いつでも元気

2012年1月1日

特集2 虫歯予防 「歯みがき」「正しい食生活」「定期的な受診」を基本に

 私は、相互歯科に入職して4年になります。研修期間中から小児チームに参加し、診療にあたってきました。まだ短い経験ですが、当院の小児チームの経験も踏まえて、『子どもの虫歯』についてお話しします。

虫歯を予防するための基礎知識

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濱野陽子
東京・健生会
相互歯科・歯科医師

(1)虫歯の原因 
(歯・細菌・食べ物・時間)

 虫歯はどのようにできるのでしょうか?
 「ミュータンス菌」という言葉を耳にしたことがあると思います。これは多くの人の口の中にいる細菌のひとつで、歯にくっつきやすい特徴があります。
 この菌が歯の表面(エナメル質)に定着すると、主にショ糖(砂糖)を利用してネバネバして溶けにくい物質をつくります。歯の表面にできたネバネバ物質が プラーク(歯垢)です。このプラークはミュータンス菌をはじめ、さまざまな細菌のすみかになります。
 プラークの中の細菌は、口に入ってくる食べ物の糖分を利用して酸をつくります。この酸により歯が溶けて、虫歯ができるのです。
 つまり「歯」「細菌」「食べ物」の3つの要因がすべて重なりあい、その状態が維持されたときに虫歯になるのです(図1)。

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図1 虫歯の原因4つの「輪」

(2)虫歯の進行
 子どもの虫歯は大人と比べ、進行が早く、注意が必要です。虫歯は進行の度合いに応じて4ステージ(段階)にわけられます(図2)。

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図2 虫歯のできる4段階

(3)虫歯になりやすいのは
 ご存じのように、乳歯は上下あわせて20本です。生後半年を過ぎると下の前歯が生え、3歳前後で乳歯列が生えそろいます。
 6歳前後になると下の前歯が生えかわります。一番奥は生えかわるのではなく「第一大臼歯(6歳臼歯)」と呼ばれる歯が生えてきます。他の乳歯も生えかわ り、全部で28本(第3大臼歯を含めると32本)の永久歯列が生えそろいます(図3)。
 虫歯になりやすいのは、1?2歳では上の前歯(上顎乳前歯)、3歳前後は奥歯の溝(乳臼歯のかみ合わせの面)、4?5歳では奥歯の歯と歯の間(乳臼歯の間)です。
 第一大臼歯の溝(かみ合わせの面)も虫歯になりやすい場所のひとつです。

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図3 乳歯列と永久歯列

虫歯予防の実際

 では、虫歯はどのようにすれば予防できるのでしょうか。
 虫歯の原因の1番目は歯の「形」と「質」です。歯の質を強くするためにはフッ素配合歯磨剤を使用したり、フッ素を歯に塗ったりする予防法があります。
 生えて間もない歯は、フッ素を歯の表面へ取り込みやすいため、質を強くするのに有効です。また、先ほども述べたように臼歯のかみあわせ面の溝などはプ ラークが付着し、虫歯になりやすい場所です。こうした虫歯になりやすい歯の溝(小窩裂溝)をセメントやプラスチックで埋めて予防する、シーラントという方 法もあります。
 2番目の原因は「歯みがきの不十分さ」です。虫歯の原因となるミュータンス菌は周りの生活者からの影響をうけると言われています。
 「細菌」を予防するには、歯を磨いてプラークを取り除くことが大事です。
 食べかすは唾液やうがいで取り除くことができますが、歯の表面に着いたプラークは、歯ブラシを使わない限り、取り除けません。
 子どもが歯ブラシを口のなかに入れても嫌がらないように、歯が生える前から、顔や口の周りを触ったりしましょう。
 指しゃぶりをしたり、おもちゃを口に入れたりすることで、口のなかに「何かを入れる」ことに慣れ、歯ブラシを使う抵抗感・過敏反応を減らすことができます。

基本は歯みがきと食生活

 虫歯の原因の3番目は「食べ物」、4番目は「時間」です。
 そこで予防のためには「だらだら食べる」「野菜ジュースやスポーツ飲料など、砂糖入りの飲み物を一日に何回も口にする」ということを避けましょう。間食が「甘食」にならないようにしましょう。
 甘いものを食べるときは、砂糖ではなくキシリトール入りのものを利用することも有効です。キシリトールは砂糖の代わりとして使われる甘味料で、歯を溶かす酸を産生しないため、砂糖より虫歯になりにくいと言われています。
 このように虫歯の予防法はさまざまありますので、これらを上手く組み合わせることで、効果も高まります(図4)。
 ただし「フッ素を塗れば大丈夫」「キシリトール入りのガムを噛んでいるから大丈夫」ということはありません。口腔内の健康を保つための基本は(1)歯み がき、(2)正しい食生活、(3)定期的な歯科受診の3つです。これは子ども・大人に関わらず、虫歯予防の基本です。甘いものを多く食べている子や歯みが きが上手くできていない子は、やはり虫歯が多いように感じます。
 虫歯予防についてはたくさんの情報があふれており、かえって何が正しいのかわかりにくいかもしれません。気になる事があれば、この機会にかかりつけの歯科で相談してみてください。

