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2011年4月1日

特集1 “国民皆保険”の時代になぜ 経済的困難で71人死亡 全日本民医連「2010年国保など死亡事例調査」

 全日本民医連は三月二日、都内で記者会見。「二〇一〇年国民健康保険など死亡事例調査」の結果を発表。経済的理由で医療を受けられずに亡くなった人が、わかっただけで七一人にのぼりました。同様の調査は、今回で四年目です。
 事例は民医連加盟事業所を通じて寄せられたもの。二〇〇九年調査の四七人を超え、過去最多となりました

病気が原因で保険証持てず

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「一度も保険に入ったことがないと思われる人もいた」と全日本民医連の長瀬文雄事務局長(中央=記者会見で)

 最年少は東京都の三二歳男性。〇九年一月、糖尿病の合併症で喉のどのかわき、吐き気などを訴え て緊急入院。重症のぜんそくのために高校を中退し、定職につけず、無保険になっていました。病気が原因で、治療に必要な健康保険証を手にできなかったので す。その後、アルバイト・日雇い労働を転々とし、〇九年一二月までネットカフェ生活。蓄えがつき、生活保護を受けている父親のもとへ転がり込んでいまし た。入院後一〇日で亡くなりました。
 神奈川県の五六歳男性は自営業。仕事がないため国保料を滞納し、その結果、医療費を医療機関の窓口でいったん一〇割払わなければならない資格証明書を発 行されていました。腹部に違和感を感じながらも我慢しつづけ、昨年三月、腹痛に耐えられなくなって受診したときには膵臓がんが進行。市役所に国保証発行を 求めても「九〇〇〇円払わないと保険証は出さない」の一点張り。娘が五〇〇〇円払って、ようやく五月末までの短期保険証を受けとることができました。三カ 月後の六月に息を引き取りました。

正規保険証あっても22人死亡

 驚くべきことにこの調査では、正規の国保証を持っているにもかかわらず亡くなった人が二二人もいました(表2)。群馬の五八歳男性はその一人です。C型肝炎ウイルスによる肝硬変で亡くなりました。昨年二月より受診を中断。職員が電話をかけ、受診をすすめていましたが、断っていました。
 昨年一一月に吐血し、救急搬送されたその日のうちに永眠。入院時も妻は支払いを心配し「家賃の支払いがたいへんだから、食事は出してほしくない」と訴え ました。男性は非正規雇用で生活が困窮。九月にも吐血していましたが、受診していなかったといいます。調査結果は、高い保険料や窓口負担などが原因とな り、いのちを守るはずの国保が十分機能していないことを如実に示しています。

表1 国保短期証、資格証明書、無保険などの死亡42人 表2 正規の保険証で亡くなった29人
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最年少は32歳、事例数過去最多に

保険料アップを指導する国

genki234_03_04 国保料は上がり続けています。一人あたり平均三万九〇二〇円(八四年)だった国保料は九万六二五円(〇八年)へと二倍以上に。国が国庫負担を減らしたことが大きな原因。国は、国保財政に対する補助率を四九・八%(八四年)から二四・一%(〇八年)へと半減させました。
 さらに一月、政府は保険料算定方式を「旧但し書き方式」に一本化する方針を決め、国保料アップに拍車をかけています。
 「旧但し書き方式」とは収入から基礎控除(三三万円)だけを差し引いて所得とみなし、国保料を算定するもの。収入から基礎控除、扶養控除、障害者控除な どを差し引いて所得とし、国保料を計算する「住民税方式」に比べ、扶養家族や障害者などを抱えている世帯ほど保険料が上がりやすい特徴があります。現在、 住民税方式は三七自治体と少数ですが、大都市に集中しており(表3)、影響は小さくありません。
 東京二三区はことし四月、住民税方式からの変更を予定。豊島区では年収二五〇万円・四人家族の場合、一二万七六八〇円から二二万七九九六円になると試算されています(二〇一一年度は経過措置で一五万二七五九円)。

滞納者の財産差し押さえ拡大

表4 急増する市町村による差し押さえ
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(厚生労働省保険局国民健康保険課調べ)

 さらに国保料滞納分にあてるため、加入者の財産を差し押さえたり、差し押さえ物件をインターネットで公売するなどの手法をとる自治体が広がっています(表4)。
 本来、給与や年金などの生計費は、法律で差し押さえが禁止されています。しかし銀行に振り込まれた途端に「資産」などとみなして、差し押さえる動きが横行しています。
 まるでサラ金のような差し押さえの裏には、国の政策が。厚生労働省の国保課長補佐が〇八年一二月、鹿児島県内で講演。国保滞納者の車に「タイヤロック」 をかける手法を賞賛しました。「滞納分を払わなければ、タイヤロックを解除しない。必需品なので慌ててお金を払いに来る人が多くなると思う。タイヤロック は簡単にできる。特に地方における大きな収納ツールになっていくだろう」とまで述べています。
 そして国保料の収納率が九〇%を切ると国保への国の補助金を減らすしくみまで。こうして自治体を財産差し押さえにかりたてています。しかしその結果どう なったか。国保課長の言葉とは裏腹に、国保料の収納率は〇八年度、額で初めて九〇%を下回りその後も八八・〇一%と低下(〇九年度)。厳しく取り立てた り、保険証を取り上げても収納率は改善しません。高すぎる国保料こそ問題にし、国の責任で引き下げるべきです。

