いつでも元気

2011年6月1日

特集2 最近の予防接種事情 必要な予防接種はすべて法定接種(無料)に

ポリオは不活化ワクチンの導入を

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鈴木 隆
群馬・はるな生協 高崎中央病院・院長(小児科)

 「子どもの時、痛い思いをして医者が嫌いになった」「去年もインフルエンザの予防接種を受けたけど、痛かったなぁ」など、予防接種は、みなさんにとって身近でよく知られているもののひとつだと思います。
 新型インフルエンザなど、新しい病気が現れれば、それに対応した予防接種が開発されますし、昔受けた予防接種がいつの間にか消えていたりします。
 日本では、国が責任を持ってすすめる「法定接種」(定期接種。費用は国と自治体が持つ)の他に、本人や保護者が自分の責任で費用も負担して受ける「任意 接種」という2種類の制度がありますが、他の国にはないやりかたであり医療関係者からは批判されています。
 多くの国では積極的に新しい予防接種を採用し国民にすすめています。
 アメリカでは、日本に比べてたくさんの予防接種が国の制度としておこなわれています(表1・2)。 日本で任意接種とされているものには、おたふくかぜ、水痘、インフルエンザ(高齢者を除く)、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病などがありますが、予防接種を受 けていない人が増えると感染が拡がるし、これらの病気で重症になる人も少なくないので、やはり予防接種は法定接種を基本とすべきです。
 ここでは、予防接種を受ける際の注意点や、国・行政に求められている対応などについてお話ししたいと思います。

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ここ数年の新しい予防接種

 ここ1~2年、日本で受けられるようになった新しい予防接種は、ヒブ(ヘモフィルス・インフル エンザ菌b型)、小児用肺炎球菌、子宮頸がんワクチンの3つです。まだ自己負担で接種する「任意接種」の扱いですが、最近では公費負担が実現しています。 しかしこれも臨時的に予算をつけただけなので、早く「法定接種」として認めてもらう必要があります。

■ヒブワクチン・肺炎球菌ワクチン
 衛生環境や栄養状態の改善、予防知識の普及、そして抗生物質の使用などで、子どもの細菌感染症はずいぶん少なくなりました。しかし、ヒブと肺炎球菌は、 今でも乳幼児で髄膜炎や菌血症などの重い感染症を起こすことがあり、抗生物質に対しても抵抗性をもつものが多く、手強い菌です。年間数十人の子どもがこれ らの感染症で命をおとし、また多くの子どもが後遺症に苦しめられています。
 ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンの接種を導入した諸外国では、乳幼児の髄膜炎や菌血症が激減しています。日本でも今後の効果が期待されます。乳児 期の重症感染を防ぐため、生後早いうちに(現在は生後2カ月から接種可能とされています)接種することが大事です。
 これらの予防接種を受けた後に死亡した子どもがいたため、国は今年3月、一時的にこれらの予防接種を中止して調査しましたが、予防接種との因果関係は否定され、4月からまた受けられるようになりました。
 しかし「本当に大丈夫なのか」と不安な方もいらっしゃると思いますので、疑問点があれば担当医によく聞き、お子さんの体調の良いときに受けるようにしましょう。

■子宮頸がんワクチン
 近年、子宮頸がんはヒトパピローマウイルスの感染から起こることがわかってきました。子宮頚がんワクチンはこのウイルスの感染を防ぐことでがんの発生を予防するものです。
 子宮頸がんの対策はワクチンを接種するだけでなく、性に対する正しい教育の充実が重要です。同時に、定期的な子宮がん検診を公的に充実させて、検診率を 向上させることも必要でしょう。このウイルスは性交渉で感染するため、10代前半のうちに接種をしておくことが大事になります。受ける際には副反応につい て充分な説明をうけましょう。

これまでの予防接種の変更点

 これまで日本でおこなわれてきた予防接種にも、接種回数が増えたり、ワクチンの製造法を変えたものがあります。

■はしかワクチン
 はしかの予防接種は、接種方法が2回になり、中学生や高校生に対して臨時の追加接種が行われ、どんどん患者が減り続けています。しかし「患者発生率ゼ ロ」にはほど遠く、2回目の接種率をさらに高めることや、接種していない人への対応など、国にはより一層の努力と対策が求められています。

■3種混合ワクチン
 最近、大人の百日咳が増えています。幼児期の3種混合(百日咳・ジフテリア・破傷風)接種だけでは、年月とともに抗体が減って感染が広がっているのでは ないかと考えられていて、小学6年生でおこなう2種混合(ジフテリア・破傷風)の際に百日咳も加えるべきではないかという、医療関係者からの指摘もありま す。諸外国ではすでに実施しはじめた国もあります。日本でも早く検討してほしい問題です。

■日本脳炎ワクチン
 日本脳炎ワクチンは、以前の製品では重症の副反応の可能性が否定できないことから、この数年間子どもたちへの接種が控えられていました。しかし、以前の ものより副反応が少ない新しいワクチンが十分生産できるようになり、すべての対象年齢の子どもたちに接種できるようになりました。接種が遅れて心配されて いる保護者も多いため、国の責任で接種もれがないように対応してもらいたいものです。
 今後、接種できなかった子どもに対する追加措置が発表されていく予定です。かかりつけ医とよく相談して接種するようにしてください。

