声明・見解

2009年5月16日

【声明2009.05.16】産科医療補償制度の抜本的な見直しと充実を求めます

 2009年5月16日
全日本民主医療機関連合会理事会

 2009年1月1日から産科医療補償制度が開始されました。全日本民主医療機関連合会(以下、全日本民医連)は、医療機関の過失の有無に関わらず医療事 故被害者を救済する制度の第一歩として評価しつつも、問題点も多いことから、抜本的な制度の見直しとその充実を求めます。

 従来、脳性麻痺は未熟児(低出生体重児)・新生児仮死・黄疸が主な原因とされ、周産期医療 の過程で発生することが多い症例とされてきました。周産期医療の進歩により発症のリスクが減少するとともに、医療行為の内容に関わらず出生数に対して一定 の比率で発生することが明らかになっています。本制度による補償対象は、一定の基準を満たす状態(出生体重2,000グラム以上、かつ妊娠33週以上)で 出生した脳性麻痺児に補償が限定されています。この基準について合理的な説明はできず、被害を受けた人たちの不公平感を募らせることが懸念されます。私た ちは、制度の除外規定の撤廃を求めます。原因の如何にかかわらず、障害を持って生まれてきた児に対して、この世に生を受けた一人の人間としての生存を保障 することは、日本国憲法の基本理念である「基本的人権の尊重」であり、国が責任を持つべきものです。そのためには、社会保障費の大幅な拡充こそ必要です。

 制度加入は医療機関が対象とされていますが、保険掛け金は分娩料への上乗せとなって、妊産 婦自身が医療機関に支払う仕組みとなっています。妊産分娩料の未収金が問題になる中で、場合によっては、医療機関の掛け金持ち出しになる可能性もありま す。また、医療機関が制度を活用するにあたって生じる、新たな事務量増加に伴うコストについても手当てすることが必要です。医療機関の負担増とならないよ うな制度設計が必要です。
 基金の運用については透明性が確保される必要があります。年間分娩数を約100万件とすると、保険料収入は年間約300億円となります。補償対象者を 800人前後と推計した場合、年間の補償金総額は240億円となり、多額の余剰金が生じるとの指摘もあります。厚生労働省は事務コストなどの運営経費を 45.2億円と見込んでおり、大幅な剰余金は生じないとしています。しかし、本来基金の運営は民間の損害保険会社任せにするべきものではなく、そもそも国 が責任を持つべきものです。収支については国民に明らかにし、実態にあった必要な見直しを行うことを求めます。

 我が国では、医療事故の被害者を救済する公的制度が存在せず、被害者は医療機関の過失が明 らかでなければ何の補償も受けられないことに大きな問題があり、なかには長期間に渡る裁判をたたかわなければならないケースもあります。根本的には、国が 責任を持つ被害者救済機構の創設(国庫補助・基金創設)が求められ、産科医療補償制度を足がかりに、すべての医療事故を対象とした制度に発展させることが 必要と考えます。同時に、第三者機関による原因究明・再発防止機構の創設や裁判外処理機構等の連携した制度の整備が重要です。制度設計には、患者団体・市 民も参画するべきと考えます。

以 上

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