いつでも元気

2011年1月1日

地域とすすめる「住まいづくり」 “人権”として の住居、まちづくりの拠点に 北海道勤労者在宅医療福祉協会 高齢者専用賃貸住宅「水芭蕉」

 高齢になれば、心配なことは山ほど出てきます。病気のこと、介護のこと、そして住まい。北海道勤労者在宅医療福祉協会(以下、勤 医協在宅)は、高齢者住宅づくりに力を入れています。これも「安心して住みつづけられる地域・まちづくり」の一端を担う、民医連らしいとりくみです。その うちの一つ、札幌市清田区の高齢者専用賃貸住宅(高専賃)「水芭蕉」(40室・定員42人)を訪ねました。

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「モーニングコーヒーの会」のみなさん。朝のひととき、話に花が咲きます…

 玄関を入ると二階のロビーから賑やかな笑い声が聞こえてきました。入居者たちが自主的にはじめた「モーニングコーヒーの会」です。毎週日曜に開いていたものが、最近ではほぼ毎朝。常時一〇人ほどが参加します。
 「気軽に各々が自由に話せる場です。話し相手にもなってもらえるし、お互いを知りあえる。仲間で励ましあえるいい機会です」と内村健八郎さん(80)。
 お茶菓子をみんなで持ち寄り、日々の情報交換はもちろん、介護保険の学習もしているようです。コーヒーのいい香りが漂い、いつまでも笑い声が絶えないあたたかい空間。会話が弾みます。

 

生活保護基準の家賃設定で

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菅さん

 「水芭蕉」が誕生したのは二〇〇九年一〇月。民医連の事業所がなかった清田区に、居宅介護支援事業所とデイサービス併設で開設されました。

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「水芭蕉」とデイサービス「さんぽみち」

 「水芭蕉」の居室の広さは一八平方メートル。トイレ、ミニキッチンがついています。入居金はなく、月額利用料は一〇万円。家賃、水道光熱費、食費などを含んでおり、生活保護基準を基本としています。
 調理施設も併設。管理栄養士がバランスのとれた食事を三食提供しています。

 

精神的な安心感が得られた

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販売員が部屋まで届けてくれます
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吉岡さん

 住み心地はどうでしょう。入居者の菅ツタさん(82)は、夫を亡くしてから二〇年間、一人暮らしでした。
 「孤独でしたね。食事をつくるのも億劫で、カップラーメンで済ませることも多かった。これではダメになると思いはじめた頃、勤医協の友の会報に、偶然『水芭蕉』のことが載っていて…」と菅さん。迷わず申し込んだといいます。
 入居して一年が経ちますが、最近は生活にリズムができ、ハリが出てきたようです。久しぶりに会った親友に「若くなったわね、活き活きしている」といわれることが多くなったと、嬉しそう。
 「住まいは生活の基本。精神的な安心感が得られたのが大きい」と菅さん。「私はまだ動けますが、不自由になった体で、まわりのことをすべて一人でやらなければならない高齢者の一人暮らしは本当に大変なんです」
 大好きな川柳を詠んだり、ペン習字などの趣味にも、のびのび打ち込めるようになりました。

まちづくりの拠点に

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湊さん

 「完成を心待ちにしていました。身近な地域に高齢者住宅ができ、安心できる介護だけではなく、まちづくりの拠点にもなる」と、豊平・清田健康友の会副会長の吉岡ひろ子さんも笑顔を見せます。
 建設準備段階から友の会も話し合いに加わり、開設前には区民センターで「介護問題を考える会」を開催。「水芭蕉」の紹介も兼ねておこなわれた企画には、近隣住民も参加しました。
 「水芭蕉のような住宅をもっとつくってほしいという声をよく聞きます。地域との結びつきを強めたい」と吉岡さん。

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 土地と建物を提供してくれた大家さんは、地元建設会社社長の湊忠義さんです。
 「ここは、もともと会社の資材置き場だった」と湊さん。公園に隣接し、目の前に川が流れ、遊歩道もある自然豊かな環境。近くに区役所、学校、スーパーもある便利な立地のため、以前にも複数のマンション業者から誘いがありました。
 しかし、なかなか踏み切ろうという気持ちになれなかったという湊さん。「医療・介護が一体となった事業展開、高齢者に真摯に向き合う勤医協さんだったら安心、間違いない」。これが「水芭蕉」の建設に動く、決め手でした。

スタッフも連携しやすい

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絵手紙を楽しむ入居者たち

 「住まいとサービスが一体となった理想のかたちです。私たちにとっても働きやすい職場」と胸をはるのは介護福祉士の高橋文恵さん。
 「疎遠になっている高齢者住宅が多いなか、入居者のつながりを大切にしています。入居者同士の顔がみえるのは、ここの良さですね。私も働いていて、入居者と一緒にいられる時間が楽しい」
 コーヒーの会以外にも、入居者同士で編み物、絵手紙などの自主的な集まりをいくつもつくっています。また、デイサービス利用の入居者だけでなく、入居し ている皆が元気になれるようにと、全職員参加でさまざまな企画を開催。クリスマス会、ひな祭り、平岡梅林への花見、秋には畑でとれた野菜を使ったバーベ キューを駐車場で、入居者家族も招いておこないました。開設一周年はおでんパーティーで祝い、一年間録りためたビデオも上映。ともに喜び、交流を深めまし た。

