いつでも元気

2010年5月1日

頭痛にご用心(下) 一人で悩まず、一度受診を 日誌をつけて頭痛見分けよう

慢性頭痛

命には直結しないが生活にさしさわる頭痛

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今田隆一
宮城・坂総合病院院長(脳神経外科)

 今回は片頭痛、緊張型頭痛など、もっとも多い慢性頭痛(機能性頭痛ともいいます)についてお話 しします。脳卒中など、これといった病気やけががないのに起こる頭痛です。痛みで仕事や家事ができなくなるなど、日常生活にも差し障りますが、はっきりと した原因はわかっていません。
 しかし従来は、命にかかわらないために医療機関でも軽く見られがちで、「病院に行っても無駄」という患者さんも多かったようです。私も何となく心当たりがあります。こうした慢性頭痛の話をするとき、心の中をチクリと刺すものを感じます。
 「頭痛にはなんでも○○○」というコマーシャルがありました。いまでも流れることがあってびっくりしますが、少なくない医師に「原因を調べるような無駄はせず、痛み止めを服用すればよいのでは」という先入観をあたえたコマーシャルでした。
 しかし頭痛の診療はこの2~3年で一変しました。片頭痛の特効薬、トリプタン製剤が登場したからです。

片頭痛

 片頭痛は慢性頭痛の約10%です。痛みが強くずきずきして、横にならないとつらいほどです。数 時間~最長3日間にわたって患者さんの自由を奪います。トリプタン製剤はこうした片頭痛の特効薬ですから、大変な福音です。水なしで服用できるもの、効果 が長く続くもの、鼻に差すものなど、いくつか種類があります。
 ただ、脳外科医の間でも正確な診断や薬の使い方などが定まってきたのは最近5年ほどのため、どの病院でも期待通りの診療が受けられるとは限らないのが現状のようです。
 痛みの起こり方は比較的急です。くも膜下出血ほどではありませんが、ずきんときて次第に痛みが強まります。朝起きたらすでに痛んでいることも多いようです。
 発作に先立って、中心が暗く周囲がピカピカしたギザギザの点が見えて次第に大きくなり、一定の大きさになると頭痛が始まる人もいます(片頭痛患者の約10%)。
 大部分の患者さんは「歩くと響く」とくに「階段を下りるときに響く」といいます。これは片頭痛に特徴的な症状です。脈にあわせて痛むことも多く、「心臓が頭の中に入ったようだ」と表現する人もいます。
 圧倒的に女性に多く、思春期から20~30歳代にかけて患者が増えていきます。頭痛の回数も増えて痛みも強まり、閉経期にかけて軽くなっていきます。こ のように女性ホルモンとの関係が強い頭痛です。女性だけでなく、男性も加齢とともに軽くなっていくといわれています。人によっては年を重ねても発作の回数 は変わらなかったり、逆に増えてしまう人もいますが、この場合も痛みは軽くなることが多いようです。
 片頭痛は痛みが強く、歩くと響く上、強い音や光が苦手だったり、はき気などの症状をともないやすいため、症状がおさまるまで患者さんは暗く静かな部屋に じっと横たわらざるをえません。「せっかくの週末が頭痛で台なし」「仕事を休まざるをえない」など、生活上・経済上の損失はたいへん大きいという調査結果 もあります。いったん寝入ると楽になったり、吐いてしまうと、すっと痛みがひいたりします。
 片頭痛の発作は朝方に多く、週の前半より後半、緊張しているときよりも緩んだときに起きやすくなります。低気圧の通過に一致して起こったり、特定の食べ 物がきっかけになるなど、心理的・身体的要因が指摘されることもあります。ですから、自分にとって起こりやすい時間帯や環境を把握することは、片頭痛に対 処する上で大事なことです。
 トリプタン製剤を服用する際は注意が必要です。頭痛が起きたら、それが片頭痛かどうか見極めなければなりません。患者さんによっては、片頭痛以外の頭痛もあわせ持つ人もいて、頭痛が始まってもそれが片頭痛かどうか迷ってしまうことがあるからです。
 複数の種類の頭痛がある人は、頭痛日誌をつけるとよいでしょう。頭痛がいつ、どんなときに、何をしているときに、ど んな風に起こり、症状はどうか、何時間くらい続いたか、はき気やおう吐はあるか、まぶしい光や大きな音で症状がひどくなることはなかったか、歩くと響いた か、などをできるだけくわしく書きます。その日誌を医師と一緒に見て振り返ることで、患者さん自身が正しく片頭痛を見分けられるようになります。

