たない
 要介護1のAさん(84)は、一人暮らしで、痴呆・徘徊があり、食事が作れず、デイサービスの日程も覚えられません。別世帯の姪が主介護者ですが、仕事 があり日常の介護はできない。ショートステイ月7回、デイサービス週3回、生活援助を週1.5時間使うと限度額いっぱいです。

○限度額まで利用しても、人間らしい生活はできず、介護費用が生活を圧迫
 要介護3のBさん(83)は、要介護2の妻(79)と夫婦二人の世帯。借家で風呂がなく、入浴はデイサービス時だけ。失禁する夫には週2回のデイと朝夕 の排泄介助のヘルパー利用で限度額がいっぱい。尿・便で部屋中汚れていることも。年金17万円から医療費と介護費用の計10万円と、家賃・水光熱費を払う と残りはほとんどありません。貯金を崩しての生活で、先行きが不安です。

○同居の子は過酷な労働で介護できない。失業、病気で要介護者の年金で暮らす世帯も
 要介護3のCさん(73)は、要介護1の妻(67)と独身の息子2人と暮らしています。介護保険料・利用料の支払いが滞りがちです。長男は会社経営に失 敗し、借金を抱えて同居、次男は長期失業中です。Cさん夫婦の年金13万円で一家4人が暮らし、家は足の踏み場もない状態です。

(民医連新聞 第1335号 2004年7月5日)

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