声明・見解

2008年11月9日

【声明2008.11.09】子どもたちの未来のために、ともに地域でがんばりましょう ―民医連小児科医からのアピール―

2008年11月9日
全日本民主医療機関連合会
小児医療委員会
委員長 鈴木 隆

はじめに
 次の世代をになう子どもたちが、目を輝かせて希望をもって育つことは、国や地域を越えて、何よりも大事なことです。私たち小児科医は、日常の仕事のなか で子どもたちに関わっていられることに責任を感じると共に誇りと喜びを持っています。
是非多くの医学生や研修医のみなさんが小児科を選び、私たちと一緒に子どもたちのための活動に加わってくれることを希望します。

1.子どもたちをとりまく社会的状況
  1996年にわが国でも「子どもの権利条約」が発効しました。しかし、その後の子どもをめぐる状況の変化は、多くの問題を生み出しています。核家族化、共 働きの増加、一人親家庭の増加など家庭環境の変化が進みました。また、生活保護世帯の増加など経済的な問題をもつ家庭も増えています。本来子どもたちがた くましく心豊かに育っていくよりどころであるはずの家庭が、生活に追われゆとりをなくしていく中で、心身症、不登校、いじめ、拒食、さらに家庭内暴力や虐 待などの問題が増えています。
  学校生活もまた子どもたちのストレスとなっている場合が少なくありません。その背景には、少人数クラスで一人ひとりの理解に応じ、教師がていねいにかかわれる保障がない、今の教育の問題があります。
  また、現代社会の問題として、発達障害の子どもたちが増加し、彼らは社会の被害者であると同時に時に加害者ともなりうるという難しさがあり、その対応も重要になっています。
  このような状況をより早く捉え、地域の社会資源を利用しながら家族とも話しあえる、身近な医療機関とかかりつけ小児科医の役割は、今まで以上に重要になっています。

2.安心して子どもを産み育てられる国に
 国の政治の基本として、何よりも、憲法にうたわれている基本的人権の尊重が大事です。子どもたちが健康に暮らし、教育を受け、成長し、何よりも一人の市 民として尊重されるという権利を持っていることを確認したいと思います。
 日本の出生率は低下し続けています。多くの若者が定職に就けない状況、また定職についても異常な長時間労働を課せられている状況は、そもそも結婚し子ど もを産み育てられる環境ではありません。まずこのような社会の異常さを改善しなくてはなりません。
 そして、子育てを支えるには、安心して地域でお産が出来る施設の確保が必要です。そして、保育園などの子育て支援施設に、費用の心配をしなくても預けら れる仕組みの充実も求められます。医療費については義務教育終了まで無条件に窓口負担なしの無料とし、子どもがいる世帯には保護者に全額自己負担を強いる 国保の資格証明書を絶対に発行させてはなりません。
 治療だけでなく、予防健診活動にも力を入れなければなりません。特に予防接種は国際的な水準に早急に整備することが求められます。

3.地域の小児科を守るために
  安心してその地域で暮らし子育てを続けるには、身近な病院に小児科があることは大事なことです。中小病院の小児科は、乳幼児にかかわる感染症はじめ急性疾 患の多くを受け入れています。その地域に何が必要か考え、開業医と連携して病院としての役割を果たし、病院内外で協力しあって夜間の小児救急医療に参加す るなど、地域で求められる医療を担い頑張ってきました。また小児科があることで家族ぐるみの健康管理が可能となり、病院全体の医療の質を高めることができ ます。このように中小病院の小児科は地域の宝物であり、あらゆる努力を払って存続させなければなりません。
 厚労省の進める小児医療の集約化・重点化は、地域の中小病院の医師を地域小児科センター病院に集めることをめざしており、実行されればたくさんの地域で 入院できる小児科がなくなり、住民は大変な不便を強いられることになります。私たちは地域の開業医、パート勤務なら可能な女性医師、病院の救急医療チーム など幅広い医師たちにも協力してもらい、病院小児科医の負担を軽減しながら、今ある病院小児勤務医数を維持して、さらに全体として小児科医を増やすことが 基本的な方向だと考えています。
 今日本の病院は、小児科に限らず大変苦しい状況に陥っています。これは日本全体で医師が足りないこと、国として医療に十分なお金をつぎ込んでこなかった ことが原因だと考えています。小児科のみでなく医師数を大幅に増やし、社会保障費を大きく増やしていくことが決定的に重要なことです。そのための財源は、 公共事業や米軍への思いやり予算を含む軍事費などを見直せば、容易に見いだせます。
 これらの大きな目標を掲げながら、地域の医療機関、行政関係者、住民と協力して、小児救急医療、入院医療を維持するために工夫と努力を続けたいと思いま す。また現在でも病院内の多くの他科の医師が理解し協力してくれていますが、今後もともに協力してもらい地域の子どもに対する医療が続けられることを願っ ています。

