いつでも元気

2010年10月1日

ついに出た! 新制度の骨格 「廃止」とは名ばかり、「自己責任」のしくみ残す 後期高齢者医療制度

 七月二三日、後期高齢者医療制度「廃止」後の新制度案の骨子案が発表され、八月二〇日にまとめられました。厚生労働省・高齢者医 療制度改革会議が示した「中間とりまとめ」がそれです。とりまとめの「ポイント」と題した文書では、「加入する制度が年齢で変わることはなくなります」と 強調しています。
 ところが、制度「廃止」とは名ばかり。医療を権利ではなく、コストを支払うべき「サービス」とし、医療費を抑制するしくみを引き継ぐものとなっています。

財政別建て、高齢者だけの国保を新設

 中間とりまとめは、高齢者本人がサラリーマンの場合や、サラリーマンの扶養家族の場合は、被用者保険に戻す方針。それ以外の高齢者も「現役世代と同じ制度」、つまり国民健康保険(国保)へ加入。保険料の支払いも世帯ごとにまとめられ、年金天引きも強制しないといいます。
 これだけを聞けば、後期高齢者医療制度実施前に戻るように見えます。しかし「再び市町村国保が財政運営を担うことは不適当」というのが、高齢者医療制度 改革会議の立場です。小さな市町村では、国保財政が不安定になりやすいことなどがその理由。サラリーマン本人・家族以外の八割(約一二〇〇万人)の高齢者 は、現状の市町村国保とは別枠で、都道府県単位で運営する国保をつくって加入してもらうというのです。対象年齢は「少なくとも七五歳以上」とされていま す。これではまるで後期高齢者医療制度のコピー。マスコミも「高齢者の医療費が別会計という要の部分は今と変わらず、廃止よりは修正に近い」(「毎日」七 月二四日)と論評しています。
 さらに対象年齢を六五歳以上に引き下げることまで今後の検討課題に。保険料の伸びを抑制するといいながら具体策はまだなく、国保の保険料の上限額を「被 用者保険の上限額(九三万円;協会けんぽの本人負担分)も勘案しつつ、段階的に引き上げる」とまで記されています。世論の反対を受け、凍結中の七〇歳~七 四歳の医療費二割負担も一割に戻すとは明言していません。

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期高齢にも「利点あった」と政権

ええ~、そんなのアリ?
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イラスト・高村忠範

 なぜこうなるのか。民主党政権が、後期高齢者医療制度の根幹のしくみを姿・形を変えて存続させようとしているからです。中間とりまとめは後期高齢者医療 制度にも“一定の利点があった”としています。利点のひとつに「高齢者の医療費に関する負担の明確化が図られた」ことを挙げています。
 しかし「負担の明確化」は、「医療費が際限なく上がっていく痛みを、後期高齢者が自ら自分の感覚で感じ取っていただく」(〇八年一月、土佐和男・後期高齢者医療制度準備室室長補佐)ためにおこなわれたことで、利点ではなく、最大の問題点です。
 「負担の明確化」の名のもとに、かかった総医療費の一割を高齢者自身の保険料から出すしくみが導入されました。健康な人が病気の人をささえるのは当然の ことなのに、医療費がかかれば、自動的に高齢者自身の保険料にも跳ね返るこのしくみは、新制度でもそのまま存続させるといいます。「高齢者は早く死ねとい うのか」という激しい非難の的となってきたことを、利点と呼ぶのです。
 こうしたしくみを続けるといっておきながら、新制度は“年齢差別ではない”と強弁しています(八月二七日付文書「『中間とりまとめ』に対する主なご指摘と厚生労働省の立場」)。

広域連合を評価

 中間とりまとめは、後期高齢者医療制度が都道府県ごとの運営になったことも「財政運営の安定化と保険料負担の公平化が図られた」と評価しています。しか し都道府県ごとの運営にされた本当の目的は、市町村の一般会計から国保へお金を繰り入れて、保険料を引き下げるのを阻むためです。後期高齢者医療制度の創 設者も「保険者を市町村にすると、市町村は一般会計から繰り入れてしまう。従って広域連合になった」(同前、土佐氏)と語っています。
 中間とりまとめは広域連合議会についても、「県議会、市町村議会とは違って、高齢者医療に限定した詳細な審議を行うことができる」と持ち上げますが、事 実と異なります。広域連合は独自の庁舎も財政もなく職員もいないため、議会の開催回数も少なく、短時間で終わることが各地で問題となっています。
 石川県社会保障推進協議会(社保協)の寺越博之事務局長は、次のように証言します。
 「議会を毎回傍聴していますが、審議は三〇分程度です。これのどこが詳細な審議なのでしょうか。これをメリットという感覚がまったく理解できません」

全世代に“痛み”広げる 国保「広域化」もねらわれている!

