いつでも元気

2011年6月1日

特集1 福島原発事故 「想定外」なんかじゃない 原発ダメ、絶対。

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高円寺で原発反対を掲げて練り歩く青年たち(4月10日、JR 高円寺駅前で)

 「事故ってパニック 手におえないなら やっぱり原発ダメ、絶対!」
 東京・高円寺で「サウンドカー」が繰り出す重低音にあわせて原発反対を叫ぶデモ参加者たち。四月一〇日、高円寺中央公園で原発反対集会が開かれました。 その名も「超巨大反原発ロックフェスデモ」。地元でリサイクルショップなどを営む「素人の乱」の主催です。
 東京電力福島第一原子力発電所(福島県双葉町・大熊町)の放射能もれ事故がきっかけで開かれたこの集会で、目立ったのが若者や親子連れです。
 吉川春人さん(27、仮名)は、インターネット上で短いコメントを投稿する「ツイッター」で集会を知り、参加。インターネットで事故原因を調べるうち、 東海電力浜岡原発(静岡県)が危険な断層上に立っている事実も知りました。「原発をすぐになくせるとは思いませんが、(集会が)自然エネルギーへと政策を 転換するきっかけになれば」と吉川さんは語ります。

事故の危険性、指摘されていた

すべての電源失われ

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集会会場から路上まで人があふれて

 原発事故はなぜ起きたのか。福島第一原発は三月一一日の東日本大震災時、核分裂反応の緊急停止 に成功したとされています。しかし核分裂反応が止まってもウラン燃料は放射性物質が「崩壊熱」を出し続けるため、長期間冷やし続けなければなりません。と ころが高さ一四~一五メートルの津波が原発を直撃し、送電鉄塔(外部からの送電線を支える鉄塔)が倒壊。非常用ディーゼル発電機も津波で破壊され、すべて の電源が失われました。
 こうして炉心へ水を送り込む装置がはたらかなくなり、水が蒸発。ウラン燃料がむき出しになって自らの熱で溶け、蒸気で原子炉内部の圧力も上昇。化学反応 で蒸気から水素も生まれ、水素爆発、火災、原子炉格納容器や建屋の損傷などを招き、放射能もれ事故に至りました。
 使用済み燃料も冷やせなくなったため、運転中の一~三号機だけでなく、点検中の四号機も放射能もれ事故に。「史上最悪」のチェルノブイリ事故(旧ソ連・八六年)でさえ、事故を起こしたのは一基だけでした。

原発事故は人災

原子力発電とは

 ウラン燃料などの核分裂反応で起こる熱を利用して水を高圧の蒸気に変え、その蒸気の力でタービン(羽根車)をまわして電気を起こす発電法。
 水が失われて燃料が露出すると放射能もれ事故を起こす。日本の発電量の3割を占める。

 事故は防げなかったのか。国や東電は津波が「想定外」の規模だったからと言いますが、事実は違います。想定せよと指摘されながら、無視してきただけです。
 注目されているのが、吉井英勝衆議院議員(日本共産党)の国会質問。〇六年三月の衆議院予算委員会で、東日本大震災のような津波の「押し波」で非常用電 源が故障した場合や、逆に「引き波」(海面が低下)で、原子炉へ送り込む水を冷やす海水がとれなくなって水素爆発、炉心溶融に至る危険を指摘していまし た。
 昨年五月の衆議院経済産業委員会でも、地すべりで送電鉄塔が倒壊した例(〇五年、石川県羽咋はくい市)や、非常用電源がすべて失われた事故(〇六年、ス ウェーデン・フォルスマルク原発)などを例にあげ、巨大地震が起きれば全電源が失われる可能性があると迫りましたが、政府は「そういったことはあり得ない だろうというぐらいまでの安全設計をしている」(昨年五月、寺坂信昭・原子力安全・保安院長)と答弁。
 ところが指摘通りの事態が起きてしまいました。「東京新聞」(三月二四日)は吉井質問(〇六年)を取り上げ、「想定外」の言葉を乱用する東電・国を「人 災隠しの匂いがする」と批判。寺坂安全・保安院長も四月六日、衆議院経済産業委員会で吉井議員に追及されて、「(昨年五月の答弁は)認識が甘かった」と答 えざるをえませんでした。

事故から教訓学ばぬ国・東電

 原発がらみの事故は、今回が初めてではありません()。 中越沖地震(〇七年)でも東京電力・柏崎刈羽原発(新潟県)で火災・放射能もれ事故が起きました。原子炉の緊急停止・冷却に成功したものの、大気中と海水 に放射性物質を放出。原子炉建屋(原子炉を覆う建て物)の基礎地盤の地震計は一号機六八〇ガル(地震のゆれの単位)、二号機六〇六ガルを計測しましたが、 設計値はそれぞれ四五〇ガルでした。三号機のタービン架台の地震計は二〇五八ガルを計測し、設計値八三四ガルの二・五倍。まさに「想定外」のゆれが襲った のです。
 ところが東電はこの地震で三六六五カ所の事故・故障が起きたとしながら、大事故に至らなかったことを幸いに「安全性は保たれた」とし、原子力安全・保安院や原子力安全委員会はこれを追認してしまいました。
 同年、「原発の安全性を求める福島県連絡会」は東電に対し、「中越沖地震から何を教訓として導き出したのか。福島第一原発・第二原発全一〇基を総点検すべきだ」と求めていました。
 今回の福島原発事故でも、「人災だ」と指摘され続けてもなお「一四、五メートルの津波は想定できなかった」という東電(四月一八日、参院予算委員会で清 水正孝社長)。責任を責任として認めないようでは、事故を再発させかねません。

