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2011年12月1日

特集2 アトピー性皮膚炎 悪化誘因対策が大切 ステロイド軟こうも上手に使って

症状悪化は社会的要因にも注目を

アトピー性皮膚炎とは

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安達克郎
大阪・茨木診療所
所長

 アトピー性皮膚炎とは、アトピー素因をもつ人がくりかえす慢性の湿疹です(表1)。かゆみをともない、湿疹はほぼ左右対称にできます。
 アトピー素因とは、気管支ぜん息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎を本人または家族が持っている人、またIgE抗体(外から侵入してきた異物から体を防御する物質)をつくりやすい体質のことです。
 乳児期は顔に、幼児期は首・肘・膝に、青年期になると顔・首・上胸・背部や体全体にというように、年齢によって湿疹のできる部位が変化していくのが特徴です。

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原因は?

 アトピー性皮膚炎の原因は、本人が持っている要因と、環境による要因の2つが考えられています(表2)。
■本人が持っている要因
(1)皮膚の過敏性や皮膚の弱さ
 皮膚を外部から守るバリヤー機能(保湿能、感染防御能、修復能)の低下
(2)アレルギー体質
 小児の場合、80%くらいが関わっているとされている
■環境による要因
(3)アレルゲン(アレルギーの原因となる物質)
 食べ物、ホコリ・ダニ、ペット類、花粉、金属など
(4)皮膚に触れる刺激物質
 よごれ、汗、日光、衣服、洗剤、細菌、かび
(5)化学物質
 添加物・残留農薬、ホルマリンなど
(6)物理的・精神的ストレス
 睡眠不足や人間関係

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スキンケアを基本に

 アトピー性皮膚炎の治療は、まずはスキンケアが基本です。以下の3点をおこなったうえで、軟こうを上手に使います。
(1)肌着は木綿で肌ざわりのよいものを着用する。
(2)洗剤は合成洗剤より石けんを使用する。柔軟材や漂白剤は使用しない。
(3)毎日入浴する、もしくはシャワーを浴び、石けんで体を洗い、汚れや汗を取り除き清潔にする(石けんをよく洗い流すこと)。
 そして、今ある湿疹を軽くするために、ステロイド軟こうを使います。過去には「ステロイド軟こうが原因で悪化するのではないか?」と言われ、「脱ステロ イド療法」などがおこなわれていましたが、今は「ステロイド軟こうを上手に使って炎症を抑えることが重要だ」と考えられるようになりました。   

アレルゲン対策も重要

 次に大事なのが「悪化誘因対策」です。アレルギーのある人はアレルゲン対策が重要です。低年齢では食物アレルギー対策、年長になるにしたがって吸入抗原(呼吸とともに体内に入るアレルギー物質)対策のための住環境整備が重要になります。
 盲点は洗濯時に使う柔軟剤です。胴体の部分の湿疹がひどい人に柔軟剤が原因となっている場合が多くあります。悪化誘因対策が適切にできないと、ステロイド軟こうを塗る量が減らせません。

生活習慣・食生活の改善も

 3つ目に大事なのは、生活習慣の改善です。
 食生活では、添加物の多い食事、甘いもの、油の多いものはよくありません。洋食より和食、パンよりごはん、肉より魚です。
 夜ふかし、食べすぎ、便秘もよくありません。物理的・精神的なストレスも成人の皮膚炎の症状を悪化させます。特に睡眠と規則的な生活リズムの確立が大切です。
 大学入学を機に親元を離れ、ひとりで生活するようになって、急激に全身に湿疹がひろがった患者さんがいました。食事は気をつけて自炊していたそうです が、「時給が高いから」と深夜帯にコンビニエンスストアでアルバイトをしていたそうです。深夜のバイトを止めると数カ月で軽快しました。この患者さんは 「規則正しい生活をして睡眠、食事を規則正しくとることがとても重要だとわかった」と、しみじみ語っていました。

軟こうの上手な使い方・やめ方

 「ステロイドを使い続けると症状が悪化する」という恐怖があって、ステロイド軟こうを上手に使 えていない人がまだ多いように思います。ステロイドは、強力な抗炎症、抗アレルギー、免疫抑制作用があり、たいていの湿疹に効果があります。ステロイド軟 こうはその効果の程度によって5段階に分類され、湿疹の重症度に応じて使い分けます。どのランクのステロイドを使うかは、湿疹の重症度、年齢、部位などを 考えて選択します。湿疹のひどさは、赤み・じゅくじゅく・腫れ・皮膚のごわごわ、などで判断します。
 どこにどのランクのステロイド軟こうを使うか、そしていつ止めるかは、外来診療で患者さん(親)がマスターできるまで指導しています。
 ステロイドを塗れば湿疹は必ずよくなります。塗っているのによくならない場合は、塗る量を増やすか、1ランク上のステロイドを使います。1回に塗る最大 量は、大人の手のひら2つ分の広さに、0・5g(1フィンガーチップユニット=薬を塗るときの単位で、指先から第一関節までチューブから出した量)です。 ただし、湿疹が感染している場合は、ステロイドを単独で使うと悪化することがあるので、注意が必要です。
 湿疹がよくなった箇所は、ステロイド軟こうを塗るのを止めます。私はわかりやすいように、「赤みが消えたら塗るのを止める」ように言っています。
 これは一般的な傾向ですが、ステロイド軟こうを止めるのが早すぎ、止めることで湿疹がぶり返す例が多く見られます。慢性の湿疹になった箇所には、かゆみ を感じる神経が通常の3倍ほどに増えてしまっているので、見た目で湿疹がよくなってもちょっとした刺激でかゆみを感じてしまい、ひっかくことで「ぶり返 し」を起こします。湿疹がない状態が1カ月ほど続くと、かゆみを感じる神経が死んでいき、ステロイド軟こうを止めてもぶり返しが少なくなります。ぶり返し を防ぐため、患者さんにはステロイドを上手に使って1カ月間湿疹のない状態を保つように伝えています。
 ステロイドが減量できない、たびたび再発をくり返す場合は、悪化誘因を再検討する必要があります。これは医師と患者さん(親)との共同作業です。いろい ろな悪化誘因があるので、患者さんの生活実態も含めていっしょにくわしく検討します。