国保料大幅増となる「広域化」

 問題は、高齢者だけではありません。中間とりまとめは「広域化」と称して、「現役」世代の市町村国保も都道府県ごとに統合する案を示しています。将来 は、高齢者もふくめた全年齢対象の都道府県国保をつくることを展望。高齢者の新制度と同じく、市町村の一般会計から財源を繰り入れないようにすることがね らいです。高齢者の新制度は、その足がかりに過ぎないのです。
 すでに動きは始まっています。大阪府はことし七月、国保広域化に向けた知事と市町村長の協議の場を開き、橋下徹・大阪府知事は、国保の運営を府に統一し て、市町村の一般財政からの繰り入れをやめる考えを示しました。これに対し市町村側は、「市長会定例会で確認した」(倉田薫大阪府市長会長・池田市長)と 受け入れる方向です。
 大阪府全体で見ると、一般会計から市町村国保へ繰り入れている金額は、全体で約三〇〇億円。全国では約三七〇〇億円にのぼるといいます。「この繰り入れ がなくなれば、全国的に国保料が大幅に上がるのは避けられない」と中央社保協の相野谷安孝事務局長(全日本民医連理事)は指摘します。
 広域化では、保険料などの減免制度も統一されます。「市民の運動で実現してきた各自治体ごとの減免制度も、水泡に帰す可能性がある」と相野谷さん。国保が加入者の事情に関係なく、いっそう厳しく保険料を取り立てる制度へと変えられようとしているのです。
 橋下知事は前述の協議の席上、「都道府県が保険者になる前でも、保険料の話はすすめられる」とし、早ければ年内にも府下四三市町村の保険料統一案をとりまとめる考えを示しました。

減らされ続けた国庫負担

 一般会計からの繰り入れを問題にするなら、本来は国保への国庫負担を元に戻すことが先決です。国保への国庫負担は一九八四年は四九・八%でしたが、二〇〇七年には二五・〇%にまで引き下げられています(図2)。
 中間とりまとめは、規模が大きくなれば財政基盤が安定するといいますが、札幌市、さいたま市、横浜市、京都市、大阪市、神戸市などの政令指定都市でも国保だけでは財政は赤字です。一般会計から繰り入れている現状。大規模であれば財政は安定するとは限りません。
 国保料滞納世帯が全国で四四五万四〇〇〇世帯、全体の二〇・八%(二〇〇八年六月一日現在、厚労省)にものぼっているいま、このまま広域化をすすめれば、財政の安定どころか、国保料が払えない人が増え、逆に崩壊してしまう可能性すらあるのです。

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新制度の問題点などを伝える全日本民医連のビラ
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命守る政治へ転換を

 後期高齢者医療制度の廃止を掲げた民主党は、政権についた途端、「医療保険を『一元化』したい。新制度ができるまで廃止は待ってくれ」といい続けてきました。そして現れたのは、後期高齢者医療制度の悪い部分を全世代に広げる案でした。
 後期高齢者医療制度の害悪は、すでに国保以外にも広がっています。二〇〇八年一〇月、政府管掌健康保険(中小企業向けの被用者保険)の運営が国から都道 府県に移されて「協会けんぽ」に。かかった医療費にあわせ、都道府県ごとに保険料を算定する、後期高齢者医療制度にウリ二つのしくみが導入されました。
 新制度案は、早くも年内に最終案がまとめられる予定です。全日本民医連は八月二七日、中間とりまとめの内容に抗議し、後期高齢者医療制度の一部見直しで はなく、即時廃止を求める会長声明を発表。国保の国庫負担を元に戻すこと、ひとまず元の老健制度に戻すことなどを求めて、この秋、たたかいを強める方針で す。命を守る責任を国が果たす政治へと転換させることが求められています。
文・多田重正記者

すすむ“アリバイ”づくり?

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8月7日、都内で開かれた「ご意見を聞く会」で

 7月末から中間とりまとめに対する公聴会、「ご意見を聞く会」などが各地で開催されています。しかし参加者から「国民の声を聞いたというポーズを見せるための、アリバイづくりではないか」との声も。
 8月2日に福岡で開かれた公聴会は900人の会場がいっぱいに。しかし参考人も呼ばれず、参加者が意見・質問を用紙に書いて提出し、その代表が意見を述 べるというものでした。しかも発言が採用されたのは提出した170人のうち、たった4人で、うち3人がとりまとめに賛成の立場。会場からは「公聴会になっ ていない」という抗議の声があがったといいます。

 

年金少なく、食費切りつめる高齢者

全日本民医連・高齢者総訪問行動

 全日本民医連はことし三月~六月にかけて「高齢者の受療権を守るための総訪問行動」をおこないました。六五歳以上の高齢者が主な対象です。
 全国の民医連職員二六二六人が参加し、訪問総数は二四二九軒にのぼりました。
 訪問行動からは、次のような事例が報告されています。
 ▽七七歳の一人暮らし男性。てんかん、小児まひあり。年金が少なく、食費を切りつめている。昨年は意識不明になっているところをヘルパーに発見され、救急搬送されたことが二回もあった(福井)。
 ▽国民健康保険料を滞納しており、二カ月の短期保険証が発行されていた。「通院回数を減らしたい」。ぜん息の薬も「自分で調整している」と(高知)。
 六五歳未満を訪問した、次のような報告もありました。
 ▽約一カ月の短期保険証を発行されている夫婦。夫は配管工。「このままでは生まれてくる子どもも無保険になってしまうから」と保険料の分割払いを約束して九月末までの短期保険証を取得(神奈川)。
 生活が苦しく、必要な医療を手控えていたり、高い保険料が、生活を圧迫しているようすがわかります。
 これで新制度が始まったらどうなるのか。年齢差別、痛み押しつけのしくみそのものを絶つことが必要です。

いつでも元気 2010.10 No.228

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