いつでも元気

2011年1月1日

民医連綱領 実践のゲンバを行く!!(6) カンファで情報共有 “アンテナ”を敏感に患者に寄り添う 奈良・ならやま診療所

 いのちと健康、人権を守ろうと民医連ががんばるおおもとには、綱領に掲げられた理念があります。綱領の実践を紹介する連載。六回目は、気になる患者さんに寄り添おうと、事例検討(カンファレンス)をはじめた診療所の話。

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田中明美所長。四人の子のお母さん

 ならやま診療所(奈良市)では、月一回のカンファレンスをおこなっています。職員が少しでも “気になる”と感じた患者さんの事例を持ち寄る場です。患者さんが困っていることは何か、情報を職員同士で共有し、手助けすることが目的。「もっとも困難 な人に寄り添う」という理念を持つ、民医連ならではの実践につなげようと、とりくんでいます。
 カンファレンスをはじめたきっかけは、二〇〇九年末、田中明美所長のもとにかかってきた一本の電話でした。

一本の電話をきっかけに

 電話は田中所長の母が住む広島の病院からでした。「お母さんが転んで足にけがをした。ひとりで 自宅に帰ることができないので、迎えに来てほしい」。その病院は、母の自宅の目の前。「家はすぐ近くです。職員の方が連れて帰ってもらえないでしょう か?」とお願いしても、病院職員は「無理」というばかり。「奈良から、すぐに迎えに行けるはずがない。何で、そんなこともしてくれへんの?」と思ったとい う田中さん。幸い、近所の方に迎えに行ってもらい、事なきを得ました。

 

「私はどうやろう?」と振り返り

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民医連綱領は目に付くところに掲示

 この出来事が、診療所の医療活動を見直すきっかけになりました。
 「母は母で、地域で支えてもらわなあかん。けど、私はどうやろう。患者さんの生活背景まで診れてるやろうか? 地域に根ざした診療ができてるやろか?」
 そんな時に出会ったのが一冊の本。昨年(二〇一〇年)、京都府知事選に立候補した門祐輔医師編『田中飛鳥井町 いのちのカルテ』でした。気になる患者さ んがいたら、職員同士で何でも出し合い、話し合う、参加も自由というカンファレンスのとりくみが紹介されていました。
 「これや。職員が集まって患者さんのことを気軽に話せる場所をつくろう」
 ならやま診療所の診療圏は、三五年以上前に開発された住宅地。経済的に余裕のある若いファミリー世帯が中心の地域でしたが、ここ一〇年ほどで高齢者世帯やひとりぐらしの患者さんが増えたと感じていました。
 夫(おかたに病院・田中茂樹医師)と共働きで、上は一七歳、下は五歳の四人の子育てをしながら三代目の所長になって一五年。患者さんの生活背景はどうだ ろうか? という問題意識を持ちながらも忙しさに流されていたことに気づき、カンファレンスの開催を亀本和也事務長に提案します。折しも、事務長を中心 に、全日本民医連第三九回総会決定の学習にとりくんでいた頃でした。
 「患者さんの小さなシグナルを見落とさないように、職員は人権のアンテナを敏感にすることが大切」と考えていた亀本事務長。カンファレンスを五月から実 施し、七月からは隣接する在宅介護支援センターのソーシャルワーカー・栄美夕紀さんも参加。「気になる患者さんがいたら、みんなで情報を共有し、患者さん の力になろう」という気風が生まれます。

所持金三〇〇〇円に驚き

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診療所2階の共有スペースでカンファレンス

 七回目のカンファレンスを開いた一一月二日。栄さんは、ある女性のことを報告しました。以前は 正規の国民健康保険証で受診し、窓口負担もきちんと払っていた患者さんです。ところが、職員が電話で健診のお知らせをしようとカルテをみると、一年近く受 診を中断していることがわかりました。診察に来てもらった一〇月、女性の所持金は三〇〇〇円しかなく、栄さんは驚きました。
 さっそく亀本事務長と栄さんが面談して事情をうかがいました。女性が自分ひとりで市役所と交渉し、毎月五〇〇〇円を分納すると約束して保険証を何とか発 行してもらっていたとのこと。栄さんは女性に付き添って市役所へ。地元市議の力もかりて、分納する額をひとまず月一〇〇〇円に引き下げてもらいました。
 その帰り道、「診療所に声をかけてもらって良かった」と女性に感謝されたという栄さん。「私たちは“何とかしてあげたい”という思いで、根掘り葉掘りと ご家庭の事情を教えてもらうでしょ。そんなにこまかく聞いても、結局何もできへんかったら申し訳ないと思っていた。ありがとうといってもらえて、よかっ た」栄さんの話に他の職員も聞き入ります。
 亀本事務長は「こうやればすべて解決するというウルトラCなんてない。でも気になることを発見したら、そこから関わっていこう。ひとつひとつのケースを、みんなで共有していこう」と話しました。

気になる患者さん訪問を開始

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新興住宅地に建つならやま診療所

 診療所では「少しでも気になることがあったら気軽に訪ねよう」と患者さん宅への訪問もはじめました。
 「診療現場では見えなかった患者さんの暮らしぶりを知ることで、患者さんの生活に寄り添う視点を職員一人ひとりが学んで実感する機会になっている」と田 中所長。亀本事務長も「“あそこに行けば、なんとかしてくれる”――そう言われる診療所になりたい」と語ります。
 困難を抱える患者さんに気づき、情報を共有して手をさしのべる経験が、診療所の成長につながる。それこそが「地域に根ざす」という綱領の実践なのだと感じました。
文・宮武真希記者/写真・豆塚猛

 

いつでも元気 2011.1 No.231

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