声明・見解

2007年8月3日

【声明2007.08.03】原爆症認定集団訴訟・熊本地裁の判決についての声明

2007年8月3日
全日本民医連・原爆症認定訴訟支援医師団
全日本民医連被ばく問題委員会

1. 7月30日、熊本地裁は、原爆症認定を求めて提訴した21名の原告のうち、19名について国の認定棄却の決定を取り消し、厚生労働省がこの間行ってきた原爆症認定行政を批判する判決として、昨年の大阪地裁から連続して6度目の原告勝訴の判決を下した。
 これまでの5つの判決同様、DS86による被曝線量評価とそれに基づく原因確率の機械的適用を戒め、被爆状況、被爆直後に生じた症状の有無、程度、被爆 前後の健康状態、申請疾病以外の疾病の有無、内容などを全体的、総合的に考慮した上で判断すべきとしており、認定のあり方に関するこの考え方は定着したと いえる。
 特に今回の判決が、放射性降下物の降下範囲を広く認定し、審査の方針に掲げられた地域以外での滞在でも相応の放射性降下物による外部被曝を受けた可能性 を考慮する必要があるとしたこと、内部被曝についても審査の方針でDS86による積算線量が微量であるとして考慮されていないのは相当とはいえないとし、 実際の線量はDS86によるものよりも大幅に多いものになる可能性が否定できないとしたこと、内部被曝の人体に与える影響については相当の科学的根拠を有 するものであることは否定し得ないとし、低線量放射線による長時間にわたる継続的被曝によっても高線量放射線による短時間の瞬間的被曝と同等の健康障害が 生じ得るという知見は否定しきれないとしたことは、これまでの判決に比し残留放射線の影響をより明確に認定した画期的な判決といえる。
   
2. 個別申請疾患についてみると、悪性リンパ腫 (ATL:成人T細胞白血病)を含むがんや悪性腫瘍を申請病名にこだわらず認定し、前立腺がんでは放射性降下物による内部被曝が発症の大きな要因となって いることが示唆されるという医師団が提出した補充意見書や文献を採用したことが注目される。また、膀胱癌術後の貯尿袋の使用についても、膀胱癌の切除手術 に伴う医療行為として要医療性を認めた。
 非がん疾患については肺気腫、慢性気管支炎、胃潰瘍、変形性脊椎症、骨粗鬆症、変形性膝関節症、甲状腺機能低下症、胃粘膜下腫瘍、糖尿病、第4腰椎すべ り症、C型肝炎を認定するなど、これまでより疾患の範囲を広げて認定したことが特筆される。
 肺気腫、慢性気管支炎については、最近の放影研の疫学調査で肺気腫及び慢性気管支炎を含む呼吸器疾患による死亡率の増加が統計的に有意であることを根拠 として放射線起因性を認定し、胃潰瘍、十二指腸潰瘍についても同様の理由で疾患として起因性を認めている。
 糖尿病については、原告側が提出した広島で被爆時に20歳未満だった人では2型糖尿病の有病率と放射線量との間に有意な正の相関関係が示唆されたとする放影研の論文を根拠にして起因性を認めた。
 変形性脊椎症、変形性膝関節症、骨粗鬆症、腰椎すべり症については、医師団が準備した放射線の骨組織への影響に関する3つの文献を積極的に採用し、残留 放射線による内部被曝によっても骨組織の障害を起こすことが十分考えられ、骨折とその再生障害を繰り返すことなどによって骨の変形などが生じる蓋然性もあ るというべきであるとして起因性を認めた。
 甲状腺機能低下症についても医師団の補充意見書に沿った判断を示し、低線量被曝でも甲状腺障害が生ずる可能性があるとして全員を認定した。
 胃粘膜下腫瘍(良性腫瘍)については、子宮筋腫など良性腫瘍と原爆放射線との有意の相関を示す報告があることを根拠に起因性を認定し、仙台判決同様に切除術後の経過観察が必要として要医療性も認定した。
 このように今回の判決は証拠文献等を詳細に検討・引用し認定疾患の範囲を広げた積極的な判決であり、放射線の影響が否定できない疾患は認定されるべきとした点で評価できる。
   
3. 棄却された2人の原告のうち、C型肝硬変については被曝線量評価が妥当でない可能性があり、右下腿熱傷瘢痕による歩行障害については広島地裁での認定例に反するものとして納得できない内容があり残念である。
   
4. 原告21名のうち6名は判決を聞かずして亡くなっ ている。国・厚労省がいたずらに裁判の引き延ばしをはかることはもはや許されない。6度にわたって否定された現行の「審査の方針」を速やかに撤回し、被爆 者の切実な声に耳を傾け、一日も早く認定行政の抜本的な改善を行うべきである。

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