民医連新聞

2004年8月16日

〝関係ないヨ〟と 思ってない? 医療倫理のはなし(10)

DNRの指示について

 これまで、二例のケースについて4分割法で検討しました。結果的には、侵襲的な治療を選択する方向で治療方針が決定されました。

 一方、ガンの終末期においては、一般市民の間でも緩和ケアが主体で「延命を目標とした濃厚な治療は行わない」、 という合意ができつつあります。そのため、ガン末期の患者に対しては、医師からあらかじめ、DNR(Do not resuscitate=心肺蘇生術を 行わない)指示が出されることが多いと思います。現在、DNR指示はガン以外の患者にも広く適応されるようになっています。今回は、このDNR指示につい て考えてみます。

74年、アメリカ医師会で

 DNR指示の概念は一九七四年にアメリカ医師会が「死が予想外でない不可逆的疾患の末期状態には心肺蘇生術は適応ではない」と発表したことに始まります。

 心肺蘇生術は、心筋梗塞や不整脈など、心疾患による予想外の心停止に対しては劇的な効果をあげることがありま す。しかし、これまでの研究によれば、「ガン、敗血症、肺炎、急性期脳卒中の患者が心肺停止した場合、心肺蘇生術を行って、たとえ、一時的に蘇生できたと しても、生存して退院する可能性は極めて低い」、と報告されています。こうした患者に対する心肺蘇生術は医学的に有効とは言えず、患者や家族に苦痛を与え るだけになる恐れがあります。心肺蘇生術は、入院中の患者の臨死にあたっては、適応を考えて行うべき治療法と言えるでしょう。

 ところが、心肺蘇生術が他の医学的処置と異なるのは、突然の心肺停止状態の患者に直面した場合、医師の指示が無 くても、医療従事者や救急隊員、あるいは一般市民によっても心肺蘇生術が開始されるという点です。したがって、医師は終末期の患者に対し、慎重な医学的判 断と明確なインフォームドコンセントのもとにDNR指示を出し、意思決定過程についてはカルテに明記し、スタッフ間で誤解を生じないようにする責任があり ます。

本来的な意味は

 大切なことは、DNR指示の本来の意味合いは、「心肺停止時の心肺蘇生術の制限のみ」だということです。第六回 のケース7で、重症肺炎にかかった末期の乳癌患者さんのことを紹介しました。この患者さんは、ガンが進行して心肺停止になった場合、心肺蘇生術は行わな い、という同意が得られていた(すなわち、DNR指示がでていた)方でした。

 しかし、この場合、肺炎に対する気管内挿管、人工呼吸器管理はDNR指示の範囲外なのです。「DNR指示がある から」といって、医療スタッフがこれらの侵襲的治療を勝手に制限することは許されません。当然、この重症肺炎は予後不良の疾患に発症したものであり、これ らの侵襲的治療が患者さんを苦しめるだけの可能性もあります。その治療の有効性と限界を説明し、患者さんとご家族の意向を考慮して、あらためて適応を検討 すべきです。

 本来であれば、告知しDNR指示が出た段階で、こうした状況も予想して、侵襲的治療の是非についても患者さんと相談しておければ良いのですが、なかなかそこまでいかないのが現実です。臨床の現場ではいつも悩ましい問題となっています。

(安田 肇 全日本民医連医療倫理委員)

(民医連新聞 第1338号 2004年8月16日)

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