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図4 虫歯発生要因と対応する予防・抑制策(文部科学省資料より)

生活困難が子どもの歯に影響

 学校保健統計書によると、近年、小学・中学・高校生の虫歯は減少していると言われています。しかし当院では、深刻な子どもの虫歯事例もみられます。事例を紹介します。

genki243_03_06〈症例1〉
 3歳男児(写真1)。前歯、上の奥歯に虫歯があります。
 父はリストラにあい無職、母は非常勤で仕事を掛け持ちして、昼夜働いています。

〈症例2〉
 4歳女児(写真2)。前の歯が虫歯で溶けて、奥歯にも大きな穴があいています。夜遅くまで働いている母との二人暮らしです。

 このような子どもの深刻な虫歯は、単に「歯みがきができていない」「親の手抜き」といったこと ではなく、親のさまざまな困難な状況が子どもにふりかかっていると考えたほうがよいと感じています。図1で紹介した「4つの輪」の原因というより、それ以 前の、貧困、一人親など生活環境上の問題だと思います。
 昨年10月末に開催された全日本民医連第10回学術・運動交流集会では、「子どもの貧困」をテーマにシンポジウムがおこなわれ、その場でも、生活困窮か ら医療機関を受診できないなど、経済格差が健康格差を生んでいる実態が報告されました。

歯みがきの方法

 下の乳前歯が生えはじめたら、ガーゼや綿棒で歯をやさしくぬぐいましょう。上下乳前歯が生えそろったら歯ブラシでやさしくみがきましょう。夕食後の歯みがきを、楽しく習慣化していくことがポイントです。
 小学3年生ごろまでは保護者による「仕上げみがき」が必要です。仕上げみがきは、軽い力でみがきましょう。力の強さは100~150グラム程度の力で十分です。キッチンスケール(調理用の計測器)などに歯ブラシを押しつけて、強さを確認してみましょう。
 仕上げみがきをする際は、虫歯のできやすい箇所に注意して、丁寧にみがいてください。

虫歯を放っておくと

 「乳歯が虫歯になっても、いずれは生えかわるから」と虫歯を放置すると、永久歯に思わぬ影響が出ます。
 乳歯の虫歯が重症化して歯の根の先に膿がたまってしまうと、乳歯のすぐ下に埋まっている永久歯の成長を妨げることがあります。また、乳歯には永久歯が生 えてくる場所を確保するという大切な役割があります。乳歯をひどい虫歯にしたり、早い時期に失ってしまうと、隣り合う歯がぽっかりと空いたスペースに移動 してきてしまい、永久歯の生えるスペースが確保できなくなって、歯並びが乱れたり、永久歯が生えてこない場合があります(図5・6)。
 その他にも、「歯が痛い」「かみ合わせが悪く十分に食べ物をかめない」などの状況が続くと、子どもの心身の発達や健康にも悪影響を及ぼします。

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図5 永久歯の成長をさまたげたり…
図6 永久歯が生えてこないことも…

虫歯の治療方法

 たとえ虫歯ができても、きちんと治療して、それぞれの子どもたちにあったケアをおこない、おいしく食べたり、楽しくおしゃべりができるようになることが大切です。
 虫歯治療の基本は、乳歯・永久歯とも、虫歯になっている部分を削り、白い樹脂や銀歯、かぶせ物をして、削った部分を修復することです。
 小さな虫歯の場合は、1~2回の受診で治療が終わります。しかし虫歯が大きく、歯の根にある神経にまで到達している場合は、神経を取り除く必要があります。この場合、受診回数はもう少し増えます。
 また、乳歯の下から生えてくる永久歯を考慮して、虫歯になった部分の神経のみを取り除き、健康な神経を残す場合もあります。
 もっともひどい虫歯の治療では、歯を抜く(抜歯)こともあります。
genki243_03_09 乳歯の抜歯の場合は、抜歯後に歯並びに悪影響を及ぼすことがあります。したがって、永久歯が生えてくるスペースを確保するための装置(保隙装置・写真3)をつけ、健全な永久歯のかみ合わせになるように、歯の生え方を誘導していくことがあります。この場合は長期間通院する必要があります。ちなみに、この装置には健康保険が適用されず、全額を負担しなくてはなりません。

保険で良い歯科治療を

 かみ合わせを守るために必要な保隙装置に健康保険が適用されないなど、現在の歯科医療には健康保険が“適用されない”治療が多数存在します。
 このほか、歯並びが悪いなどの理由による矯正治療、インプラント、金属床の義歯、セラミックを使った差し歯なども保険治療でおこなうことができないなど、歯科医療における保険適用は医科と比べて大きく遅れています。
 受診時の窓口負担も高く、「経済的理由」によって治療を中断せざるをえなくなり、「口腔崩壊」としか形容できない深刻な事態が、子どもから高齢者まで広 がっているのです。虫歯にならないように各家庭、個人が予防の努力をするだけでなく、「虫歯になっても、安心して歯科医療が受けられる」環境を、国や自治 体の責任で整えることも必要です。
 「口」の健康は全身の健康にとっても重要です。これをきっかけに、ご家庭でもう一度、口の中の健康に目を向けていただければ幸いです。
イラスト・井上ひいろ

いつでも元気 2012.1 No.243

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