いつでも元気

2011年3月1日

元気スペシャル 友の会とともに歩む医師研修 地域で「医療懇談会」を開催して 北海道・道東勤労者医療協会

 道東・釧路の研修医が元気です。北海道・道東勤労者医療協会(道東勤医協)では、医師研修に「医療懇談会」を位置づけ、友の会とともに医師を育てる試みがはじまっています。

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グループに分かれて意見交換する参加者たち。中央(黒い服)が石川医師

 市営住宅の一角にある小さな集会所に、ぞくぞくと集まった参加者たち。うかがったのは、道東勤医協友の会・美原支部主催の「医療懇談会」です。
 机の上に並べられたさまざまな食事の写真。それぞれを見比べ「一番理想でない」朝昼晩三食を選んで着席しました。
 三つのグループに分かれた参加者は、普段の自分の食生活をふりかえりながら、目の前の食事の「改善点」などを自由に意見交換。「野菜や乳製品が足りな い」「脂肪分が多すぎる」「食事の量を半分にしたらどうか」など、思い思いに語る参加者たち。和気あいあいと会話は弾み、尽きることがありません。
 講師をつとめたのは、道東勤医協・釧路協立病院の石川晶医師です。
 協立病院は昨年春から、医師の後期研修(医師三年目以降)で「家庭医養成プログラム」を開始。このプログラムの一期生にあたる石川医師は、協立病院で担 当している一二の友の会支部で医療懇談会をおこなう目標をたて、この日最終回をむかえました。

「参加型」の医療懇談会を追求

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献立の特徴や改善点を発表友の会

 石川医師は、医療懇談会にありがちな「一方通行の講義形式」をやめ、参加型を意識。参加者を飽きさせない、みんなで楽しめる工夫を追求しています。
 この日も参加者は「食事バランスガイド」(厚労省と農水省が共同作成)のシート上に、それぞれの食材や食品を並べて意見交換。「どの点を改善すれば、健 康で充実した食事になるか」「具体的に献立をどう変えたらいいのか」、頭を捻りながら知恵を出しあう表情は、真剣そのものです。
 「いろんな人と楽しみながらやりたいという思いが強く、『医者が教えてあげる』という感じは嫌だったんです。友の会や地域住民の方がたとは『対等の関係』でありたいし、自分も一緒に輪に入って考える。そんな懇談会がやりたかった」と石川医師。
 美原支部の事務局長・石山勲さんも「楽しくわかりやすい企画でした。こんなに大勢集まって大成功ですね」と笑みがこぼれます。「今後も新たなつながりを増やして、健康づくりの輪をもっと広げたい」と、うれしそうに語りました。

友の会は“大きな財産”

 なぜ、医師研修に医療懇談会を位置づけることになったのでしょうか?
 もともと家庭医養成プログラムをつくろうと決めたのは、地域住民が求める医療を幅広くおこなう力を身につけるためでした。そのために友の会の協力を得ることは自然な流れでした。
 石川医師の先輩で同プログラムの指導にあたる佐藤健太医師も「ここ道東には健康づくりを自らすすめ、医師を育てたいと地域で待ちかまえている友の会や住 民の存在がある。私たちがめざす医師研修の上でも、この四万二〇〇〇人の友の会員は“大きな財産”です」と語ります。
 研修がはじまって間もない五月頃、石川医師は「友の会と一緒に何ができるか考えたい」と相談。各地区の友の会支部長にも集まってもらい、意見交換を経てはじまったのが医療懇談会でした。
 懇談会のテーマもひと工夫しました。「友の会活動が活発で、健康づくりのとりくみとして運動が盛んな道東地域で病気の話をしてもしかたない。食事は誰も が関わること。運動と食事の両立ができてこそ治療効果が生まれるし、健康維持のためにも日常的に食事を意識してもらえるようにしたかった」と石川医師。こ れが「食」のテーマに込めた思いでした。

他職種と協力した運営で

 にぎやかで活気のある医療懇談会。成功の裏には、準備段階から関わるスタッフの協力も。テーマを考えた石川医師は、まず協立病院の食養科スタッフに協力を依頼。献立の立案や食事のパネル作成に加わってもらいました。
 企画段階から関わった管理栄養士の北澤希依さんは「教材づくりを一緒に考えていきましたが、回を重ねる度に良いものになってきた」と胸をはります。
 「どう伝えるか」にこだわり、説明のスライドや資料の改良も重ねたといいます。「試行錯誤で苦労はありましたが、参加者に興味をもってもらえてよかっ た。この教材は今後も院内の栄養教育などに利用していきたい」と北澤さん。全一二回を終えて、ホッとした表情です。
 看護師、事務、介護士やリハビリスタッフなど、懇談会の運営に携わる職員が毎回入れ替わって支えたことも、石川医師の刺激に。「誰でも運営に参加できるように」と、共通の「マニュアル」も準備されていました。
 「私には、いろんな職種に関わってもらいながら『チーム医療』をしたいという目標があります。この懇談会でも、参加者が楽しくワイワイと交流することは もちろん、地域に出ていくことを含めて、職員もみんなが何らかの形で関わる。医療懇談会でめざしてきたのは、二重の意味での参加型なんです」と石川医師。
 いままで関わる機会がなかった職員とも、この懇談会を通じてつながり、日常的に協力しあえる関係を築くという狙いもあったようです。