動くとつらい片頭痛・・光や音にも敏感
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 トリプタン製剤は、片頭痛の発作が始まったら早めに服用することが重要です。タイミングを逃す と効き目が弱まったり、吐き気でせっかくの薬を吐いてしまったりします。高価なものが多いので「いざというときに」とお守りのように持っている患者さんが いますが、そうすると服用のタイミングを失ってかえって薬の効果が期待できなくなります。
 片頭痛はそのまま放置すると手や首、頭髪などがぴりぴりしたり、さわられてもいやな感じがすることがあります。こうなると、トリプタン製剤もあまり効きません。
 不思議なことにトリプタンをはじめ、痛みをとる薬は服用量が多すぎるとかえって痛みを「引き起こす」ことがあります。このため、トリプタン製剤は1カ月間に10錠以下にとどめるなどのルールがあります。
 さらにトリプタン製剤を使ってはいけない特殊な片頭痛もあります。脳底動脈型片頭痛、片麻痺性片頭痛などです。
 小児の片頭痛にも使えません。小児には使ってはいけない脳底動脈型片頭痛がやや多く、後で述べますが片頭痛の診断自体が難しいためです。

月経関連頭痛

 月経とともに周期的に起こる、女性特有の頭痛です。最近、片頭痛のひとつと考えられるようになりました。月経開始の2日前~開始後3日間に起こるものを月経関連頭痛といいます。
 ただし片頭痛のひとつといっても、通常の片頭痛に比べてトリプタン製剤が効きにくく、症状も長く続く傾向がある、などの違いがあります。こうした理由から、トリプタン製剤と鎮痛剤の併用が必要になることも稀ではありません。
 月経関連頭痛を持っていた人の中には閉経を迎え、月経がなくなったのに、元来なら月経が予定される時期に頭痛だけやってくる人もいるといわれています。

子どもの片頭痛

 小児にも片頭痛があります。しかし症状や経過が成人と違ったり、子どもですから自分の症状を具体的に話せないことも多いため、確実な診断は困難です。また、頭痛がほとんどなく、めまいや腹痛の方が強いこともあるくらいです。
 さらに小児の片頭痛にはトリプタン製剤を使ってはいけない脳底動脈型片頭痛が多いこともあり、痛みがあっても学業の妨げにならない程度に軽くすることを 目的として、アスピリン製剤やアセトアミノフェン製剤などを使うことがよいとされています。安全性を第一に考えた薬剤療法です。
 最近では片頭痛予防薬や頭痛にともなう関連の症状を緩和する薬がよいという意見もあります。小児の片頭痛対策の進歩が期待されます。

緊張型頭痛

緊張型頭痛・・前のめりの姿勢、ストレスなどが原因
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 緊張型頭痛は頭痛のうち、もっとも多く、慢性頭痛の7~8割を占めています。1対2の割合で女 性に多く、10~20歳代で患者数が増加しはじめ、60歳以上で急激に減るといわれています。頭全体が締め付けられている感じがしたり、頭全体が重いなど の症状があります。痛みは片頭痛よりは軽く、体を動かすと頭に響くということもありません。
 首のうしろの筋肉を後頸筋といいます。うなじを中心とした筋肉のまとまりのことです。肩こりのときに痛む筋肉にあたり、重い頭部を支え、顔を前に向ける 働きがあります。この筋肉が持続的に緊張すると血流が悪くなり、緊張型頭痛が起こるとされています。緊張型頭痛は肩こりと密接に関係しているのです。緊張 型頭痛が女性に多いのは男性より首周りが華奢で、負荷がかかりやすいからだと考えられています。
 猫背やデスクワークなど、長時間頭をうつむき加減にしていると後頸筋内の血流が悪くなり、頭痛につながります。高すぎる枕を愛用している人も、同じ原理で緊張型頭痛になりやすいといわれています。
 また、最近では抑うつや不安、心理的なストレスも血流低下の原因になることがわかってきました。暗算などをおこなうと、筋肉中の血流が50%も低下するという研究結果もあります。緊張型頭痛はまさに「生活と労働」に密接に関連した頭痛といえそうです。
 治療では「後頚筋の緊張をともなうもの」と「ともなわないもの」に分け、後者を「強い不安やストレスが背景のもの」と「抑うつが背景のもの」に分けて考えます。
 そして労働環境や生活環境、どんなストレスがあるか、ふだんどのような姿勢が多いかなどについて聞き取りをおこないます。
 貧血や低血圧症も血中の酸素濃度を下げ、痛みの原因になる可能性があるため、検査をします。その上で患者さん自身が頭痛の発生要因に気づき、対処できる方法を考えて実践してもらいます。
 首から肩の筋肉を鍛えたり、緊張を緩める方法も実践してもらいます。とくに緊張を緩めるためのストレッチ体操が有効です。
 あわせて、必要に応じて後頚筋の緊張を軽くするお薬、鎮痛剤、抗不安薬、抗うつ薬などを服用します。

