民医連新聞

2003年2月1日

「被爆者医療の手引き」の活用を

宮城・坂総合病院 神 久和(医師)

 全日本民医連は、昨年11月に「被爆者医療の前進のために」と題した『被爆者医療の手引き』を発行しました。1989年に発行された前版を全面改訂したものです。
 この手引きでは、第一章「被爆者とは」で、医療従事者が被爆者と接する上で必要な基本視点がまとめられています。第二章「被爆者に対する国の施策」で は、法律の変遷や各種の制度の内容の解説に加えて、長崎における被爆地域拡大問題にもふれています。第三章「被爆者の病像について」では癌やその他の疾病 発生上のリスクについての資料、免疫系への放射線の影響についての解説図が加わっており、医学的理解をすすめる工夫がされています。第四章「被爆者を実際 に診療するにあたって」では、被爆者診療の留意点として、病像を全人的視点でとらえ、被爆者の立場に立つ努力をすることの必要性を指摘しています。
 このように順序を立てて記述してあるので、章を読みすすめる中で、被爆者と認定されている範囲、原爆被害の様相と、被爆者の現在に至る健康状態や疾病の 特徴、被爆者運動の歴史と国の施策の経過が浮かびあがって来て、被爆者医療の基本点がわかります。
 広島・長崎の原爆投下から58年目を迎えようとしている今日でも、新たに被爆者手帳を申請する方がたが全国にいます。その多くは、これまでの長い人生 で、不利益を恐れて被爆者であることを周囲に隠してきた方がたです。被爆とはこのように残酷であるのかと改めて感じます。そして今、被団協が中心となっ て、多くの被爆者が原爆症の認定を政府に求める集団申請と、認定を却下された被爆者との集団提訴が動き出しています。
 原爆症の認定では、この間たたかわれた松谷訴訟と京都訴訟での原告勝訴のあとでも、国は国家補償の精神にもとづく認定審査のあり方を求める被爆者の声に 背を向け、「原因確率」という新たな基準を出して、「容易には認定しない」行政を続けようとしています。集団訴訟は、高齢化している被爆者の、人生の残り をかけた叫びとたたかいになろうとしています。
 「手引き」では、こうした原爆症認定に関する問題点への解説を含めて、原爆症認定申請の依頼を受けた時の医師の対応と書類を作成する時のポイントが第五 章に分かりやすく具体的に記述されています。巻末には関連資料と書類のフォーマットが収載されています。また、多くの院所で発行を求められる健康管理手当 の診断書や、各種の手当申請のための診断書を作成する上の留意点がていねいに述べられています。
 この「手引き」を読んでいると、長い年月被爆者医療にとりくんで来た全国の院所や全日本民医連の活動で培ってきた、被爆者の方がたへの心配りが息づいているように感じます。
 被爆後半世紀以上もの長い間を生き抜いてきた被爆者の方がたと、これからも歩み続けるための手引き書として、そして被爆者の方がたが人生をまっとうでき るよう支援するために、全国の院所で若い医師や職員も含めて積極的に活用されることを念願します。(注文は保健医療研究所へ)

(民医連新聞 第1299号 2003年2月1日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