ポリオワクチンの後遺症

 ポリオは小児麻痺と呼ばれ、1950~60年代までは日本でも大流行し、毎年1000人以上の 患者と100人以上の死亡があり、麻痺の後遺症に苦しむ子がたくさんいました。1960年には大流行し、5000人の患者が報告されています。翌年、旧ソ 連などから生ワクチンが緊急輸入されて、患者発生は劇的に減り、終息しました。
 このようにポリオ生ワクチンは大変優れた効果がありポリオ流行を抑えられます。
 日本ではこの30年間、ポリオの自然発生患者は出ていません。しかし、生ワクチンは、ごくまれに体の中でウイルスの病原性が戻ることがあり、ワクチンが原因で麻痺症状が現れることがあります。
 厚労省の公式の文書ではポリオワクチンを飲んだ子どもの450万人に1人、飲んだ子どもの家族が接触することによって550万人に1人の割合で、このよ うな麻痺患者が発生するとされていますが、実際には毎年2~3人出ているようです。

副反応のない不活化ワクチン

 しかしポリオワクチンは、毒性を弱めた生ワクチンをやめて、ポリオウイルスが存在しない注射に よる“不活化ワクチン”と呼ばれるものに変えることで、麻痺患者の発生を防ぐことができます。不活化ワクチンを使用している国ぐにでは、ワクチンによる麻 痺の副作用は起きていません。
 世界的にみると、インド周辺やアフリカなどを除くと、自然発生によるポリオの流行はなくなりました。多くの国では「生ワクチンによる麻痺患者の発生は問 題だ」と考え、不活化ワクチンに切り替えています。3種混合と同じ時期に注射するので、3種混合と一緒にした“4種混合ワクチン”を注射している国がたく さんあります。
 日本では、今もポリオ生ワクチンによる麻痺患者が毎年発生しています。100万人に2人前後という割合であっても、患者さんは歩行が困難になるなど、後 遺症に一生苦しみます。後遺症は不活化ワクチンにすれば防ぐことができるわけですから、早く不活化ワクチンに切り替えるべきです。切り替えても費用はそれ ほど変わりませんし、現に多くの諸外国ではすでに実行しています。

より安全な不活化ワクチンの導入を

 日本の厚労省の動きは遅く、現在いくつかのメーカーで「3種混合と一緒にした国産不活化ポリオワクチンを開発中」という段階です。年内にはできあがり、厚労省に認可申請が出されると聞いていますが、一日も早く接種が実現されることが求められます。
 昨年12月、民医連の小児科医師たちが、予防接種の改善を求めて厚労省に要請しました。その席で「ポリオについては国産のものができるまで待たず、いま 世界中で使われている不活化ワクチンを国の責任で輸入したらどうか」と申し入れました。厚労省は「そのつもりはない」という回答でした。
 ポリオ生ワクチンによる麻痺はマスコミでも取り上げられ、不活化ワクチンを望む保護者は増えています。

家庭の経済状況とワクチン接種状況

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イラスト・井上ひいろ

 私たち民医連は、お金のあるなしで、いのちや健康に差別があってはならないと考えています。医療費が心配で受診や治療を控えること、ましてや子どもたちが、親の経済的な事情の影響をうけることは、絶対にあってはならないことです。
 そのためにも、少なくとも子どもの医療費は全国一律窓口負担なしにすべきだと考えます。一部の自治体では、すでに中学生までの医療費無料制度もはじまっています。
 任意接種は基本的に有料なので、1回数千円から1万円を超えるような高いお金を出して受けなくてはなりません。ヒブ、肺炎球菌、子宮頸がんワクチンは、 多くの方がたの運動の成果として国や自治体による公費負担がはじまりましたが、これは今のところ今年度限りの予算措置です。また、おたふくかぜ、水ぼうそ う、インフルエンザなど、有料の予防接種はたくさん残っています。
 私たち民医連の小児医療委員会では、「家庭の経済的状況によって、有料の予防接種を受けているかどうか、格差があるのではないか」と議論し、調査をおこなっています。

接種の有無には経済格差が影響

―小児医療委員会の調査より

 高崎中央病院の調査結果を示しました(表3)。保険別に調 べたのは、国民健康保険の世帯と、雇用者保険(健保)の家庭には、収入に差があることがわかっているからです(2006年の報告で1世帯あたりの所得は国 保131万円、健保370万円)。なお、当院のある高崎市では、ヒブは1回1000円の公費補助、肺炎球菌と子宮頸がんは全額自己負担でした。
 当院にふだん受診している子どものうち、15~6%が国保世帯ですが、肺炎球菌や子宮頸がんのような1回1万円を超えるようなワクチンは、国保世帯ではほとんど受けていなかったことがわかりました。
 2月に兄弟で肺炎球菌ワクチンを受けた家族が5組いましたが、そのうち3組は国保の世帯でした。今まで高額の料金が経済的な負担になり、受けたくても受 けられず、無料になるのを待っていたのではないかと思われます。経済状態に関わらず、すべての子に同じように受けてもらうためには必要な予防接種はすべて 法定接種にして、自己負担なしにすることが、公衆衛生からも、一人ひとりが健康に生きる権利を持っているという観点からも、決定的に重要だと言えます。

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いつでも元気 2011.6 No.236

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