群発頭痛

 群発頭痛とは文字通り、連日激しい頭痛が起こるものです。男性に多く、1日に2~3回、しかも1~2カ月、ほぼ毎日痛みます。かなり痛いため、患者さんはじっとできずに歩き回ったりします。じっとしていることが多い片頭痛とは対照的です。
 顔面が赤くなったり青白くなったり、鼻が詰まる、鼻水や涙が出る、などの症状もともないます。この頭痛の発作が連続して起こっている間は、患者さんは「いつ頭痛が起こるか」びくびくしながら生活をせざるをえなくなるので仕事もできず、生活は大きく制限されます。
 片頭痛と違って、1回あたりの頭痛の時間がやや短いことがせめてもの救いです。患者数は、片頭痛と比べても圧倒的に少数です。
 治療は頭痛発作を可能な限り予防し、発作が起きても症状を軽くすることです。トリプタン製剤の注射が有効で、最近では自己注射も公的医療保険の対象になりました。酸素吸入も効果があるとされています。
 予防にはさまざまな薬を使います。その患者さんに合ったものを選びますが、どんな薬も効かないこともあるので、患者さんはたいへんです。

慢性持続性頭痛

 片頭痛や緊張型頭痛は多くても月に15日以内といわれています。しかし、それを超えてほぼ毎日頭痛が続くことがあり、これを慢性持続性頭痛と呼びます。群発頭痛とは違って痛みの程度はやや軽く、痛み方も緊張型頭痛や片頭痛に近いものです。
 この頭痛で注意しなければならないのは、鎮痛剤自体が頭痛を誘発している可能性があることです。
 いったいどういうことでしょうか? 痛みは基本的に主観的なものです。同じ刺激でも「痛い」と感じるとき、「痛くない」と感じるときがあります。また人それぞれに、これを超えると痛いと感じる「ハードル」があります。
 一方で鎮痛剤は痛みを軽くするとともに、痛みを感じる「ハードル」も下げてしまうと考えられています。鎮痛剤を服用すると痛みは軽くなりますが、その後 痛みが再発し、また痛み止めを服用するということを繰り返すと、小さな刺激でも「痛い」と感じるようになります。こうなると少しの痛みが強く感じられ、頭 痛の発作と発作の間がどんどん短くなるわけです。
 この場合の治療は、頭痛を誘発する薬をやめることに尽きます。ただ、痛みをとるお薬を「止めなさい」といわれるのですから、患者さんはとても抵抗があるようです。

神経痛から来る頭痛

“電撃痛”を起こしやすい神経の例
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 顔や頭皮、頚部(首周り)などにも感覚神経がありますが、感覚神経には何の原因もないのに、電 気が発生して「晴天に突然稲光が走ったような」電撃痛が襲うことがあります。典型的なものは顔面の痛みをおこす三叉神経痛です。こうした神経痛が頭痛の原 因になることがあります。
 電撃痛はその他の神経にも起こり、「後頭神経痛」(後頭部が痛む)、「大耳介神経痛」(耳の周辺の頭部が痛む)などがあります。三叉神経痛に対してはテグレトールというてんかん薬や、不整脈の薬などが使われますが、その他の神経痛では通常の鎮痛剤も使います。
 三叉神経痛は、手術や放射線治療も検討することがあります。

 頭痛の診療・診断は大きく進歩しています。片頭痛の項でお話ししましたが、頭痛日誌をつけても らえると治療の参考になるので、医師も助かります。頭痛の治療は患者さんの主体的参加のもと、治療者と患者さんとの「共同のいとなみ」として発展してきま した。これからもそうです。
 一人で悩まずにどうか、診察室へ。きっと活路が開かれます。
イラスト・いわまみどり

いつでも元気 2010.5 No.223

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