4.地域の子どもたちに必要とされる小児科医の養成と臨床研修の充実
 民医連の小児科医は第一線の病院の医療を支え、また診療所でもそれぞれの地域でかけがえのない役割を果たしています。これらの病院の小児科を維持し、さ らに小児医療全体を広げていくために私たちはたくさんの医師を小児科に迎え育てていきたいと望んでいます。
 私たちの病院は、大病院と同様に感染症をはじめとする急性疾患の治療や、計画的な治療を必要とする慢性疾患の管理を行っていますが、疾患を診るだけでな く、地域の状況や生活背景に目を向けることをいつもめざし実践しています。また学校や保育園、行政や共同組織などとの地域連携を実感する機会も多く、「地 域の小児科医」として必要なたくさんの経験をつむことができます。一方小児科医として成長するには重症疾患や新生児医療を学ぶ必要もあり、そのためには一 定期間、専門性の高い病院で研修することも必要です。民医連の全国ネットでの研修や地域の民医連外の病院と協力した研修をめざし、また実践も積み上げてき ています。民医連の研修は、研修医自身が積極的に研修の目標をもち、一人ひとりの希望にあった研修計画を一緒に作ることが特徴です。また、その中で学会専 門医を取得することも目標としています。
 小児科を目指さない研修医の小児科研修についても、私たちは積極的に取り組み実績をあげています。殆どが中小病院である民医連の小児科は、初期研修で小 児科のプライマリーケアを学ぶには大変適した所であり、医師として身につけるべき基本姿勢や地域で求められる小児科の初期対応が獲得できます。

5.小児科の全国的な連帯と。各病院・県連での他科との協力、他職種の協力
 民医連小児科に共通する問題を扱うため、全日本民医連は2006年に小児医療委員会を作りました。この2年間では小児医療の集約化問題について声明を発 表し、小児科学会でも代議員のメンバーを中心に発言してきました。BCGやMRワクチンの制度の充実をめざして声明を出し、また国会議員との共同も行いま した。Hibワクチンの定期接種をめざす運動では市民団体と協力し大きな役割を果たしています。国保滞納世帯の問題でも世論づくりに努力してきました。
 他の職種も参加して互いの医療実践を交流して学びあう場として小児医療研究会があり、全国で集まるものと東西で分かれての開催を交代で行い定例化してい ます。また関東や近畿など地域単位で定期的に代表者の集まりを持っているところもあります。私たち民医連の小児科は時々の課題、個人の問題・全体の問題に 対して協力しあってみんなで進んでいこうという集団です。
 民医連の医師たちは、病院の医局員どうし科を越えて協力して地域医療を進めています。また都道府県毎に研修のことや医療の課題を一緒に話し合っていま す。看護師をはじめ一緒に医療を行う他の職員とも協力しあい、互いに学び合いながら日々の仕事をしています。このような視野にたって協力しあう集団だから こそ、医療崩壊といわれる状況のなかでも踏みとどまり、地域医療を守る役割を果たしていけるのです。

6.地域の連携を進めながら
 当然ですが、私たちの力だけでは地域の子どもたちを支えることはできません。そのため子育てを応援する様々なつながりを大事にしていきます。地域の保育 園や教育関係者、行政の子育て支援窓口や子ども家庭センター、そして病院を支える地域の人たちとの連携・協力も民医連としてたくさんの経験があり、またそ の条件があるところです。一層積極的に進めたいと思います。
 地域医療のレベルアップのため、近隣の開業医や病院小児科と日常的に交流し、お互いの顔が見える連携を進める努力が必要です。また、稀な疾患や重症の疾 患の相談や転院では大学や小児医療センターなどの専門病院との連携が適切に行われる必要があります。

7.医療・福祉制度の改善のために
 目の前の患者一人ひとりへの治療は大事ですが、それだけでは解決できないこともたくさんあり、良い医療をしようと思えば社会的な問題にまで関わることは 避けられません。また、自分たちの患者だけでなく日本中の子どもが健やかに育っていけることを、私たちは願っています。日本の医療・福祉制度は国民から見 て不充分なところがたくさんあります。税金の使い方やワクチンの普及などを見ると、先進国として当たり前のことがされていないという残念な現実がありま す。私たちは医療の専門家として知識を提供しながら、多くの国民や団体と協力してより良い制度の実現をめざして運動し、国民皆保険などの日本のすぐれた制 度が本来の機能を果たせるよう守り発展させ、不充分なところはより良いものに変えていきたいと考えています。

終わりに
 以上、日本の医療・福祉、とりわけ小児科を巡る問題について、民医連の小児科の特徴と私たちが目指すものをまとめてみました。多くの若い医師、医学生の みなさん、私たち小児科医の仲間に入ってください。そして、子どもたちによりよい未来を残せるよう、ともに頑張りましょう。

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