運動の力で国保改善を

 国保料アップや、保険料滞納による国保証の取り上げ、財産差し押さえなどが広がるなか、逆に運動の力で自治体を動かし、制度改善へつながった自治体も生まれています。
 広島市では、「国保をよくする会」などが資格証明書を発行しないよう要請し続け、〇八年、資格証明書の発行がゼロに。福岡市でも「国保をよくする会」の 運動などで、今年、一人あたり平均二〇〇〇円の保険料引き下げを実現しました。東京都清瀬市では市社会保障推進協議会などの要請を受け、資格証明書に「病 気や負傷などの場合は保険証を交付する」と明記するなどの変化も。
 前述の民医連調査では、食欲不振で顔色も悪く、身体がやせていっても受診を拒否し、その後胃がんでなくなった八四歳の男性の例も報告されました。この男 性は保険料を滞納しておらず、正規の後期高齢者医療制度保険証を持っていましたが「医療費が払えない」と受診を拒んでいた例でした。
 この四月、全国の多くの自治体で、地方議員や自治体首長を選ぶ統一地方選挙がおこなわれます。保険料を引き上げたり、厳しい取り立て、制裁を推奨する国 に追随する自治体でいいのか。議員・首長候補を選ぶ私たちの視点と選択が問われています。
文・多田重正記者

「税務署でもここまで取り立てない」 大阪市

genki234_03_06 “国保は社会保障とちゃいまんのか? なんでやねん!”大阪弁のシュプレヒコール。2月17日、市議会開催にあわせておこなわれた大阪市役所の包囲デモ(写真)。 同市は国保料滞納者への取り立てを異常なほど強めている。ここで女性経営者が震える声でこう発言した。「年末にこれまでの国保料の滞納分40万円を1 週間以内に一括で払え、と通知が。ここ数年、経営不振で保険料が払いきれず、国保課と相談しながら分納してきたのに『とにかく払え』の一点張り。大阪市は 保証協会から借り入れた会社の運転資金を『財産』とみなしたのです。税務署でもこんな乱暴なことはいいません」
 昨年4月~今年1月末までの間、大阪市は国保加入世帯の1割を超える約5万5000世帯の財産を調査。分納の支払いを滞らせたことのない人にも「差押予 告」が届いている。また、実行された差し押さえは、不動産や預金だけでなく、児童の学資保険にまで及ぶ。
 大阪社保協がとりくんだ国保110番にも、高すぎる保険料と差し押さえの相談が殺到。「厳しくしても効果は最初だけ。払える保険料に」と、大阪社保協の 寺内順子事務局長。大阪市長は2月22日、共産党などの追及で「学資保険の差し押さえについて、あらためるべき点がある」と表明したが、引き続く監視が必 要だ。
(『民医連新聞』木下直子)

 

特養待機者42万人

安心して介護受けられる基盤整備を

 介護保険施行から一一年。「介護の社会化」をかかげ、二〇〇〇年にはじまった介護保険ですが、「介護の社会化」にはほど遠く、介護が十分受けられなかったり、介護保険料や利用料が重荷となって、少なくない利用者、家族を苦しめているのが現状です。

利用を阻むハードル幾重も

 さらにサービス利用を阻むハードルが幾重にも存在していることが、問題をいっそう 深刻にしています。まず、要介護認定の申請が必要で、申請しても身体の状況に見合った要介護度が認められるとは限らない。そして要介護度ごとに限度額が決 まっており、必要な介護を受けているだけでも限度額をオーバーし、保険外負担が発生している人もいます。
 ▽九二歳男性、一人暮らし。年々視力が低下、脚の筋力も低下し、家事困難で援助が必要だが、本人の意思表示能力、理解度ともに問題ないため、認定が「要支援」と軽く出てしう。
 ▽八九歳男性、要介護度5。在宅での老老介護で、サービスを限度額いっぱい使っている。毎月限度額を超え、月二万円の保険外負担が。経済的負担を減らす ために通所サービスを減らし、妻の介護負担が増えている(全日本民医連「介護保険10年」検証事例調査報告ら)。
 介護基盤整備の遅れもとりわけ深刻です。特別養護老人ホームの待機者は九九年の一〇万人から四二万人へと急増(グラフ)。国は介護保険制度の導入ととも に介護基盤の整備をうたってきましたが、必要数にはほど遠い現状です。

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困難事例まとめ、県と懇談

 長野県民医連は昨年一一月、『介護困難事例集 あなたのまわりにある100事例』をまとめ、記者会見。地元紙などで報道され、「読みたい」との電話がつぎつぎ。長野県民医連に介護者や介護事業所の職員などから一五六件もの電話が寄せられました。
 記者会見後、長野県健康福祉部健康長寿課介護支援室と長野県民医連の介護職員で懇談。室長は「事例集をみせてもらった」「特養入所待機者は在宅だけでな く、施設に入って待っていらっしゃる方もいるので、次期の高齢者プランに反映したい」などの発言が。
 いま自治体は来年度の診療報酬・介護報酬の同時改定に向けて、介護保険事業計画を策定中。「遅れている特養などの施設づくり、保険料・利用料などの負担 軽減は、今度の統一地方選挙でも大きな争点になる」と話す全日本民医連・林泰則事務局次長は「現場、利用者が声をあげ、選挙後も介護保険事業計画に意見を 反映させていく運動が重要」と強調しています。

いつでも元気 2011.4 No.234

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