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高橋さん

 「連携のとりやすさ」も利点です。「水芭蕉」併設のデイサービススタッフからも、利用している入居者の介護サービス、健康状態、病状が逐次報告されます。
 「入居者が安心して暮らし続けられるように、健康・介護・生活相談を受け、必要な支援へとつなげています。日々の生活で健康状態を把握しやすいため、往 診医師への連絡で、早期発見・早期治療につなげています。乳がんも二人見つかり、手術も無事に終わっています」と、居宅介護支援事業所の栄坂美子管理者。

 

住まいも大事な「人権」

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「明るくて、快適です」と部屋を案内してくれた杉山あささん

 「水芭蕉」では、本人の希望があれば看取りもおこなっています。「いまは自立している入居者が多いのですが、今後は、医療が必要になったり、介護度が高くなって寝たきりや認知症が進む人も増えるでしょう」と住居管理者の鹿野憲さん。
 入居受付後、数日で申し込みは定員に達し、現在も予約待ちが出ているほどです。しかし、経営は容易ではありません。
 「住居系サービス単独では『赤字』です。入居者の介護保険サービスの活用で、なんとか経営を維持している」と勤医協在宅社長の小内浩さん。それでも「私 たちは住宅を生活の基礎として位置づけています。仮に、入居者一人一万円ずつ家賃をあげれば全体として黒字になるかもしれない。しかし、それでは経済的に 困難な人は住めない。住まいも大事な『人権』なんです」といいます。
 菅さんも「私は運良く入れたが、年金も少ない中で、経済的な理由で入居できない人も多い。誰もが安心して住める住宅をもっとつくってほしい」と。
 勤医協在宅では中学校区二~三か所に一つの高齢者住宅建設をめざしています。
 小内さんは「誰でも安心して住める住居が提供できるように、介護保険制度の充実とあわせ、建築補助や家賃補助、住宅手当などの実現をめざして、国や自治体とも交渉し続けたい」と話してくれました。
文・井ノ口創記者/写真・酒井猛

高齢者専用賃貸住宅(高専賃)とは?

 介護保険制度がはじまり、高齢者の増加とともに介護付き老人ホームが急増。介護保険財政を抑制しようとした政府が、特養などの介護付き老人ホームの新規 開設に規制をかけたのです。そして、その受け皿となったのが「高専賃」。新設を許可するかわりに、国や自治体の財政援助もありません。現在、全国に約 1600施設。総戸数は4万戸を超え、急増しています。
 厚労省が管轄する特養などとは違い、「高専賃」の所管は国交省。「設置運営指導指針」も緩やかなため、物件の規模や質などはさまざまです。また、介護 サービスは義務づけられていないため、基本的に個々の入居者が外部の居宅サービス事業者と個別に契約しなければなりません。

札幌市高齢者向け優良賃貸住宅 「勤医協かしわの杜」

genki231_03_11 勤医協在宅は2010年12月、札幌市白石区に新たな高齢者住宅として、札幌市高齢者向け優良賃貸住宅「勤医協かしわの杜」を開設しました。
 高齢者優良賃貸住宅(高優賃)は、自治体の認定を受けた公的な賃貸住宅。バリアフリー構造、1戸あたりの居室面積が25平方メートル以上、台所・便所・浴室の設置などの要件を満たしているのが特徴です。
 また、認定を受けた事業者は、建設費の一部補助、税制上の優遇措置等が受けられ、入居者には国と市から家賃減額補助があります。しかし自治体としても財政負担があるため全国的にはまだ少ないのが実情です。
 「建設費の3分の1(約1億4000万円)を補填してもらいました。また入居者の所得月額に応じ、最大で家賃(5万8000円)の半額まで補助があるのは、大きい」とかしわの杜管理者の藤誠さん。
 「かしわの杜」は、※「小規模多機能型居宅介護事業所」をはじめ、居宅介護支援事業所や訪問介護事業所も併設し、24時間365日のサポートをしていま す。勤医協の老人保健施設やクリニックも隣接しており、医療と福祉の連携も。
 「今回は自治体ととりくんだ初めてのケースです。今後も地域に密着したかたちで高齢者の住まいを確保していきたい」と藤さん。

※「小規模多機能型居宅介護事業所」…2006年に創設された地域密着型の介護事業所。介護が必要になった高齢者がいままでの人間関係や生活環境をできるだけ維持できる「通い」を中心に、「訪問」「泊まり」の3つのサービスを一体のものとして、24時間切れ目なく提供できるのが特徴。

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いつでも元気 2011.1 No.231

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