必要なのは“発想の転換”

まちづくりの提案ができる医師に

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目標の12支部を達成! 各支部から贈られたスタンプや写真がズラリ

  「ここ釧路は、日本の中でも慢性的な医師不足に悩まされている地域で、医療に対する要求は高いし、症例は多様。高齢者や貧困などの社会的問題を抱えた患者 も多い。石川先生がめざすような家庭医を育てる最高の条件がある。まだ手探りですが、病院内での連携も広がりつつあり、研修内容は着実によくなってきてい る」と、研修プログラム責任者の山崎雅勇医師は手応えを感じています。
 医師不足が叫ばれている今日。いま必要なのは“発想の転換”だという石川医師。友の会を「医者を育ててくれる存在」と表現します。
 「こうやってみたいと思って提案したことを、この地域や協立病院ではすぐ実践にうつせる。小さなきっかけが“大きな広がり”になり、自分の成長にもつながる。職員も、地域や友の会も、みんな元気になれる」
 「住民と同じ目線で寄り添う医師」が目標という石川医師。
 「できる限り外に出ていき、その地域を知り、医師の立場からまちづくりの提案ができるような力も身につけたい。友の会のみなさんとともに成長していきたいですね」と抱負を語ってくれました。
文・井ノ口創記者/写真・酒井猛

研修医の「地域に出る」姿勢が好評

友の会に新たな活気

道東勤医協・桜ヶ岡医院

 桜ヶ岡医院の西岡利泰院長(5年目研修医)も、診療所が受け持つ5つの友の会支部で「医療懇談会」を実施しています。

 “いつも元気でいるために”をスローガンに、今年度は、(1)もの忘れと認知症、(2)うつ病の正しい理解と治療、(3)尿もれと転倒予防・骨粗鬆症をテーマに、各支部3回、計15回の「医療懇談会」を開催。のべ346人が参加しました。
 桜ヶ岡医院の周辺地域は釧路市内でも高齢化が深刻で、市内の地区別高齢化率「上位5つ」がすべて診療所の診療圏内に入っているといいます。
 医療懇談会をおこなう際、「この地域の実情を認識したうえで、診療所が果たす役割を考えた」と西岡医師。とくに「認知症」のテーマは、かつて西岡医師が 認知症の患者さんを診察した際、家族や近隣住民の誰もが認知症という認識がなく、大あわてになったという自身の体験から提案されたものです。
 このテーマ設定が、友の会の思いにもぴったり。興津支部の高橋滋さんは「初めて地域の町内会館を借りてやろうとはりきった。近所に案内のチラシを配り、 初回は32人が参加してくれたんです。新たに5人が友の会に入ってくれた」と振り返ります。
 医療懇談会がきっかけで、新たな活気が生まれた支部も。武佐支部の大友勝紘さんは「3回シリーズがよかった。とくに『認知症』のテーマが人気で、のべ 60人以上が参加。これまで役員会も開けなかったが、懇談会をきっかけにまた集まることができた」と。また「6年ぶりに支部総会を開き、活動を再開でき た」と、白樺支部の上原八重子さんも笑顔です。
 「医療懇談会の進め方もよかった。疑問が浮かんだら、その都度質問ができる。おかげで終わる時間が延びたけどね」と、道東勤医協友の会連合会の亀井武会長は苦笑い。
 地域の中で「勤医協」の名前が浸透するきっかけにもなりました。診療所では日常的に「お困りの方は何でもご相談ください」というチラシを配りながら「地 域訪問」をおこなっています。「この間の医療懇談会との『相乗効果』もうまれ、相談の問い合わせも増えてきている」と田中博修事務長はいいます。
 「つながりをつくりたかったんです。友の会にとどまらず、地域みんなで健康について考え、情報を共有し、支えあえるような『広がり』を期待しています」 と、西岡医師は医療懇談会のねらいを語ります。「困ったときに、診療所や友の会なら何でも相談できるという安心感をもってもらえる、そのきっかけになった ら」と。
 「患者さんやご家族が来るのを待つのではなく、『地域に出ていこう』という西岡先生の姿勢が、地域のなかでも好評です。若くてフットワークがいい研修医、とても頼もしい」と安藤佐具看護師長。
 将来は産婦人科医を目指し、地域では校医もつとめてみたいという西岡医師。「診療所での経験が自分の将来に必ず生きると思っている」といいます。
 「誰もが健康で、安心して住みつづけられるまちにするためにはどうすれば良いか。診察室の中でできることは限られている。大勢の人と話ができるし、健康 な方にも聞いてもらえる『医療懇談会』の役割の大きさを感じています」と力を込めました。

いつでも元気 2011.3 No.233

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