声明・見解

2008年10月15日

【会長声明2008.10.15】性急な制度見直しに危惧を表明し、医師臨床研修制度の充実を求める

2008年10月15日
全日本民主医療機関連合会
会 長  鈴木 篤

 新医師臨床研修制度がスタートして5年目に入った。民医連は、指導医の育成や研修医給与の 国家保障など研修条件の問題を指摘しつつも、国が責任を持つ制度の開始を積極的に受け止め、制度発足以降803名の研修医を受け入れてきた。そして、理念 の実現が図られるよう研修内容の充実に努めてきた。
 厚労省は、臨床研修に関する省令の「施行後5年以内に‥所要の検討を加え、‥必要な措置を講ずる」との規定に基づき検討を行い、省令を改正し、さらに今 回、厚労省、文科省合同の「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」において制度見直しの議論を開始した。そして、4回程度の会議の後、今年中には一定の 結論を得るとしている。
 民医連は、今回の検討・見直しが当事者である医学生や研修医の意見を十分聞くこともなく、さらに、制度の基本理念に照らした検証作業も不十分なまま、あ まりにも性急にすすめられていることに危惧を表明せざるを得ない。
 見直しの動機は、「医療崩壊の原因が大学の医師派遣機能低下にあり、その主因が新医師臨床研修制度にある」との意見によるものである。しかし、医療崩壊 の主因は国が1980年代初頭から一貫してすすめてきた医師数抑制による絶対的医師不足と低医療費政策にあることは明白であり、その上に、国立大学の独立 法人化などによって大学や付属病院を経営的に締め付けてきた結果である。地方大学での医師派遣機能低下が、特に過疎地の自治体病院などの医師不足を加速し ていることは事実であるが、派遣機能低下は、国立大学法人化や大学院大学などが大きく影響していることをしっかり見る必要がある。
 見直しの中では、臨床研修の期間を1年間に短縮することなどの意見も見受けられる。しかし、医師臨床研修の基本理念である、「人格のかん養」や将来専門 とする分野にかかわらず「医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ」「基本的な診療能力を身に付ける」ことからみると、明らかに理念の形骸化であ り、制度そのものを歪めるものであると指摘せざるを得ない。
 また、この間、短期間の受け入れ実績だけで指定取り消しや定員削減をすすめる動き、弾力化と称した大学でのモデル事業の実施等、理念から見ると理解に苦 しむ変更がなされた。大学でのモデル事業実施は、基本的診療能力、プライマリケアを重視するために内科、外科、救急、小児科、産婦人科、精神科、地域保健 を必須とし、そのためにも研修の場を市中病院にも広げてきた努力に逆行するものではないか。また、一つの制度の中に特別コースを設け複線化することは制度 の根幹そのものを揺るがしかねない。
 国民にとってさらにより良いものとなるよう見直して、制度の一層の充実を計るためには、場当たり的な対応や制度の逆戻りではなく、基本理念や目標に照ら して、それぞれの研修プログラムにおけるアウトカムや研修医の動態を検証すること、そして研修医や医学生、国民の声を見直しに反映させることを強く要望す るものである。冷静で中長期的視点に立った思慮深い検討を求める。

以上

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