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新しく使えるようになった薬

 今の治療では、プロトピック軟こう(免疫抑制剤のひとつ)も利用できるようになりました。
 この軟こうは、ステロイド軟こうの第3段階の使用に該当する症状よりも、やや弱い炎症を抑える作用があり、顔面や首の湿疹に効果があります。ただ、塗り 始めに灼熱感やぴりぴりとした感じが起こるので、先にステロイド軟こうで強い炎症を抑えてから使用すると使いやすくなります。紫外線にあたるのをできるだ け避ける必要があり、夜に1回塗るのがいいでしょう。
 症状が中等度以上の人は、アレルギーの炎症を抑える作用のある抗アレルギー剤、かゆみを抑える抗ヒスタミン剤、食物アレルギーのある人はインタール内服薬や漢方薬を服用してもらっています。

教訓的な患者さんの例

 近隣では有名な皮膚科に通っていた60代のSさん。5年前から全身の湿疹が悪化し通院をしてい るが、「一向によくならない」と当診療所を受診。全身引っかき傷だらけで、いかにもかゆそうでした。事情を聞いてみると5年前から「アトピーによい」と言 われている会社の洗剤・スキンケア用品を利用してから悪化してきたことが判明、その製品を止めると見る見るうちに改善しました。
 「皮膚科、小児科に通ったがよくならない」と受診した食物アレルギーのある5カ月の赤ちゃん。顔面にひどい湿疹があり、治りかけるとひっかいてひと晩で 再びじゅくじゅくした状態になるということをくり返していました。この場合は「ひっかかせないようにする」のがポイントです。お母さんにふた晩ほど赤ちゃ んを後ろから抱いて、両腕をつかんでソファーに座って寝るように伝えると、1週間後の受診時には、見違えるように改善していました。除去食(アレルギーの 原因となる食物をのぞいた食事)も併用し、2歳になった今、周りからも「驚くほどきれいになった」と言われています。
 脱ステロイド療法が世間の注目を浴びていた頃、「1年間ほどステロイドを使わない医院に通っていたが改善しない」と当診療所を受診した10歳の女の子が いました。全身に湿疹があり、かゆくて夜も眠れず、しばしば学校を休んでいるとのこと。まずは、ステロイドの使い方を指導し、2~3カ月で改善しました。 その後はステロイドを使わなくても湿疹の悪化は見られず、「この1年間の苦労は何だったのか」と親はため息を漏らしていました。 
 1例目は悪化誘因を見つける、2例目はひっかかせない工夫、3例目はステロイド軟こうを上手に使うことで改善した、教訓的な例です。

民間療法について

 アトピー性皮膚炎の標準的な治療をおこなわず、民間療法のみに頼るのはよくないと思います。大 阪のあるアトピー性皮膚炎治療で有名な病院の皮膚科の医師が、民間療法について「患者さん自身が使用して効果があったか、なかったか」をアンケートで調べ たことがあります。その医師いわく「民間療法についての意見を求められるが、自分は試していないので、いいアドバイスができないから」と調査したのでし た。
 調査の結果、通院患者さんの90%が民間療法を併用していたことに、その医師は驚いていました。この結果によると、1位は海水浴で70%が有効、2位が 温泉療法で60%近くが有効、続いて超酸化水などと続きます。クロレラ、プロポリスなどはほとんど無効でした。プラセーボ効果(効果がない薬でも効果があ ると錯覚すること)が30%あるといわれているので、30%以上の方が「効果があった」と回答した民間療法は試してみてもいいでしょう。
 劇的に効果のあった療法は、私の経験では海水浴と温泉療法でした。民間療法はあくまでも標準的な治療の補助療法でしかありません。また、アトピービジネ スと言われるようにもうけ本位の業者が多いので、注意が必要です。

ウエットラップ療法

 いま、食物アレルギーの除去食品やスキンケア用品など、多くのアトピーグッズが販売されています。
 その中で私のおすすめは、「チュビファスト」という筒状になった網状の包帯です。これを使ってウエットラップ療法(お湯で濡らした包帯で湿疹の箇所を覆 う療法。冷涼感が感じられるためかゆみがおさえられ、保湿効果で皮膚状態の改善も助ける)をおこなうと、有効な外用薬による治療においても効果が上がりま すし、ひっかき予防もできます。

社会のあり方にも目を向けよう

 アトピー性皮膚炎は、これまでお話ししたような標準的な治療で、多くの人は日常生活に困らない ようにコントロールできると思います。一方で、どの病気でもそうですが、非常に重症な人が10~15%程度いることも現実です。しかし重症な人でも、信頼 できる主治医のもとで悪化誘因の検討や治療法の選択など、模索をくり返しながら治療を続けていくと、何とか道は拓けるものです。
 治療上は、悪化誘因対策がもっとも重要だと思います。また、患者会などがあると、情報交換やおしゃべりができ、ストレス解消にも役立ちます。そして、経 済的な問題や長時間労働、環境問題など、アトピー性皮膚炎を悪化させる社会のあり方にも目をむけ、変えていく必要があると思います。
イラスト・井上ひいろ

いつでも元気 2011.12 No.242

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