日本で起きた原発関連事故(例)

1995年 日本原子力開発機構高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)
冷却剤(ナトリウム)が漏れ、火災発生

1999年 核燃料会社JCO(茨城県)
濃縮中のウラン燃料が臨界事故。作業員2人が死亡。核分裂反応の状態をつかむために重要な中性子線計も設置されていなかった

2001年 東海電力浜岡原発(静岡県)
1号機で配管が点検作業中に破裂。緊急炉心冷却装置が動作不能になった

2004年 関西電力美浜原発(福井県)
3号機で冷却水の配管が運転中に破裂。蒸気と熱水が噴出し、作業員5人が全身やけどで死亡。6人が重傷

2007年 東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)
中越沖地震で火災、放射能もれ

 

原発依存やめ、エネルギー転換を

原発脱却は夢物語ではない

 福島原発事故の一刻も早い事態収束とともに、原発依存のエネルギー政策からの脱却が求められています。
 石油、石炭、天然ガス、ウランなど、限りある再生不能エネルギーではなく、水、太陽光、風力、潮力、地熱、バイオマスなど、再生可能エネルギーの活用を 広げることが重要です。事故発生で広範囲に被害を及ぼす危険の高い再生不能エネルギーに対して、再生可能エネルギーは広範囲の事故につながりにくい点も対 照的です。
 原発は日本の発電量の約三割をしめていますが、すでにドイツでは発電量の一六%を再生可能エネルギーでまかなっています。これは福島第一原発一号機の二五基分に相当します。
 日本国内でも大分県では全発電量の約二五%が再生可能エネルギーによるものです。原発依存脱却は決して夢物語ではありません。北海道稚内市では全発電量の七〇%を風力などの再生可能エネルギーでまかなっています。

過酷事故がくり返される前に

 国や電力会社、原発メーカーなどは「地球温暖化対策」「二酸化炭素削減」の口実で、原発建設を推進してきました。
 ことし二月に発足した「原子力ルネッサンス懇談会」は、元文部大臣の有馬朗人氏(元東大総長)を会長に、東京電力や関西電力など電力会社会長、原発メー カーの東芝・日立製作所・三菱重工業の会長、さらに新日鐵やトヨタ自動車の会長などもメンバーに。海外への原発輸出をうたい、「官民一体でこの受注を獲得 することは、今後の日本経済の成長戦略にとっても不可欠」と豪語していました。
 〇八年からは学校指導要領に原子力が位置づけられ、文部科学省・経済産業省作成の小中学校向けの副読本で「大きな地震や津波にも耐えられる」などと記述 していました。しかし原発は安全でもクリーンでもないことが事実で証明されました。
 ドイツでは四月一五日、首相と州首相一六人が会談、国内の原発を早期に廃止することで合意しました。私たちのライフスタイルや二四時間営業(操業)な ど、働かせ方・働き方なども見直しながらエネルギー政策を急速に転換すべきときに来ています。過酷事故がくり返されるその前に。
文と写真・多田重正記者


「2重の意味で人災」

シンポで吉井氏

 四月一一日原水協は、福島原発事故に関するシンポジウムを開催。シンポジストの一人、吉井英勝衆議院議員は福島原発事故は「二重の意味で人災」と断言した。
 一つめの人災は原発事故の危険性を指摘しても「安全だ」と対策をとってこなかった前政権から続く問題。
 二つめは電源喪失後の対応の遅れ。「電源が失われたら冷却系が動かなくなる。バッテリーが働いても七~八時間。一一日夜一〇時にはたいへんなことになる のはわかっていた。海水を投入してでも(炉心を)冷やす必要があった」と吉井氏。さらに蒸気発生で上昇する内部の圧力を弱めるために空気を抜くこと、水素 爆発防止のために窒素ガスを注入する必要があったことなどを指摘。しかし東電は海水投入を迷い、政府も東電に空気を抜くよう指示したのは翌一二日朝。この 遅れが事故につながったと批判した。


「大津波想定せず」

─元原発設計者が証言

 3月16日、NPO「原子力資料情報室」が都内で記者会見。福島第1原発の消火システムを設計した元東芝の小倉志郎氏らが発言した。福島原発設計時は、 1960 年にマグニチュード9.1 のチリ地震が起きていたにもかかわらず、「マグニチュード8.0 以上の地震は起きない」と指示され、津波も設計の条件になかったことを告白。さらに設計は米国のゼネラル・エレクトリック社に依存し、地震国日本の条件が 考慮されていなかったことも明らかにした。
 なお、日本の原発が想定している津波は最大でも北海道電力泊原発の9.8 メートルで、最小は関西電力高浜原発(福井県)の0.74 ~1.34 メートルしか想定していない。福島第1原発は5.4 ~5.7 メートルだった。

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いつでも元気 2011.6 No.236

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